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黒い紳士 4

書いてたら深夜に!


どうぞお付き合いくださいませ、おね!

 流れ続ける噴水。それに対比するように世界は流れるのをやめていた。

 活気などはどこにもない。時間を感じさせるのは自身の鼓動のみ。


「おい猫、どう思う」


 地面に伏せ伸びているタルトに話しかける。しかしやはり、返事はない。

 仕方がないのでタルトの背中を摘み上げ、噴水に放り込む。


「……ぶっヴぁ! ぷはっ何するにゃこのタコ!」


 どうやら効果テキメンだったらしい。

 オッサンにタコか、ねじり鉢巻でもしてたこ焼き屋はじめるか――


「おうっと」


 飛来してきたタルトを身を引いて躱す。

 どうやらこの猫は状況をわかっていないらしい、どうしたものか。と考えていると、二発目の飛び蹴りが襲う。

 これもいなす。いなしついでに足を引っ掛けた。

 勢いが強かったらしく顔面スプリングを繰りだしったタルト。三回転半繰り出しての顔面着地は見事だった。


「落ち着いたか?」


 冷淡に確認する。ダイキチの目はインファイトをしていた時と違い笑っていない。

 上半身だけ起き上がったタルトが鼻血を垂らして恨めしそうにダイキチを見ている。

 人気のなくなった広間に一人座り込む姿。枯れた空気を感じる。


「……なんだよ」


 やはりバカなのだろうか。周りの異変に気づく様子はない。いや、むしろ気づかないくらいに真剣なのか。


「……なんでそんなにあたしのこと嫌うんだ」


 意外なことに語尾がついていない。よくよく考えると語尾特定の単語ではなかったが、「にゃ」がついていないタルトを見るのは初めてだった。

 タルトの顔が半泣きなのが分かる。その幼い容姿のせいか、ダイキチの心にバツの悪いものをもたせた。

 とにかくこのままでは、タルトとの喧嘩を終わらせないことには展開が進まないと悟った。


「……俺は猫が苦手なんだよ」


 嘘はついていない。

 タルトの耳が逆立っている。ご立腹なのか驚嘆なのかよくわからないが、反応しているのは分かった。


「なんつーか、自由過ぎるっていうか。つうかそもそも動物全般が苦手だ」


 耳の毛が小刻みに震えている。


「それにまぁ対人関係も苦手だから、要はいきもの全部苦手だ」

「バカだ!」


 毛を逆立て、目を丸くして放たれた一言だった。

 しかし言葉の内容に反して丸くなった目には涙が溜まっている。

 そんな涙目の真剣な目付きをされては怒る気も起きない。

 続けることにした。


「あと、喋るのに変なのがついてる奴が嫌いだ。方言とかならなんとか理解しようと思えるが、明らかに変なのは聞いててむかつく」

「バカにゃ!」

「まだ殴られたりないか」

「バカだ!」

「……」


 この猫は本当にバカなのだろう。躾と称して殴りたいところだが、我慢した。

 先ほどのインファイトで手が痛くなったのもあるが、きっとこの猫は「バカだ」の発言も本気で言っているのだろうと思え、それを意味を汲み取れてもいない状況で腰を折るのはさすがにどうかとおもったからだ。


「正直にいうとお前には感謝してるよ。あんなふうに笑って寝てるヨツバは初めて見た。あれ、たぶんお前のおかげだろ、お前は何もしちゃいないと思うけど」


 何かがこじれた時の定石、全部話してしまうこと。ダイキチは家族間や友人間などではこれに限ると考えている。よって不服だが心中を打ち明けることにした。


「そう、感謝はしてる。ただ信用はしていない。信用っていうのも変だけどな」


 だが、言葉が詰まる。気持ちを吐露するということは、自分の気持に向きあわなければならない。

 思いもよらない形で、今まで放っておいた言葉に出来ない鬱憤や嫌悪感を形にすることになった。

 自身の底に眠る何かせいで嫌に時間が掛かるが、涙目の猫は待っている。ならば意地でも嫌でも向き合い出す。

 うまく形にできず何度も髪を掻きむしる。

 そして出てきた答えは、やはり予想通りの辟易する答だった。

 諦めてタルトに懺悔をしよう。くだらない理由の、くだらない覚悟を。

 正面切ってタルトに向きあう。涙目の目をしっかり見据える。


「俺は、お前が……」


 答えは出た。出ているのに説明ができない。

 キーワードは出ている。だけどそれをうまく繋げられない。

 タルトの涙が頬を伝ってしまった。

 頬を伝う一本の筋が、二本に増え、しだいに太くなる。そして子供がぐずるように鳴き出してしまった。

 間に合わなかった。


「あっ……っく……」


 ここまで来てもまだ言葉が出ない。痛めている拳を握る。痛みが脳を襲うが、それすらも馬鹿馬鹿しい。

 今まさに発しようとした言葉の感情が、またしてもダイキチの心臓を握り締める。

 涙に混ざる嗚咽混じりの幼い声。

 「なんでだよ」「がんばってるのに」「なかよくなろうって」「どうしてだよ」「なんでだよ」「うまくいかないんだよ」「よくわかんねぇよ」「どうしたらいいんだよ」「わかんねえよ」「おしえてよ」「どうすればいいんだよ」

