第40話 一撃必中
俺はオレールと対峙したまま、ジリジリと間合いをはかる。
奴の武器は弓だ。それも超一流の腕前の。
どの間合いからでも必殺の一撃を放ってくるはずだろう。
「くっ、隙がねえ……」
矢をつがえたオレールが、鋭い眼光を俺を睨む。
だが、そのオレールも攻めあぐねているようだ。
「人族の戦士よ。貴様は恐ろしい男だ。我には分かるぞ、貴様が並外れた力を持っているのを」
「そりゃどうも」
だから買い被りすぎだって。最強はハッタリなんだけどな。
数呼吸おいてから、オレールは動いた。
一気に矢を放ったのだ。それも連続で。
ビュバッ!
ビュバッ!
ビュバッ!
「おっと!」
三本の矢が立て続けに俺を襲う。
俺が身をかわした瞬間に、オレールは魔法の詠唱に入っていた。
「大気と大地の聖霊よ、我の命に従い敵を貫け! 雷槍!」
「クソッ!」
ズババババッ!
的確に殺りにきた魔法を、俺は回転しながら避けた。
流れるように連続する攻撃は、まさに歴戦の戦士といったところか。
「くっ、ヤバい!」
体勢を立て直した俺が見たのは、必殺スキルの構えをとっているオレールの姿だった。
「くらえ、我が必殺必中の一撃! 魔弾の射手!」
オレールが放った矢は、確実に俺の急所へ突き進む。
一撃必中、まるで因果を捻じ曲げるように、必ず相手の急所に命中するスキルだ。もはや放った瞬間が、敵を屠る確定事項のように。
「ぐああああああっ! 俺は死ねない!」
ズバァアアアアァーン!
俺の心臓目掛けて放たれた矢は、確実に命中したかに見えただろう。
オレールは勝利を確信した声を上げる。
「やったぞ! 人族最強を倒したぞ! どうだ人族よ、我らハイエルフこそが至高なのだ!」
勝ち誇るオレール。だが、土埃の中から俺が立ち上がると、驚愕の表情になった。
「なっ! なぜ生きている!?」
「俺には一撃必中は効かねえな」
俺の左腕には深々と矢が突き刺さっていた。
一撃必中スキルは、確実に敵の急所に命中する必殺スキルだ。
相手がモンスターなら核に。相手が人なら心臓に。つまり軌道が読みやすいのだ。必ず心臓に来るから。
この世界の人間ならは、確実に命中していたはずだろう。しかし俺は元ゲームの知識がある。スキルの原理を理解しているのだ。
確実に心臓を狙っているのならば、心臓をガードすればよい。
「ば、バカな!」
「遅いっ!」
次の矢をつがえようとするオレールだが、俺は一瞬の隙を見逃さなかった。
一気に距離を詰め、天啓の剣を振り下ろす。
ズダンッ!
「ぐああああぁ!」
俺の剣はオレールの弓を切断し、その衝撃波は軽々と奴を吹き飛ばした。
豪快に飛ばされたオレールは、数十メートルほど向こうの地面に叩き落とされる。
ズドォーン!
エルフ族の千人隊長オレールが敗北したことで、エステルの母親バルバラと、もう一人の護衛は呆然として動けない。
「そ、そんな、オレールが負けるなんて。信じられないわ」
「まさか……エルフ族の千人隊長が……」
「俺の勝ちだ。帰ってくれ」
俺がバルバラの前に立ち塞がると、彼女の動揺が激しくなった。
「な、なんですって! 帰れるわけないでしょ! エステルはエルフ族の戦士にするのよ! 無能なあの子が、やっとマシになったのよ! 子供なら親の役に立ちなさいよ! 余所の子は皆成績が優秀なのよ! なのに、エステルは私に恥ばかりかかせて! 子供は親のために生きるべきなのよ! 偉くなって私の承認欲求を満たしなさいよ!」
この母親は全く改心するつもりがないらしい。
何が私の承認欲求だ。そんなのはSNSでブランドバッグでも自慢してろ……って、この世界にSNSはなかったか。
「とにかく帰れ! 俺の娘をお前の道具なんかにはさせねえ!」
「うるさいうるさい! ならあんたの種を寄こしなさいよ! もっと優秀な子供を作るから!」
「何だと……」
「少しはマシになったって聞いたから、わざわざ会いに来たのに、使えないのなら新しく作るだけよ!」
ギリリッ――――
俺は怒りで歯ぎしりした。
この女には最初から母親の愛情など無かったのだ。
子供を自分を引き立たせる道具としか思っていない。
「こんな奴に……エステルは……」
「早くしなさいよ! 下等な人族の分際で! 私を怒らせらたどうなるか分かってるの! 承知しないわよ!」
「クソッ! 子供を何だと思ってやがる」
「子供なんてどうでもいいでしょ! そんなの知らないわよ! 役に立たない娘なんて捨てるだけよ!」
ブチッ!
