最終章 二人の結婚式
最終章 二人の結婚式
首都星での騒動から3か月だ経っていた。
ドラゴン騒ぎといえど首都星での情報の流れは早いもので、3か月もあれば次々に新たな事件や事故、恋愛ネタ、エンタメ情報などなど、過去をかき消す話題は尽きることなく人々の興味は常に新しいものに向いていく。
そうして今ではもう、「そんなこともあったね」というレベルにまでライヤードとワープゲートの件は首都星の民衆の記憶は風化していたのだった。
そして、そんな首都星トキエイドにケントらは、いた。
それも婚礼用の正装をしてである。
「う~む、着慣れない分・・・やっぱり窮屈だな・・・」
「しかたないよ、こういうもんなんだから」
ケントとドリューと黒の礼服に祝福を意味する桃色のタイを絞めてぼやいていた。
ここは首都星でも、ほぼ中央に位置する大統領官邸である。
天を突くほどの高層ビル群の中では、背の低い方ではあるが敷地は広く、その流線形な建築様式が純白の官邸を際立たせている。
そうして、官邸の入口地下では人だかりが出来ていた。
オッド大統領を始め、大統領付きのエージェントやそれらの関係者が多くみられる。
そんなかなり大勢の人だかりの中にケントとドリューもがいるのだ。
そう、この集まりは結婚式であり、その主役の二人が中しんとなって丁度いま『誓い』を立てている瞬間であった。
「夫ラージャックは妻スタアを、生涯愛し続けることを誓いますか?」
赤褐色の長髪の男が司祭を務めて、新郎新婦姿のラージとスタアに誓いの言葉を尋ねていた。
「はい、誓います」
それにはっきりと応えるラージ。司祭もにっこりと笑って、次にはスタアへ視線を移した。
「妻スタアは夫ラージを生涯愛・・・」「誓います!」
少々、食い気味にドレス姿のスタアが応えて周りから少なからず笑いを取ってしまう。
そうして僅かに赤面しながらも、司祭からの指示を受けて向かい合うラージとスタア。
「それでは誓いの口づけを」
司祭のその言葉に、下品ではあるが周りは一気に盛り上がって、新郎新婦へ祝いの言葉と共に歓声が沸いた。
「わわわわ!本当にキスしちゃうよ、ミカお姉ちゃん!」
「そそそっそそれぐらい何よ・・・結婚式なんだもの、それぐらい当たり前よ・・・まぁ私ぐらいになればきききキスぐらいじゃ動揺なんか・・・」
そんな光景を見守る一組のドレス姿の女子がいた。
大統領の娘であるミカと、その従妹で妹分のエールである。
誓いの口づけに、従妹同士騒ぎまくっていたが、そこへこれまでで一番の歓声があがった。
新郎新婦が誓いの口づけを果たしたのである。
盛り上がりが最高潮に達する中、ミカとエールは顔を真っ赤にして固まってしまってしまうのだった。
と、そこへ。
「よぉ、ミカ、ここにいたのか」
「こんにちは~」
ケントとドリューがやってきて声をかけた。
「あ、お姉ちゃんの彼氏の・・・」「エェェェェルッ!!」
と、ケントの顔を見て何かを言おうとしたエールを遮ってミカはズイっと前に出て、ケントとドリューを睨んだ。
「・・・なんだ?えらい興奮してるんだな?鼻息荒いぞ?」
「顔も赤いよ?」
顔を赤らめてこちらを睨むミカにケントとドリューが首を傾げて言う。
「べ、別になんでもないわよ!!で!?なにか用!?」カッ!と檄を飛ばすように叫んで尋ねるミカ。
「いや・・・別に用っていうか挨拶にきただけで・・・」
「隣の子は誰?ミカに似てるね」と、たじろくケントに代わってドリューが尋ねた。
「あぁ、従妹のエールです。ケントさんは久しぶりですね?」ニコっと笑って挨拶をするエールに、ケントもドリューも笑顔で返して和やかなモードを取り戻す。
と、ケントはエールが前に魔法惑星のミカの家で会った頃より僅かに変化があるのに気が付いた。
「・・・エールちゃん、なんか焼けてない?」
