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9話 SOS

「はい、これ返すよ」


 俺はカプセルの入った袋を土下座している女の子の目の前に置いた。

よし、これでデート再開できる。


「あ、あの、ごめんなさい!」


 いや、別に怒ってないからもういいんだけど。

よく見たらこの子、怪我をしているな。ボロボロの布でできてる服一枚着てるだけだし。

歳は俺と同じぐらいか。

⋯⋯治癒魔法、試してみるか。

 攻撃的な魔法ばかり使ってて、回復する魔法は使ったことなかったしな。

姉さんの腕に抱かれたときのぬくもりをイメージして、こんな感じかな。

手のひらがじんわり温かくなっていく。


「あ⋯⋯んんっ⋯⋯!」


「!? 変な声を出すな!」


「レイくん⋯⋯?それなにやってるの?」


 誤解です姉さん。おそらく治癒魔法の効力が高すぎて快感が増幅したのかと思われます。


「この子が怪我してるから治してやろうかと思ったんだけど力の制御に失敗していやらしいことしたみたいな感じが出てますが決してそのような目的でやったわけではなくただただ純粋に助けてあげようとしただけであって」


「落ち着いて! 私もそんな風に思ってないから!」


 一気に喋って喉がカラカラだ。


「服もボロボロね⋯⋯。訳ありかしら。なにか創ってあげよっか!」


 姉さんはそう言うと、ワンピースと帽子、下着を1セット創りあげた。


「追われてるみたいだしこの帽子を被れば目立たないで済むよ! ほら、獣人族の耳も隠せるし、ゆったりしたスカートだから尻尾もしまえるし」


 細かいとこまで気配りができている。

こういうことなんだろうな、俺に足りないものは。

これもメモしておこう。

獣人族の女の子は驚いた顔をしている。


「な、なにこれ⋯⋯もしかして神様!?」


 あながち間違ってもいないような気はするが、一応人間として転生してきたので答えはNOか。


「私たちのことはともかく、さっ着替えましょ! ここに仕切り作ってカーテンかけるね。あ、レイくんは念のため後ろ向いててね」


 姉さん、やっぱり誤解してないか?

俺は姉さん以外の女性に興味ありませんよ。




 女の子が着替えを終えて出てくる。

創りあげた簡易更衣室は役目を果たし、サラサラと消されていく。

片付けが楽で便利な能力だな。


「ありがとうございました⋯⋯」


「いいのよ。深い事情があるんだろうし何も聞かないわ。ただし!さっきみたいに知らない人に迷惑かけちゃダメだからね!」


 おぉ、女神スマイルお叱りだ。羨ましいぞ。


「もし本当に困ってて誰にも頼れないなら私たちに相談しなさい。助けになれるかもしれないから。はいこれ、連絡用の魔具ね」


 いつのまにか作ったのか、小型でボタンがついている機械を手渡した。


「そのボタンを押せば私たちが持ってる端末に信号が送られてくるから。」


「⋯⋯巻き込んじゃってごめんなさい。ありがとう⋯⋯」


 女の子は礼を言うとトボトボ歩いて去っていった。


「ごめんねレイくん、勝手なこと言っちゃって」


「姉さんなら絶対救いの手は出すと思ったし、俺たちはチート能力を持ってるからそういうのも役目かな、ってね」


「うん、全員は無理だけど、目の前で困ってる人がいたら少しでも助けてあげたいね」


 女神をやめても姉さんはやっぱり女神だよ。

俺もそんな姉さんに救われたのだから、手伝うのは当然。


「じゃあデートの続きしよっか」


 やっとだ。やっと元のルートに戻れる。

とんだ脱線をしたもんだ、気を取り直して楽しむとしよう。

ん?今デートと言ったか?姉さんもこれをデートだと思っている?

告白してもいいのか!?



「私、自分で創った服じゃなくて売ってる服も欲しいんだけど後で見に行ってもいいかな?とりあえずさっきのカフェでお茶しながら決める?」


「告白するならやはり夜景を見ながらが定番か。そのためにまず指輪を準備⋯⋯いや、気が早いか、しかし同棲してるのだから結婚を前提にお付き合いしてるようなもの、過程をすっ飛ばしても構わないのでは」


「おーい、レイくん聞いてる?なんの呪文?」


「はっ!いやなんでもないです!お茶しましょう!」





 俺たちは先ほど行きそびれたカフェに入り、冷たい飲み物を飲みながら話をした。

この後の予定、学校のこと、友人のこと、互いのこと。

前世のことはなにも話さない。

 お互いに良い思い出はないから暗黙の了解、とでも言えばいいだろうか、言わずとも通じ合っている。

知らない一面も見えてきて、実に有意義な時間となった。




「私、ショッピングってしてみたかったの!色々見てきていい?」


「うん、ついてくよ」


 まずは服屋だ。

はっきり言って俺は全く興味がないが、はしゃぐ姉さんを見れるだけで価値がある。


「ねぇねぇ、どう?似合う?」


「鼻血が出そうです」


「それどういう感想?」


 姉さんは試着室から出てくるたびにくるくる回って見せながら感想を聞いてくる。

なにを着ても可愛い以外の感想がないんだよな。

語彙力が乏しいのと姉さんに魅力がありすぎる。


「レイくんも私に似合いそうなの選んでみてよ!」


いい⋯⋯のか?


