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墓地々々でんな  作者: 葛屋伍美
幕間4
101/171

歴史を振り返って、私は名馬達の勇姿を見返していく・・・その強さの謎に迫った私は、今日の同じコースで走る名馬を見つけることが・・・。

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 ぬらりひょんだけが消えた一室。

 今は落ち着いた様子で大天狗は腕組みをしながら、ナナシは相変わらずニコニコして、二人は円卓を囲んで座っている。



「・・・まったくもって、高天原の連中はあいも変わらんな・・・。」

 大天狗はそう言いながら、ぬらりひょんが残した茶請けを頬張る。



「あの方々にはあの方々なりの考えがあります・・・私達がどうこう言おうが何かが変わることはありません。」

 ナナシは大天狗の批判も何処吹く風と受け流す。


「霊界の統治を任されているオヌシがそういうなら、ワシから何かを上に言うつもりは無い。だが、少年に対しては、もし上が少年の望まぬことをするならば、小さき抵抗はさせてもらう・・・。」

 大天狗は腕組みをしながら、静かな怒りを言葉に乗せて、ナナシの残している茶請けに目をやる。ナナシは当然かのように茶請けを大天狗に渡して、大天狗はそれも頬張った。


「しかしながら・・・ワシにも気になる事がひとつある?」

 大天狗は腕組みする左手だけをアゴに持っていき、アゴを触りながらナナシに話を切り出す。


「なんでしょう?」

 ナナシは首をかしげながら大天狗の問いに備えた。




「・・・ぬらりひょんの思考と重なるのはシャクじゃが、少年の強さについてだ・・・。」

 大天狗はポツリと少し不満げに言葉を呟く。




「・・・・・・。」

 ナナシはニコニコしながらも黙っている。


「少年は確かに善人じゃろう・・・霊界ではそれが何よりも大事・・・じゃがしかし、強すぎる。ろ組の悪霊ならともかく、い組・・・ましてや、妖怪化しようとした悪霊まで、造作なく滅消めっしょうしたと聞く・・・いくらなんでも、何十年も魂を磨き上げたものですら、そうそう到達できぬ次元を有に越えておる。異常じゃっ・・・。」

 大天狗はそこまでいうと椅子に身体を預けて、真剣な目でナナシを見て、返答を待つ。




「・・・・・・私が何か手心を加えたと?」

 ナナシは大天狗の望む言葉を口にした。が、疑問を更に呈するように言う。




「・・・違うのか?」

 大天狗はナナシの言葉をさらに問い返す。


「フフフッ、私は霊界の管理を任されている者ですよ・・・決して誰かを選んで、エコヒイキをしたりしませんよ。」

 ナナシは大天狗の真剣な目を受けきって、真正面から笑い飛ばす。


「・・・しかしだな・・・。」

 大天狗はナナシのキッパリとした返答に納得できないようで、一歩も引かない。


 大天狗の不満そうな顔を見ながら、ナナシはニコニコと表情を崩さない。

「・・・善朗君は善人です・・・その短い人生の善行だけでは納得できないのであれば、輪廻の揺り戻しなのではないでしょうか?」

 ナナシは一切笑顔を崩さずに大天狗に堂々とそう答える。


 未だ解答に不満そうな大天狗だったが、肩をすぼめて、表情を緩める。

「・・・分かった。ヌシがそこまで言うならば、そうなのだろう・・・茶請けはさすがにうまかった・・・ワシも失礼しよう。」

 大天狗はジッとナナシの細い目をしばらく見た後、観念したように目線を外し、静かに席を立って、部屋から出て行った。







「・・・納得されてないみたいね。」

 大天狗が出て行ったナナシ一人と思われた部屋に女性の声が響く。


「・・・気晴らしにしては、少々やりすぎのような気がしますが・・・。ぬらりひょんは気付いていたみたいですよ。」

 ナナシは突然聞こえてきた声にも動揺する事無く、大天狗が出て行った扉をニコニコと眺めている。そして、右手に握りこんでいた何かを人差し指と親指で挟んで、誰かに見えるように顔の位置まであげる。


「あらっ・・・さすがね。」

 闇の中から姿を現した伊予がナナシが掴んでいたモノをサッと奪って、ニコリと笑う。


大神おおかみ戯れ(たわむ)も程ほどにしていただきませんと・・・。」

 ナナシはそう言いながら、サッと席から立ち上がり、伊予に向かって会釈をする。


「ツクヨミみたいに固い事いわないの・・・息抜きなんだから。」

 大神と言われた伊予はナナシを軽くあしらう。


「差し出がましい事でしたか・・・もうしわけありません。」

 ナナシはニコニコしながら再度軽い会釈を伊予にする。



「・・・それにしても、奇妙な巡り合わせね・・・私達の子がよりにもよって、善朗君に惹かれるのも・・・。」

 伊予がニコニコしながら出入り口の方を見る。



「オホンッ・・・大神、その言い方は御幣ごへいがありますので・・・。」

 ナナシの笑顔が始めて曇る。


「はいはい、私達、皆の娘ね・・・これでいい?」

 ナナシの指摘にやれやれと呆れながら伊予は言葉を言い換える。


「ありがとうございます、大神・・・我々、皆の娘、乃華はいい子です。乃華が選ぶのならば・・・それは正しい道です。」

 ナナシは笑顔を取り戻して誰に言うでもなく、そう話す。


「貴方の後継者として、生まれたはずなのに・・・それでもいいの?」

 伊予がニッコリと笑って、ナナシに尋ねる。



「・・・それも含めて、神のさいの目の中ということです。」

 ナナシも負けずににこりと笑い、伊予にそう答える。



「フフッ、神様がいうなら間違いないわねっ。」

 伊予はナナシの言葉にクスリと笑った。


「・・・善朗君には、望まぬ運命を背負わせてしまったわね。」

 伊予は笑顔を崩し、そう続ける。


 伊予の後方に従えていたナナシも真剣な顔をして、口を開く。

「しかし、あの子でしか成し得ない運命なのかもしれません。私としても、間違った人選とは思いません・・・彼だからこそ、私はやり遂げてくれると信じております。」

 ナナシは全てを信じ、善朗に託すようにそう話す。




「・・・全ては神の賽の目の中・・・ね・・・。」

 伊予はそう言うと目線を虚空に向けた。





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