第39話 毒親と千人隊長
「エステルを何処に隠したのよ! ここに居るのは分かってるのよ! あの役立たずの娘が、覚醒して強い魔法使いになったそうじゃない! 早く出しなさいよ!」
娘の母親を名乗る女性が、耳障りな甲高い声を上げた。前世の義母を彷彿とさせるヒステリックな声だ。
追い出したエステルを連れ戻しにきたということは、どこかで魔法が使えるようになったのを聞いたのか。
俺は怒りで震える拳を押さえながら相対する。
「エステルには会わせられない。お前らエルフは、エステルを追い出したんじゃねえのか!? 今さら何の用だ!」
子供を種族の兵器のようにしようとして、確たる成果が出なかったからお払い箱にしやがって。『無能』や『要らない子』だと暴言を吐きやがって。
エステルがどれだけ傷ついたか。
「とにかくエステルには会わせられない。帰ってくれ」
「何ですって!」
エルフ女性が気色ばんだ。
「エステルは私の子なのよ! 私がどうしようと勝手でしょ! あの無能は私に恥ばかりかかせて、少しは役に立つべきなのよ! せっかく最強の種を使って産んだのに、他の子より成績悪いんじゃ赤っ恥よ!」
言いたい放題の女性に、俺の我慢も限界だ。
「子供は親の所有物じゃねえ!」
「うっさいわね! あんたは何なのよ!」
「俺はエステルの――」
ガヤガヤガヤ――
「騒がしいですわね」
「お父さん、どうかしましたか?」
外の騒ぎを聞きつけたからだろうか。娘たちが家から出てきた。
偶然にも、エステルが母親を名乗る女性と対面してしまう。
「あっ、ああ……お、おか、お母さん……」
エステルの顔が青くなり、小さな肩を震わせる。
「な、何でここに……」
「エステル! そこに居たの!? 何をやってるのよ! 魔法が使えるようになったのなら、早く帰ってきて役に立ちなさいよ!」
エステルの姿を見るなり、エルフ女性はヒステリックな声を上げた。
「まったくこの子は、私に恥ばかりかかせて! 何で言うとおりにできないの! 初期ステータスが高いって話なのに、ろくに魔法詠唱も使えないなんて! そんなに私に迷惑をかけて楽しいの!? 何であんたはダメなのよ! この出来損ない!」
大声を捲し立てる女性を遮るように、俺は二人の間に入った。
「おい、やめろ!」
「あんたは黙ってなさいよ! 誰なのよ、この下等な人族は!」
「俺はエステルの父親だ!」
「えっ、あ、あんたがあの天帝の種……」
俺が天啓スキルを持っていると知った途端、エルフ女性は値踏みするような目つきになった。
「ふーん、あんたが最強スキルの……種を提供した……。あまり強そうに見えないわね」
大きなお世話だ!
「とにかく帰れ! エステルは絶対に渡さない!」
「何ですって! どきなさい! あの子は連れ帰るのよ! エステル! 私の言うことが聞けないの!」
女性が大声で怒鳴った瞬間、エステルが頭を抱えてうずくまった。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい――」
エステルは震えながら必死に謝っている。
きっとエルフの里では、いつもこうだったのだろう。母親や族長から罵倒され、自尊心や自己肯定感を破壊され。小さな体で必死に耐え続けてきたのだ。
俺はすぐに動くと、エステルの手を握る。
「大丈夫だ、エステル。俺が守ってやる。ずっとここに居て良いんだぞ」
「お、お父さん……」
エステルを抱きしめると、彼女は安堵の表情を浮かべ震えが止まった。
「わたくしもエステルを渡しませんわ!」
「妹を守るのは姉の役目じゃな」
「エステルちゃんをイジメちゃダメなの!」
娘たちも女性の前に立ち塞がった。
両手を広げて一歩も近づけまいとする。
「何なのよ! こいつらは! 早くエステルを渡しなさい!」
「エステルは俺の大切な家族だ! 絶対に渡さない!」
俺は仁王立ちするように前に出た。
「そういう訳だ。帰ってくれ」
「何ですって! あの子はエルフ族の戦士にするのよ! あんた、エルフ族と対立してタダで済むと思ってるんじゃないわよね!」
脅しをかける女性に、俺は言い放つ。
「来るなら来てみろ! 俺はどんな脅しにも屈しない! たとえ全エルフ族を敵に回してでも、絶対に娘を渡さないからな!」
俺が強く出たからなのか、エルフ女性が怯んだ。
こちとら一度死んだ身なんだ。何も怖くねえぞ!