「え!?あ・・・あぁ・・うん、まぁ・・・休暇を利用して遠出してまして・・・・はは」
何故かしどろもどろの回答を見せるエールに首を傾げるケント。
「それ、私も聞いたんだけど、いまいちハッキリ答えないのよね・・・ニッポンがどうとか全く聞いたことのない地名言うし・・・」
「いいいいーでしょ!わたしがどこに行ってようと・・!そ、それよりもう一人友達いるんじゃなかったけ?ほらお姉ちゃん言ってたじゃない?鳩の人だっけか・・・?」
口早に言って話題を変えたエールは、少しだけ後ろに下がってエールらに話の主導権を託す。
「あぁ、ジョットか。来るつもりだったらしいんだけど別の仕事が入ったらしくてな・・・」それにケントが応えた。
「そういえばストログは?」すると今度はドリューがミカに尋ねた。
「いるわけないでしょ!そりゃ招待するのはスタアさん達が決めることだけど、どうにか理由つけて欠席させたわよ」まったく!と大きく溜息を吐いて告げるミカ。
「ストログのこともあんたのことも、お父さんに説明するの本っ当に大変だったんだからね!・・・ま、実際ストログはリューちゃんを送りに魔の宙域まで飛んでるらしいんだけど・・・」
そう告げたミカにケントもドリューも「・・・そういうことか」と納得して頷いた。
「・・・ワープゲート無しで魔の宙域まで行くのか・・・あいつもほとんどリューの保護者だな」
「・・・あれ?でもほら、騒がしいドラゴン族の人もいなかった?」
「ヴィレッテ?あいつならイエンスの情報を持ってることもあって監察処分ってことで国の機関で働かせられてるわ・・・ま、随分と甘い処分だと思うけどね」
「ふーん・・・ライヤードも一緒にか?」それにケントが尋ねた。
「うーん・・・」
するとミカからは困ったように唸る声が返ってきた。
「・・・それが、わかんないのよ。ヴィレッテと一緒にいるはずなんだけど、全然見当たらないのよ。あんな大きな身体見逃すはずないんだけど」
どういうことだ?とケントとドリューが顔を見合わせて眉を潜めた。
と、そこへ。
ワァアアアアアアア!!と、再び歓声が沸いてケントらの視線をそちらに集めた。
「お姉ちゃんお姉ちゃん!ほら!ブーケトス始まるよ!!」
エールが歓声の理由を叫んでミカたちを呼びに来た。
どうやら結婚式の醍醐味の一つであるブーケトスが始まるようで、新郎新婦を中心にドレス姿の女性が群がっている。
エールがそれに混ざろうとミカを誘うが、どこか真剣な眼差しを見せるブーケを待つ女性陣を見てミカは少し表情が引きつってしまう。
「わ、私は・・・いいわ・・・なんかまだそのレベルじゃないというか・・・」
「・・・?なに言ってんのお姉ちゃん?」
何故だか怖気づいたミカにエールが不思議そうな顔を見せる。
と、そんな会話をしている頃にはスタアがブーケを持つ手を下にしていた。
「おい・・・あんまり本気でやるなよ」
「そんなこと言ったって・・・ブーケトスなんて初めてだし・・・」
今まさにブーケを投げようとしているスタアにラージが小声と注意を告げるが、スタアは難しそうな顔見せて自身なさげに「よ、よし・・・」と呟くだけであった。
そしてその瞬間。
「それ!」と花嫁の掛け声もそのままに、ブーケは天高く放り投げられたのだった。
今一度、歓声が爆発した。
いったい誰がブーケを手にするのか!宙より落下する花束を下方で待つ女性陣の誰もが、それを狙っていた。
が、しかしスタアの手腕もあってかブーケは女性陣の輪を超えて遠くへと流されていってしまう。
「・・・あちゃ~」「だから言ったんだ・・・」
それを見つめてスタアとラージはバツの悪い顔を見せていた。
そうして花束は女性陣の群れを引き攣れながらに、徐々に落下を続けて・・・。
やがて――
ボスッ!!
