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プラトニック ラブ  作者: 伊咲 汐恩
第六章
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別れたいなんて本望じゃない。

でも、自分が未来の足枷になってると知った以上、離れるしかない。


初めて冴木さんに警告された時は切り抜けられる方法があるんじゃないかって思ったりもしたけど、今は考え方が180度変わった。

私は彼の隣にいてはいけない人間だから。



出国までの残された時間で気持ちが大波のように揺れ動いてたその時、冴木さんから彼とお別れのチケットを受け取った。

あの時手渡されたメモには、日時と場所だけが書かれていた。


ーーそう。

逆読みすると、私が彼と別れる前提で今日という日がセッティングされていた。



冴木さんとの間でそんなやりとりがあった事さえ知らない彼は、私がジュンくんに頼んで会えるようにセッティングしてもらったと思い込んでいる。

私自身もジュンくんが間に携わってる事を知らなかった。


冴木さんは想像以上に用意周到だ。

ジュンくんが彼を呼び出せば、何の疑いもなく視聴覚室へ足を運ぶ。

そして、間に冴木さんが関わってる事を知らずに済む。


悔しいけど、これが仕組まれた罠だとわかっていても、気持ちを反転させる事はない。

何故なら彼をアメリカに送らなければならないから。


これが今の私に出来る役割。

嘘は心苦しいけど将来を思って割り切るしかない。



一方、セイは最後の恋愛でいいと断言出来るほど紗南を手放したくないし、別れを受け入れられない。




「別れたい? 何で……。理由が知りたい」




まるで渦を巻き起こしている台風のように、セイの心の中は雨風が吹き荒れている。




「電話が繋がらなかった」


「だから、それはさっき説明……」

「連絡は私にとって大事だったから」




紗南は少し強い口調で言葉を重ねる。




「私達は恋人なのに、たった1行の単純なメッセージのやり取りすら出来ていないんだよ。なのに、今度は2年も会えなくなる」


「アメリカに行ったら今より時間に余裕が出来るから、その合間を縫ってこまめに連絡する」



「こまめに連絡? セイくんは付き合い始めてからほとんど連絡して来なかった」


「それは……」




間接的なコミュニケーションを避け続けてきたセイに重い現実がのしかかる。




「しかも、先に報道が出てるのに、留学日前日の今日になって出国日程が早まったと聞かされても遅すぎる。……私、セイくんの彼女じゃないの?」


「ごめん、日程が前倒しになった事を伝えるのが遅くなって」



「酷いよ……。私、セイくんが初めての彼氏なんだよ」




身体を震わせている紗南の瞳から一粒の大きな涙がポロリとこぼれ落ちた。

涙の粒に含まれていたのは、連絡を待ち続けていた1人きりの孤独な時間。

まだ恋人らしい事は何1つ出来てないのに、これからの2年間は空白の時間が待ち受けている。


セイは頬から膝に置く拳へと流れ落ちる涙を目に映すと、紗南の苦しみに気付かされた。




「セイくんとは1日でも多く恋愛を楽しみたかった。どんなに小さな事でもいいから連絡し合いたかった。『おはよう』『おやすみ』それに、『会いたい』とか『声が聞きたい』とか。忙しくて会えない分、些細なことでもいいからコミュニケーションを図って恋をしている実感を湧かせたかった」


「気付いてやれなくて悪かった。これからは、改善策を考えていくから。……だから」



「改善策? 明日からアメリカに行くのにどうやって? それに、セイくんは立派な社会人だけど、私は来年受験生になる。これから社会に出る準備を始めなきゃいけないんだよ」


「ごめん……。俺、自分の事で頭がいっぱいだったから、お前の考えまで追いつけなかった」



「もし出発まで会えなかったらどうするつもりだったの?」


「杉田先生に頼んで滞在先が書いてあるメモを渡してもらうつもりだった」



「甘いよ……。うちの学校は男女交際禁止なんだよ。もし私達の交際が学校にバレたら、取り残される私はどうしたらいいの?」




攻撃的な自分に正直驚いた。

その副作用が襲ってきたせいか、傷付ける言葉を口にする度に頭がガンガン痛んでくる。




「確かに会えない可能性の方が圧倒的に上だったかもしれない。でも、何故か今日中に会えるような気がして」


「セイくんはそうやって現実から目を逸らす時がある。だから、連絡をよこしてくれなかった。それに、セイくんに夢があるように、私にも夢があるから」



「夢なら一緒に支え合って行こう。隣で応援するから」


「ただですら人目を忍んで会ってる関係なのに隣で応援だなんて無理に決まってる。本当は恋人として堂々と手を繋いで遊びに行けるような、普通の高校生らしい恋愛がしたい」




無理を言った。

彼が言い訳を出来ない事を先読みして。

本当は彼がいてくれるだけでも充分幸せ。

それ以外何もいらないし、何も与えてくれなくていい。

ただ、隣に居てくれれば…⋯。


でも、いま本音を伝えてしまったら、きっと夢を壊してしまう。

だから封印しなければならない。




「話は終わったから教室に戻らないと。朝のHRが始まっちゃうからもう行くね」




紗南は席を立つと、表情を隠しながら早々と左通路に出てセイの元から離れた。

瞳に用意されている次の涙は、気付かれぬように手の甲で拭う。


猛烈なショックを受けたセイは紗南の足音を背中から浴びている状況に。

ぼんやりと瞳に映る光景は、情報として脳まで到達しない。



学校に滞在できるタイムリミットは11時。

残り3時間を切った。

その中でも2人きりで話せるチャンスは、今この瞬間しかない。


気持ちがすれ違ったまま別れる訳にはいかなかった。


セイは残された僅かな時間に望みを託す為に、机にバンッと手をついて立ち上がった後、紗南の後を追った。




「紗南!」




背中を視界に収めて名前を呼ぶが、紗南は振り向くどころか、通路を真っ直ぐに駆け抜けて行く。

セイは無我夢中で走って紗南との距離を縮めた。




「ちょっと待って! まだ話は終わってない」


「もうこれ以上の話なんてない⋯⋯」




セイは後部座席付近で追い付くと、思いっきり伸ばした手で紗南の腕をグイッと掴み上げた。


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