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転生したら、アンデッド!  作者: 三ノ神龍司
第二幕 偽りの王子と国を飲み込む者達
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第十章 強襲、そして望まぬ守護

 俺らは林の中心部に近いところで、焚き火を囲んで過ごしていた。こちらの作戦開始は空に浮かぶでっかい月がやや傾きかけた頃だ。


 その時間帯がちょうど門の近くに一般人がほとんどおらず、かつまだ門が開いているらしい。んで、俺はそこに正面突破をかけて町に侵入する感じだ。


 町に入ってからは単独行動になるから気をつけないとな。


 結構、重要な役割だから、心が今からドキドキしている。そしてそこでやることもかなりえげつないことだからかなりビクビクしてもいる。


 作戦後半もアンサムとフェリス以外(フェリスは吸血鬼がいるならと一緒に行くことになった)は味方がいないってか、むしろアンサムは守らなきゃならない対象だしな。リディアとミアエルは今回完全にお留守番だし、スーヤは本当にどうしようもない時の助力って感じだ(そもそも荒事対処に向かないけど)。運が良ければ味方になってくれる人もいるらしいけど……どうなるかね。


 (何事もなければいいけどなあ。さっきの見回りで見つけたのゴブリンだけだし)


 俺が心の中で呟くとアンサムと次いでフェリスが反応する。


 「油断はすんなよ。ゴブリンがいたってだけでも色々推測出来るからな」


 「ゴブリンいたんだ? 巣穴があるらしい場所まではそれなりに距離があるから……なら魔物使いが偵察に放ったのかもね。……魔物使いなら数で押してくるのもあり得るかな」


 「魔物なら私が頑張る」


 ぴゅっとミアエルが手を挙げたので、頭を撫でる。良いけど、無理はしないでね。


 (俺も一応、なんかいるんじゃないかって思って囮とかやってみたんだよ。若干、反応あったような場所で擬態を地上に出して釣ってみたんだけど、何もなかった)


 外面だけで中身のない塊を使ってみたんだ。結構、精巧だったし触手を繋げていれば、魂もそいつにあると錯覚させられるはずかもって。妖精憑きがいたら引っかかってくれると思ったんだけど、そう簡単にはいかない。簡単AIのNPCはこの世にいないのだ。


 でも、いるらしいと推測出来たのは大きいかもな。


 ……まあ俺は、警戒意欲が強くなるだけで、行動に変わりはないんだけど。


 結界が張られたら俺は動けなくなるらしいから、離れてるのもいいけど、向こうの目的は俺かもしれないからそれだとそもそも襲撃が来なくて、正面突破してたら林からつけられて後ろから奇襲とかあり得るし。かと言ってここで待って襲撃来たら、俺は動けなくなって的になるという。なんというジレンマ。


 正解が分からないことほど嫌なものはない。


 まあ、襲撃ありだとミアエルが危険に晒されるかもしれないからない方が良いんだけどね。


 ミアエルを安全なところに移すのもいいけど、誰かついていかないといけないし。仮にミアエルが狙うような奴らじゃなくってもフェリスとかスーヤとかなら各個撃破したいと思うかもしれない。なんかだからあまり離れて欲しくない、みたいなことをリディアに言われたんだ。


 うーん、どうにかならんもんか。結界はなんとか五分以内には解くことは出来るらしいけど……。


 動けなくなるにしても、警戒しておくに越したことはない。リディアより早く反応出来たら、結界張られる前になんとか対処を――。


 かきん。


 ――そんな音がほんのわずかに聞こえてきた。方向もなんとなくわかった。この林の中で金属の音は異質だ。それに、今まで聞いたことがない。少なくとも剣を抜く音ではなかった。鉄と鉄を擦るような、そんな奇妙な音。


 (なにか――)


 俺が皆に声をかけようとした瞬間だった。


 どぅん、と大きな音が鳴り、俺の眉間に穴が開き、後頭部が吹っ飛んだ。


 身体、揺らぐ。思考、弱い。周り、認識、弱い。認識、繋げる、無理。声、認識、無理。近く、誰? 回復、頭、直る――少し、考えられる――よし、このまま――。


 不意に、ぶち、と身体と魂を繋ぐ回路が千切れた。認識としてはそんな感じだ。


 持ち上げようとした身体が、また地に伏せる。まったく動かせない。


 あ? なんだ? ――ああ、そうか、やばい、まずい、きた。来たんだ。結界張られたんだ。マジで身体が動かない。わずかながら肉体に依存するゾンビの性質のためか、目と耳は聞こえる。だけどそこにスキル効果は一切ない。精度が格段に低くなっている。