「じゃあこれを」


 服を預けて静かに待つ。

しばらく衣摺きぬずれ音がしたのち、試着室のカーテンが開いた。


「レイくん、これメイド服だよ! こういうの好きなの⋯⋯?というかなんであるんだろう」


 エクセレンッ!!

なんだかんだいいながら着てくれるんだな。いやぁ眼福眼福。

俺の方が楽しんでる気がする。



 2人の服を2着ずつ買い、店を出た。次回のデートで着ていこう。

お次はどの店に行こうか⋯⋯。む、あれは?


「姉さん、ちょっと気になる店があるんだけど」


「どれどれ?⋯⋯武器屋さん?防具もあるけど、レイくんは必要ないんじゃない?」


「いえ、必要か不必要かじゃないんです⋯⋯。異世界といったらこれですよ⋯⋯」


 そう。異人種や魔法はもちろんだが、前世の世界との違いを感じられるのはこれ⋯⋯!

普通の街にある装備屋!

これは男心をくすぐるぞ。まるでRPGの世界だ。

最初にきた街だ、どうせ木の剣、よくて銅の剣だろう。

なんて思っていたがそれはゲームの話。

よくわからない装飾が散りばめられた剣に、禍々しいオーラを放つ杖。「伝説の勇者の盾」と表記されている物まである。


「うわ、やばい姉さん、見てこれ、『邪竜グレイフォース』を一撃で仕留めた剣だって。邪竜がどのぐらい強いのかわかんないけどやばい⋯⋯絶対強い剣だ」


 興奮し、剣を物色していると、姉さんがくすくす笑っていた。


「姉さん?」


「レイくん、大人っぽく振舞ってるけど、夢中になると可愛いとこ出るよね」


「あ、いや、⋯⋯まぁちょっとこういうのは憧れてて」


「お姉ちゃん、レイくんのそういうとこ好きだよ」


好きだよ


好きだよ


好きだよ


 録音魔法とか無理矢理作っとけばよかったか?

今の俺ならなんでもできる気がする。

この好きってどういう好きなんだろう。

いや、わかってる。わかってるが今は夢を見させてくれ。





 素晴らしい武器屋だった。色んな意味で。

この後も劇場や博物館を周ったり、夕飯の食材を買ったりと、世間一般のデートでやるであろう事を、これでもかと堪能した。

 日が落ち始め、辺りが薄暗くなってきた。

最後に俺たちが向かったのは、夕陽を見ながら告白すると必ず成功するという噂の展望台だ。

提供元はリリア嬢である。

ちなみに姉さんには内緒だ。



「綺麗⋯⋯こんな景色初めて」


「き、君、きみのほ、ほうが綺麗だよ」


「なにそれ、今日のレイくん、なんか変だよね」


 笑われてしまったが、俺は真面目なんですよ。

冗談にしか受け取ってもらえないな。しょうがないけども。

ゆるやかな風が、俺を慰めるかのようだ。


「最初はどうなるかなって思ってたけどこうしてると転生してよかったな、って。私がレイくんを助ける立場だったのにね」


「⋯⋯」


「私さ⋯⋯今、すっごく幸せなんだ」


 夕陽に照らされるアンニュイな表情の姉さんを見て、鼓動が加速する。

心臓の音がうるさい。周りのカップルたちにも聞こえてるんじゃないかと不安になるぐらいだ。

このムードに圧されて、もうこのまま勢いにまかせて自分の気持ちを曝け出したい。

限界だ。俺は今日、男になる。



「姉さん、俺、あなたのことが「ビーッ!ビーッ!」とバッグの中からSOSの信号発せられた。

 俺の声はけたたましく響くサイレンに掻き消され、姉さんまで届いていない。

緊張による息切れを起こし、深呼吸をして整える。


「あの子⋯⋯なにかあったんだわ。レイくん!」


「がってん」


 妙な返事をしても頭は真っ白で何も感じない。

急いで気持ちを落ち着け、魔具の魔力の波長を探す。

見つけた、あの子のいる場所。

⋯⋯残念ではあったが、そんなに焦ることはない、か。

すぅ、と一息つく。


「姉さん、デートは終わりかな。魔法、解禁するよ」


「もちろん!」


 姉さんは俺に手を差し伸べる。

その手をしっかりと握り、いざ人助けへ。

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