1.よくある日常の光景
「何! レイナが病に倒れたって?」
目の前で騒ぐ婚約者に私は額を抑えた。
私はサフィール、ヴィルヴ子爵家の第二子。騒いでいる婚約者はヒース、キャフル伯爵家の次男。
幼い頃からそれなりに付き合いがあり、仕事上の提携も踏まえて結ばれたこの婚約、相手に不満はさほどないのだが特筆すべき問題が一つある。
婚約者のヒースが、病がちな幼馴染の所に押しかけようとする事だ。
正当な理由のある行動であるし、私としても納得している部分はあるが、タイミングと頻度がいただけない。
婚約者交流の一環としてのデートが始まったばかりだと言うのに、嬉々として席を立とうとするヒースに、いつもの事とは言え頭痛が痛い心持になる。頭が痛い、ではない、頭痛が痛い、である。
「すまない、幼馴染が倒れたんだ今日はそちらへ」
「はいはいステイステイ」
「わっ……?!」
私の守護をしてくれている風の精霊に頼んで、ヒースを椅子に押し止める。ついでに声が出しにくいように、お口もキュっとしておいてもらう。
こんな事もあろうかと、人気のテラス席を予約していたのが功を奏した。室内で風の精霊に頼み事なんかしたらとんでもない事になるので。とはいえ、こんな風に役立っても嬉しくは、ないのだけど。
いずれにせよ、ヒースをそのまま向かわせるわけにはいかないので、このままお茶の時間を過ごさせてもらう事にする。
テラス席には三つのテーブル席があり、他二つの席にいる客に騒がしくて申し訳ない…と今月のおススメスイーツを奢る手はずを整えてから、もごもごしているヒースに向き直る。
「大きな声を出さないでね?」
身動きできない状態になった事で少し落ち着いたらしく、素直に頷くヒース。足元の拘束を一部残して解いてもらう。
乱れた髪を整えながら、ヒースが申し訳なさそうにこちらを見る。
「すまないサフィ、また悪い癖が出てしまった」
「ほんと、早くその癖は直して欲しいわね」
「がんばります…」
「それで、ヒースはレモンタルトでいいのかしら? 私は新作の桃のケーキが食べたいのだけど」
目に見えてしょぼくれる姿に笑ってしまったのがバレないように、メニューを向ける。
ヒースは私が頼まない方の桃のケーキにして、シェアしてくれるらしい。
「あら、お詫びのつもりだったら気にしなくていいのよ?」
「いや、この店に来た時からそのつもりだったんだ……途中で、ちょっと我を忘れたけど」
「それがなければ最高のデートになったわね」
「今から全力で挽回するからあきらめないで?」
真っ直ぐこちらを見て訴えてくるヒースはとてもかわいい。
同い年なのについ年下に抱くような感情を持ってしまう。どうにも過去の記憶がこのあたりの認識に影響しているような気がするが、問題ないので直す気はない。
この後、本当に全力で挽回してくれたので、最高のデートになった事は日記に忘れず書き留めておいた。