 「ゾンビさん! ゾンビさん!」


 ミアエルが頭の吹っ飛んで倒れた俺を必死に揺すっている。


 「ああ、くそ! なんだ今の音……攻撃――ああ、そうか、これ、銃って奴か! やっぱ転生者がいやがるな!」


 「周りに気配がするぞ! 人間、っぽくはない!」


 「打ち合わせ通りボクが撃ってきた奴、対処する! アハリート死なすなよ!」


 「こっちも聖人来たから、アハリちゃんお願い!」


 「ああ、拙者、うううう、動けなあ、ああぁああ! だ、誰か助け――」


 周りが騒がしい。スキルがないせいで音の選別が上手く出来ない。全てが雑音になってしまう。そんな中、どおん、と遠くで何か大きな物が激突する音が鳴った。


 「アハリート、今――っとはぁ!」


 次いで、銃声が鳴り響き、俺に近づこうとしたアンサムに銃弾が掠める。けど諦めず、すぐに引き寄せようとした。だが、相手の射手はそれをさせまいと威嚇射撃をしてきたので即座に木の陰に隠れる。


 アンサムが片手を押さえている。そこからぽたぽたと赤い液体が垂れていた。手の肉が、銃弾によってわずかに抉れている。

 

 「くっそ……! 俺を攻撃してくるか……相手、俺のこと伝えられてねえかもな」


 「気をつけろ! あんたを失っても駄目なんだからな! あとミアエル、こっち来るんだ!」


 スーヤが剣を構えながら、射線に身を晒さないようにしつつ周囲の警戒をする。ミアエルに呼びかけるが、彼女は首を振る。


 「やだ! 私……私が……」


 ミアエルが俺の両脇に手を入れて、引きずろうとする。だけど、俺の今の体重は優に百キロは越えているだろう。大人ならなんとか引きずれるかもしれないが、子供には無理だ。


 また、銃声が鳴る。俺の胴体に弾が当たり、下で蠢いていたワームの身体にぶち当たる。ああ、くそ、射手がどのくらい離れているか分からないが、ワームが這い回る膨らみがしっかり見えてやがる。


 正直言うと、今、ワームを殺されると俺は死んでしまう。さっきの頭をぶち抜いた銃弾で脳が破壊されてしまったのだ。


 でも、お前普通に脳味噌使ってね? と思うかもしれないが今、俺が自前の脳味噌で出来ているのは認識だけ。いや、実際はそれすらもワームに頼り切っているかもしれない。どうにもワームは俺の身体の中で唯一生きている部位らしく、この環境下でも最低限の補助脳として活躍をしてくれているようだ。けど、あくまで補助。それも本来無事な脳やスキルありきなところを、ないまま無理矢理だ。

 

 で、今は治りかけだった半壊した前頭葉を必死に稼働させている感じか?


 だったら、最初に運動能力回復させて結界張られる前になんとか地面の中とかに逃げれば良かったんじゃない? もしかしたら今も動けたかもしれないじゃん、とも思うがそこら辺はほぼ自動だ。そもそも考えることすら難しかったし。


 どうやら無意識下だと運動能力よりも認識能力を優先されるらしい。


 以前実験してみたのだが実際に頭を破壊した時、再生するのが認識能力からの身体機能という順だったのだ。恐らく、ワームがそう再生させるように設定されているのだろう。


 さすがにその時にワームを破壊するなんてことは怖くて試したことがないから、死ぬかどうかは分からない。けど、このスキル効果もない状態のワームを破壊されたら、どのみち朽ちるだけの運命になる。


 ……あれ? でも本当に朽ちるの? ワームが壊れてもほんの少しでも意識があったら、俺は死なないのか? たとえ身体が動かなくなっても? その場合、スキルはもしかしたら使えるかも。なら建て直しが利くのか?


 ……だからこそ認識能力の再生が優先される? 


 もしかしたら、たぶん俺にとっての死とは生命活動の停止というより、『認識能力の消滅』なのだろう。


 ……うん、なんか生命哲学染みてきたぞ。


 ――とまあ、俺は何も出来ないためにそんな現実逃避をしていると、ミアエルが俺の頭とワームがいるであろう身体を隠すように覆い被さってきた。


 ……いや、待て、それはやめろ。


 銃声が鳴る。威嚇するように、地面に当たる。

 

 やめろ。


 もう一発、銃弾が飛んできて、ミアエルに掠る。


 もうやめろ。


 ミアエルは身を強張らせるが、避けない。


 やめてくれ。


 怯えながらも、笑みを浮かべてくる。


 「今度は私が守るから」


 冗談じゃないやめろ。


 どおん、とまた銃声とは違う重たい物が激突する音が鳴る。


 同時に銃声が鳴り響き――、


 「ぐぅっ!」


 びちゃ、と何かが飛び散る音が鳴る。


 俺には匂いも感触も何もない。けど、最悪なことに俺の認識能力は正常で、連想して何が起こったか予想出来てしまう。ミアエルの身体の強ばりから、脚に何か『異常』があったのだろう。


 ミアエルが目尻に涙を浮かべながらも笑みを向けてくる。


 「だい、……じょ、ぶ……」


 声が震えている。ぎゅうと俺をさらに強く抱きしめてくる。


 銃声がする。また血肉が飛び散る音がする。痛みを堪える声がする。さっきので射手は吹っ切れたように、銃弾をミアエルに――。


 ――俺はそこでほとんど何も考えられなくなった。

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