あの惨めで寂しい人生と比べたら、エルフ族を敵にするくらい何だってんだ! エステルを失うくらいなら、最後まで徹底的に戦ってやる!
最後は暴力が全てを解決するんだよ!
ザンッ!
その時、後ろで控えていた戦士風の男が一歩踏み出した。
スラリと背が高い姿。長い金髪と精悍な顔つき。いかにも強者といった風体だ。
「バルバラ様、ここは私が相手しましょう」
「オレール」
エルフ女性バルバラにオレールと呼ばれた男は、俺の前に立った。
見た目は若いのに、その佇まいは歴戦の戦士といった風格だ。長寿種のエルフなので、二十代に見えて何百歳を超えているのかもしれない。
「貴様が天帝の種の男レインか。我はエルフ族の千人隊長オレール。聖魔大戦で勇者と共に戦った英雄である!」
やはり歴戦の戦士だったか。聖魔大戦時に勇者パーティーだったなんて、いったい何歳なんだよ。
「その英雄様が何の用だよ。娘は絶対に渡さないぞ」
「ふっ、ならば力ずくで連れ帰るのみ。抗うのなら止めてみるがよい!」
オレールから凄まじい魔力が溢れ出る。
それは周囲の空間を陽炎のように歪ませ、目視できるほどのオーラを放出させた。
凄い魔力だ。本物の強者だな。
俺は奴のステータスを開いた。
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オレール Lv85
種族:エルフ族
職業:エルフ軍千人隊長
スキル
魔弾の射手
一撃必中
電撃
雷槍
獄雷
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めちゃくちゃ強いじゃねーか!
さすが勇者パーティーに所属していただけはある。
確か俺のレベルが83だったはず。強さは拮抗している。これは一瞬でも気が抜けないぞ。
しかもスキルが厄介だ。魔弾の射手と一撃必中かよ。これはゲームでも弓使いには必須のスキルだった。
【魔弾の射手】
防御無効貫通攻撃、超強力な一撃を放つ弓系最上位スキルだ。
【一撃必中】
確実に相手の急所に命中するスキルだ。しかもクリティカル値は二倍。
だがやるしかねえ!
「レイン様」
俺とオレールが対峙していると、後ろからアハツェーンがやってきた。
「レイン様、私が援護いたします。レイン様の敵は、私の敵です」
当然のように戦闘態勢をとるアハツェーンだが、俺はそれを手で制した。
「お前は下がっていろ。これは俺とあの女の問題だ」
「畏まりました」
あっさりアハツェーンは下がり、娘たちを守るように陣取った。
これで心置きなく戦える。
「待たせたな、相手してやるぜ」
俺が天啓の剣を抜き構えると、オレールは歓喜の表情となった。
「くくっ、人族の強き戦士よ。その闘気、その伝説級武具、さすが人族最強の男。相手にとって不足なし」
最強じゃねえよ! 誰も彼も誤解しやがって!
天啓スキルはハッタリなんだって! どんどんハードルが上がってくじゃねえか!
魔族の七魔大公の次は、エルフ族の千人隊長かよ。
だがやるしかねえ!
「あんたには恨みはねえが、本気でやらせてもらうぜ。俺は絶対に娘を守る。エステルを虐待したエルフの里には帰さねえからな!」
俺は覚悟を決め剣を握る手に力をこめた。
娘を狙う奴は、たとえ魔族でも国家でも容赦しねえ。
あの前世での惨めな思いだけは、俺の娘にはさせたくない。俺は必ず娘を守り、前世では叶わなかった幸せを手に入れてみせる。




