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プラトニック ラブ  作者: 伊咲 汐恩
第六章
34/60

椅子に座っていた人物




セイは視聴覚室に到着して後方扉に手をかけて中に入ると、そこには先客が居る。


一瞬、胸がドキッとした。

授業開始の25分前で視聴覚室周辺は静かだったし、ジュンが遅れて来る事がわかっていたから無人だと思っていた。


先客は紺色のブレザーを着た髪の短い女子生徒。

三列並んでいる中央座席のど真ん中でスクリーン側を向いて座っている。

俺には後ろ姿を見ただけで誰だか判明した。




「紗南……? どうしてここに」




心臓が止まりそうなほど驚いた。

連絡手段が途絶えて打つ手もないままだったし、約束すらしていない紗南がそこに居たから。


紗南は到着に気付くと、セイの方へゆっくりと振り向いて今にも泣き出しそうな雰囲気のまま微笑んだ。


セイはおよそ2週間ぶりの紗南を目にすると、信じられない気持ちで胸いっぱいに。



最近はテレビの街頭インタビュー映像を見て、好きな時に好きなだけ会えるカップルを羨ましく思っていた。

街中で恋人と一緒に笑ってる姿も、今の自分には夢のまた夢。


目まぐるしい忙しさに阻まれている中、予想外の天使登場に思わず心が弾んだ。


嬉しかった。

出国前日の今日というチャンスを逃したら、次はいつ会えるかわからなかったから。




「セイくん、久しぶり」




音信不通だったにも関わらず、紗南は何事もなかったかのような口調で言う。

セイは嬉しい気持ちが先走っていたせいか、僅かな変化に気付かない。




「どうして視聴覚室に?」


「2人で話がしたかったから視聴覚室に呼び出してもらったの。私は西校舎に入る事が出来ないから」



「紗南はジュンと知り合いじゃないだろ? 一体どうやってコンタクトを取ったの?」


「………」




紗南は無言を貫く。

次第に表情は崩れていき、口元を震わせながら微笑む。


セイはその様子を見て引っ掛かかったが、願ってもないチャンスが舞い込んできたからこそ、無駄にはしたくなかった。

軽く辺りを見回して2人でいる姿を誰にも目撃されないように警戒深く後方扉を閉じた。

机の間を通り抜けて紗南の隣に移動すると、首を傾けて顔を覗き込んだ。


2人がここまで接近するのは、保健室のベッドで抱き合ったあの日以来のこと。



2人は隣に並んで座っていても、ブレザーの色が違う。

普通科の紗南は紺のブレザー。

そして、芸能科のセイはベージュのブレザー。

20センチほど離れている肩と肩の間は、まるで両科の境界線のよう。




「細かい事は別にいっか。紗南に会えただけでも嬉しいし」




セイは浮かれ気味に気持ちを吐き出すと、紗南は表情を見ぬままコクンと頷く。

すると、セイは心の中に留めていた話を伝える事に。




「俺、いま紗南に伝えなきゃいけない話があって。今日までずっと言わなきゃなって……」


「うん、なぁに?」




そう言って向けてきた彼女の瞳の中には、自分の顔が映し出されている。




「先週、一斉に報道が出たからさすがに知ってるかもしれないけど。留学日程が早まって、明日日本を発つ事になった」


「……うん。知ってる」



「出発日が半月も早まったのに伝えるのが今になってごめん」




セイは申し訳なさそうに頭を下げる。

紗南は鼻頭を赤く染めて唇を強く噛み締めながら首を横に振った。




「それと、この前急にスマホが壊れたから、新しいのに変えたんだ。だから、最近連絡出来なくてごめん」




セイは事実を語らないどころか咄嗟に嘘をついた。

勿論、嘘をついたのは紗南を傷付けない為。


だが、紗南は嘘に反応すると目を大きく開いた。




「……だから、もう一度電話番号を教えてもらってもいいかな。アメリカに到着したらすぐに連絡したいし」




セイはポケットの中から新しいスマホを取り出して、番号を教えてもらう前提で電話帳アプリを開いた。


内心ホッとしていた。

短時間で伝えたい事を伝えたし、肝心な電話番号の件まで話を持っていけたから。



一方の紗南は複雑な心境だった。

真実を知っている分、決して誤魔化されない自分がそこにいる。


紗南は下を向いて、テーブルの下で作った拳をギュッと握りしめた。




「私の電話番号は…⋯⋯」


「うん」




セイは頷いた後、右人差し指をスマホ画面に向けた。




「教え……られない」


「えっ……」




セイは予想外の返答に指先がピクッと揺れた。

一瞬聞き間違いかと思い紗南へ目線を向ける。

すると、再び口は開かれた。




「セイくん」


「ん……?」



「私達、別れよっか」




セイは耳を疑うような展開に言葉を失わせる。


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