「ほげ!」
エールの頭に乗っかったのだった。
「え!え!?なになに!?とってとってお姉ちゃん!!」突然のことに頭に何が乗ったのかわからぬまま騒ぎ出すエール。
「落ち着きなさいよ!ほら!もう取ったから!!」
慌てる従妹を抑えてすぐさまに頭に乗ったブーケを取り去ったミカは「これよ!」指さして告げた。
「こんなもんになにビビってんのよ!」
「うぇえ、だって頭にブーケが乗るなんて思わないじゃん・・・」
「だからってね・・・」
と、溜息を漏らすミカだったが、次には周りから信じられないほどの視線を感じて、思わずあたりを見渡した。
「あ・・・あぁ・・・こ、これは・・・」
見た瞬間、理解した。ドレス姿の女性たちが息を切らしてこちらを睨んでいる。これは、手に持ったこれが原因であるのだと。
「・・・ち、違うの!わたしは取る気なんかなくて!じゃぁなんで持ってるんだとかってなるけど、それはそのエールが騒いだからで・・・!」
「別にいいじゃん、どうせ次、お姉ちゃんでしょ?」
そこへブーケを掴んだ言い訳を探すミカへエールがグサッと告げた。
「どどど、どうせって!べべべ別に私とケントはそんな・・・!」
「誰もケントさんとなんて言ってないじゃん」
「~~~ッッ!!////」
顔を赤らめて反論の言葉をなくすミカと、ニヤニヤと意地悪い笑みを見せるエール。
するとエールは大きく手をあげると大きく口を開いた。
「はいはーい!!見事ブーケをキャッチしたのは、アージェナルド・ミカ=フェリアでーす!!皆さん拍手お願いしまーす!!」
全員に聞こえるほどの大声で言って、振りかえってはミカに満面の笑みを見せた。
それにまたしても言葉を失って、拍手喝さいの中を口をパクパクさせるだけのミカ。
そうして、女性陣は愚痴混じりに引き返していき、一大イベントも終わりに近づいていった。
「おぉミカ君が取ったか」「・・・良かったミカちゃんで」
一方で、新郎新婦とホッと胸を撫でおろしてブーケトスがどうにか成功に収まったことに安堵していた。が。
後方が騒がしいのに気が付いて、振り返ってみた。
どうやらミカがブーケを取ったことにひどく動揺したのか、大統領が倒れてしまったようだった。
すぐさま妻であるハルと警護の数人が大統領を屋内に運んで休ませるという、ミニ騒動が起こっていた。
「あらら・・・オッド伯父さんには刺激が強すぎたみたい・・・私も様子見てくるから、ミカお姉ちゃんはケントさんとヨロシクね」語尾を可愛く発音してエールはそのまま官邸内へと向かって行ってしまうんだった。
「あ・・ちょ!エル!・・・もう・・・!!」
まさに自分勝手し放題の従妹を呼ぶも、既に屋内へと入ってしまい見えなくなってしまう。
おまけに妙な煽りを受けて顔は紅いままで、手に持ったブーケも捨てるわけにも行かず、途方に暮れるだけであった。
こんな時にケントが空気を読んで――
「よぉ」
「ぎゃぁあ!!」
――くれるはずもなかった。
背後から声をかけられて驚いたミカは、真っ赤な顔のまま振り返った。
「・・・なんだよ?そんなに驚くか?」
そこにはケロッとした表情のケントがいて、ミカの気持ちなど全くくみ取っていない感じであった。
「ブーケとったんだろ?すごいな!・・・でも、そんなに結婚願望あったのか?」
ハハッと冗談交じりに言うケントに、微塵ほどの他意はなく少しからかってやろうというぐらいの発言であった。
が。その言葉にミカは更に顔を紅くしてしまった。
「・・・・けけけ結婚・・・!私は別に・・・その・・・あの・・・」
エールからの煽りもあって、異常に意識してしまい言葉が出てこないミカは、しどろもどろになってしまう。
そして。
バサァッ!!
「あた!?」
無言で思いっきりブーケでケントを叩いたのだった。
もちろんそんな攻撃がくるとも思っていなかったケントは防ぐどころか見事に直撃を受けてしまっていた。
バサッ!バサッ!と何度も叩くことで花束が派手に散っていく。
「おい!ミカ!ま・・・待て・・・って!」花束の攻撃故痛くはないが、それでも止めさせたいとケントが止めに入る。
「ミカー!ストップストップ!」
そこへ、後からやってきたドリューも混ざってミカを制止にかかる。
「・・・・・・・ッ!はぁ・・・はぁ・・・」
そうして二人の声がどうにか届いたのか、ただ叩きつかれたのか、ミカはようやく動きを止めて息を切らすのだった。周りにはブーケだった花の残骸が散らばってしまっている。
「どうしたのミカ?」
「そうだぜ、せっかくのブーケこんなにしちまって」
二人からの質問に、なんとか呼吸を整えたミカはケントを睨んだ。
「あ・・・!あんたのせいでしょ!」
「はぁ?なんで俺が?」
いきなり指を差されたことに疑問のケント。