 

『もう嫌だよ』


 決まった。


「俺は――」

「おやおやダイキチさん、また可愛い子をなかせ――」

「お前が嫌いだ! んで俺も嫌いだ! なにいってんだかわからんだろうがそういうことだ!」


 吐き出す。まとめられないならまとめない。あとはお前の馬鹿さ加減に掛ける。


「お前は抵抗なんてできるはずないヨツバをあんなにぼろぼろになるまで甚振りやがった! だからムカつくし原型留めないくらい殴り倒したい! だけど……お前の気持ちもわかる! 何があったかは知らねぇが、そうしかできなくてそうなったんだろうと思う! それにヨツバの気持ちも、あいつの気持ちも汲んでやりたい! でもやっぱりヨツバをあんなにしたのは許せない! だから……よくわかんねえんだよ!」


 非常にくだらない、後三年で三十という大人には似合わない言い訳だった。

 理解はできるが許せはしない、けれども意思を尊重したい。だから我慢はするが、鬱憤はたまる。それがよくわからないから苛ついている。そして他人にあたる。

 口に出した今ならはっきりと分かった。やはりくだらない理由だったのだ。

 そして勝手に気持ちを消化していくダイキチ。

 タルトがなにかと自分にちょっかいを出してきたのは家族と馴染むためで、自分と仲良くなろうとした結果だ。かくいう自分は立ち込めていた嫌な暗雲を先延ばしにするために、それを突き放し、逃げていた。それに逃げるためにタルトにあたっていた。それを自覚したくなくてまた逃げた。

 だから自分が嫌いなんだ。


「猫パンチ!」


 甲高い声とともに放たれた弾丸は、ダイキチの頬を捉え体ごと吹き飛ばす。そのまま噴水の溜池に落っこちた。

 次いで腹部にタルトが馬乗りになって現れる。

 急に現れた衝撃か、水しぶきが激しく飛ぶ。

 タルトが両手でダイキチの襟を掴み、顔を持ち上げた。


「やっぱお前バカにゃ」

「……うっせ――ぼごっ」


 今度は掴んだまま押し込み沈める。そして持ち上げる。

 大きく丸い吸い込まれそうな無邪気な瞳が、しっかりとダイキチの目を見据えていた。


「……すまん」

「バーカ」


 自分がやはり子供すぎるのだろう。社会見学をさせられたのは自分の方だった。

 今回の依頼はヨルダからの「社会復帰への第一歩、二人で頑張れお買い物」である。依頼名はどうかと思うが、なかなかいい企画だったと感じる。


「そういやヨルダに怒られたばっかだな、意固地になるなって」


 タルトの頬がいやらしく引きつる。


「ふふーん、ヨルダに説教もらったにゃ? 奥さんに尻に敷かれたにゃ?」

「そうじゃねーよ」


 タルトはとっくに社会復帰活動をしていた。こんな依頼以前に、もっと身近で不可欠なものを温めるため。


「本格的に仕事すっかなぁーーーーーー! うらっ!」

「んにゃ!?」


 タルトを捕まえ一緒に冷たい水中へ引きずり込む。水中から見てもやはり空は快晴である。

 復帰してしまった人間の、遅い遅い第一歩を踏み出すことにした。




 


「ガン無視ですねダイキチさん」


 ハットを指でくるくると回す。ダイキチは子供みたいにタルトと噴水池のなかでじゃれている。


「相変わらず成長していないですねー」


 ポケットから英語でアメリカンスピリットと書かれた小さな箱を取り出した。

 中から取り出した棒を咥えて、指先から炎を出して火をつける。

 ゆっくりと煙を吸い込み、空へと吐き出した。


「鏡の魔神ですか。また奇っ怪な物を……。早く気づいてくれないかなぁダイキチさん」


 

歳とってもくだらないことで悩んで迷惑かけるってことよくあるよね。

んで歳とっちゃったからプライド高くなって譲れなくなるの。

んで謝ることもできなくなっちゃって、それがいつか普通になって。

それでいつまでもバツの悪い人生送っちゃうのね。


つってもくだらなくても譲れないものは沢山あるけどね。

ゲームとかゲームとかゲームとかゲームとか...


さてさて次回はロッソさん登場です。

登場シーンがアレだったんでどうなるのか予想がつきません。

お楽しみに!


お読みいただき有難う御座いました。

どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

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