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凛として咲いた二頭の獣

ネイモアシティ内の高校で、最も難関と呼ばれるハウレット高校の合格発表日。

合格者の受験番号が張り出された提示版が設置されている。

提示場の前には大勢の受験生達が集まり、その中には三人の男女がいた。

彼女らは食い入るように提示版を見ていた。


「……あった」


掲示板の中から寅之助と巴、両者の番号を見つけ出す。

ついでにアリシアも。


「やったー!」


アリシアが巴へと抱きつき、勢いのまま倒れ込みそうになる。

それを伸びてきた腕が支えた。


「おっと」


女子とはいえ二人分の体重を、寅之助は片腕でやすやすと支えていた。

その頑健さには、優しさと穏やかさがあった。


「……ありがとう、助かったわ」


「たまには俺だってお前を支えたいさ」


「たまには……ね」


巴は思いにふける。

むしろここ最近は、自分が支えられてばかりだと。

4歳の頃に出会った少年がここまで大きくなるなど、想像だにしなかった。


「ちょっと、あんたら何二人の世界に入ってんの」


アリシアが口と尖らせた。

この巴のオマケとも長い付き合いになりそうだと、寅之助は苦笑した。


「てかさー、あんたらいい加減決着つけな?正直、そろそろ見てて見苦しい域にいるんだけど」


「ん……それもそうね」


巴はアリシアから離れ、寅之助と向き合った。

その顔はうっすらと桜色になっていた。

上品な春の色だ。

しかし、目の前の肉の塊は不適に笑った。


「まだだな。俺がお前に並べたとはまだ思えねぇ。その時が来るまで言わない」


「貴方ねぇ……私だっていつか愛想が尽きるわよ」


すると寅之助は顔を近づけた。

寅之助が巴にしか見せない、優しい笑顔であった。


「お前は俺を待たなくていい。お前は全力で走っていて欲しい。もし俺よりも良い男がいれば、そっちへ行けばいい。それは俺にとっても幸福な事だ」


そして寅之助は再び不敵な顔へと戻した。


「だが残念ながら、最後にお前の隣にいるのは、俺だ」


上品な桜はあっという間に散り、巴は顔を真っ赤にした。

アリシアはその隣で呆れた顔をしていた。


「ダメだ、私こいつらについていけんわ」


「いいね。お前がついてこなきゃ俺が巴を独り占めできる」


そういうと少年は踵を返した。


「メシでも食いに行こうぜ」


寅之助は全く日常のままであった。

もう、彼の中に泣いていた少年も、賭け試合の男もいない。

巴にはそれが分かった。同時に、別の考えもよぎった。


何?私がこれだけ貴方の事が好きなのが分かっていて、貴方も私の事が好きなのはとうに伝わっているのに、まだ焦らすの?


そう思うと、好意、尊敬、友情。そのどれでもなくてどれでもある感情が、巴の中に浮かんだ。


「寅之助」


「ん?」


「目をつぶって頂戴」


そういわれると、寅之助は少しだけ照れくさそうに笑った。

アリシアは口を押えて小さな悲鳴を上げる。


「えっ?キス?ねぇキス?」


デリカシーのない友人を無視して、寅之助と巴は見つめあう。


「やめとけよ。お前のキャラじゃねーだろ、無理すんな」


「いいから」


寅之助は油断していた。

この場に浮かれ、合格という喜びがそれを見逃した。

巴の無表情に浮かんでいた感情を。


「分かったよ、先に言っておく。うれしいよ」


寅之助は目をつぶった。

柔らかな唇の触感は、なかった。


飛び後ろ回し蹴りであった。


巴の繰り出した、蹴り技の中で最も強力な威力のものが、正確に寅之助の顎を撃ち抜いていた。


「何年待てばいいのよ、このバカ」


「やったー!」


アリシアの今日一番の喜びの声と、巨体が大地に沈む音が、周囲に響いた。



これにて『凛として咲く獣』完結となります。

ここまで、寅之助と巴の物語に付き合っていただいてありがとう御座いました。

自分で書いててこれジャンル、恋愛かな?とか現代じゃなくないか?

などと自分自身でも疑問に思う稚拙な作品ではありましたが

それでも巴と寅之助の事を好きになって頂けたとしたら、それに勝る喜びはありません。


また継続して読んでいただいた方々が何名かいらっしゃるようですが

本当に貴方方のおかげで私とこの作品は救われました。

この作品は投稿時点で全話書き終わってはおりましたが、それでも貴方方がいらっしゃらなければ

投稿自体を途中で辞めていたかもしれません。

大げさでなく、貴方方は一人の人間を救ってくれました。本当にありがとうございました。

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