すると、そこへ――
パチパチパチ・・・と、ひとつの拍手が鳴って3人の注目を集めたのだった。
「痴話喧嘩はそこまでにせんか?・・・せっかくの式が台無しになってしまうぞ?ミカ?ケント?」
そうして三人の前にやってくると、そう告げてにやりと笑った。
「え・・?牧師様・・・?」
「・・・ミカはわかるけど、なんで俺の名前まで?」
そこに居たのは結婚式を進めていた女性牧師であったのだ。無論、二人ともに名前を呼ばれたことに違和感を持って相手を見やった。
「・・・・・・む、やはり気づいていないか。ヴィレッテを見ているから少しは気づくと思っていたが」
「「「え?」」」
今度は三人一斉に声をそろえて疑問の表情を見せた。
すると女性牧師は赤褐色の髪を掻き揚げると額を見せたのだった。
そこには小さな角二つが生えていた。どこかで見たような・・・そう、まるでドラゴンのような。
「も、もしかして!」「あんた・・・!」「あのデッカイドラゴンの・・・!」
「あぁ、私がライヤードだ」
言い終えると同時に長い髪をおろして、女性の櫛はドラゴンのごとき鋭い目つきを見せるのだった。
「ま・・・まじか・・・人型にもなれたのかアンタ?」
「というか女だったのね・・・」
「宇宙は広いね・・・」
それぞれに感想を漏らすケント達。
「昔取った杵柄というやつだ・・・まぁ、あそこで暮していた分には変化術も必要なかったからな・・・しかしこんな都会で暮らすには巨体はなにかと不便でな」
「・・・に、してもヴィレッテとはえらい違いだな」ケントが聞いた。
「あれはあいつの術が不十分なだけだ、人型の生活に憧れていた分にはどうにかなっていたようだが、あそこで満足してしまったのだろうな・・・」
「へぇ・・・まぁメガット博士の奥さんもそんな感じだったし、まぁいろいろなんだろうな」
「ふーん、それで牧師で生活してるの?」今度はドリューが聞いた。
「あぁ、オッド大統領の計らいで・・・今は近くの教会で神職をすることになってな」フフと笑って官邸の外の方を眺めてみるライヤード。
「・・・ん?」と、それにミカが反応した。
「教会って・・・もしかして、官邸近くのやつ・・・?」
「・・・あぁ、そうだ」
ミカの質問に簡潔に言って頷くライヤード。
「・・・・・・も、もしかして懺悔とか聞いたりしてる・・・?」
「・・・私の他にも神職者は多数いるが・・・あぁ、そうか、そういえば来てたな」
「ね、ねぇ!私の聞いてないわよね!?他の人よね!?」
再び顔を紅くして今度はライヤードを質問攻めにするミカ。
だが、ライヤードは連続でぶつけられる質問の雨に、ただ静かに笑みをこぼすだけで、完全にあしらうと踵を返した。
「・・・さて、もうすぐ記念写真だ。官邸前に集まるぞ」
「お、おう・・・」「すっごいクールだね・・・」
淡々と告げるライヤードにケントもドリューも呆気にとられながらも後に続く。
「ちょっと!!どうなのよ!?聞いたの聞いていないの!?」
しかし背後ではいまだにミカが騒いでは懺悔を聞いたか聞いていないを連呼している。
「・・・なんだよ、お前・・・そんなに変なこと懺悔したのか?」
「だって聞かれてたら私があんたのこと・・・・・・・・!!」そこまで言ってミカはハッとして口を噤んだ。
瞬間。
ゴスッ!!
ミカは隠し持っていたヒィアートガンの柄で、力いっぱいにケントの脳天を殴り抜けた。
「い!言えるわけないでしょう!!この無頓着男!!」
「いちいち殴るな!!」
目から火花を散らして言い返すケント。頭上からは紅いオーラが漂っているが、間に合わなかったのかオーラの中にたんこぶができている。
「なんだってそんなもん持ってきてんだ!!」
「ううううっさいわね!私の勝手でしょ!!」
「また殴ろうとするな!」
「オーラで防げば痛くないでしょうが!」
「そういう問題じゃないだろ!」
集合だと言っているのに言い合いを始めたミカとケントにドリューが溜息を漏らしていた。
「・・・いつもこんな感じなのか?」
「うん、まぁそうかな・・・なんとなくミカがいつもより強めかな・・・?」
特に振り返ることなくライヤードは二人の言い合いから、その関係を読み取って再び小さく笑う。
「しばらくはここで牧師を続けても退屈しなさそうだな」
そうして面白そうにライヤードが笑う中、3人はどうにかこうにか記念撮影のための官邸前に集合していくのだった。
「ほら!二人ともいつまでもやってないでさ!」
「「こいつが悪い!!」」
そうして言い争いも最高潮の中、シャッターは降りてしまい二人にとっては最悪の一枚のなってしまう。
「・・・あーあ、になにやってんだか・・・」
それを見ていたエールは小さく呟くだけであった。