俺の中で何かが切れた。俺は子供が虐待されるのが一番許せないんだ!
「うるせえ、その汚い言葉を吐く口を閉じろ!」
バチンッ!」
「きゃああっ!」
気づいた時には、目の前の女に俺のビンタが飛んでいた。
引っ叩かれたバルバラとかいう女が、派手に転んで四つん這いになる。
しまった、女を叩いちまったぞ。出来るだけ女には優しくしようと決めていたはずなのに。
でも、グーじゃなくパーだからギリギリセーフだよな。
「ぐぬぬ! この男ぉ!」
バルバラが殺意のこもった視線を俺に向ける。
「もう止めとけ。千人隊長が負けたんだ。お前らに勝ち目はない」
「覚えときなさいよ! 許さないんだから!」
勝ち目がないとみるや、バルバラは帰り支度を始める。
周囲に人が集まってきたのだ。この人族に囲まれた状況では形勢不利と思ったのだろう。
三人のエルフ族が去ってから、周囲の奴らがドッと沸いた。
「す、すげえ! エルフの英雄を一撃だと!」
「やっぱりレインは最強なのか!」
「さすがレイン! スカッとしたぜ!」
冒険者たちが盛り上がる中、自称嫁のヴィクトリアと同棲状態のサーシャさんも祝福に駆け付ける。
「さすが旦那様ね♡ すてき♡」
「レインさん♡ カッコよかったです♡」
しかし俺は気まずい。女を殴るのを見られちまったからな。
「い、今のは違うんだ。本当の俺は女に優しくだな……」
「旦那様ぁ♡ 私も殴って良いのよ♡ お尻とか♡」
ヴィクトリアには逆効果だった。何でお仕置きを欲しがってるんだ。
「うっ、痛っ! 腕が、今頃になって痛みが増してきやがった」
「えっ?」
俺の腕に深々と刺さった矢を見たヴィクトリアが、慌てた様子で目を白黒させた。
「ちょ、だ、旦那様!?」
「れ、レインさん、凄い大怪我ですよ!」
サーシャさんも顔面蒼白だ。
「だ、大丈夫だ。リゼット、治癒を頼めるか?」
「はい、すぐにヒールを」
俺が矢を引き抜いた腕を見せると、リゼットはすぐにヒールを掛け始めた。
それを見ていた他の娘たちも駆け寄ってくる。
「お、お父さん、私のせいで……」
「パパぁ、痛そうなの……」
「無理をするでない」
娘たちを抱き寄せ落ち着かせる。
「俺は大丈夫だ。エステルのせいじゃないぞ」
順に娘たちを撫でる。
特にエステルはショックが大きい。頭を撫でて、そっと声をかけた。
「ありがとう。だいぶ良くなったよ」
「どういたしましてですわ」
リゼットのヒールがパワーアップしている。
俺の腕の傷が塞がった。
聖女に覚醒したからだろうか。
「でも、これで一件落着ね。街も大きくなったし、これからもジャンジャン稼ぐわよ。旦那様♡」
盛り上がってるヴィクトリアには悪いが、真実を伝えねばなるまい。
「すまん、王国の役人に目を付けられた。街は撤収させないとならないようだ」
「そ、そんなぁああああ!」
ヴィクトリアを始め、周囲の冒険者が一斉に落胆した。
◆ ◇ ◆
その夜、俺はベッドで体を休めながら考えていた。これからのことを。
因みにアハツェーンに命じて、誰も部屋に入れないようにしてある。夜這いもなく安心安全だ。
「ふぅ、どうしたものか」
何でこう行く先々でトラブルに見舞われるのか。これも悪役転生の運命なのかよ。
俺は静かに暮らしたいだけなのに。
壁際に寝がえりした瞬間だった。
「お、おと、お父しゃん」
俺を呼ぶ声が聞こえた。か細く小さな声だが、確かに俺の耳に届いたのだ。
「えっ?」
「そ、そのままで……聞いてくだしゃい」
声の主の方を向こうとした俺だが、動きを止め耳を澄ませた。
アハツェーンには誰も入れるなと命じたはず。
そして聞いたことのない幼い声。
俺を父と呼ぶ少女。
俺の中でパズルのピースが全て埋まった。




