行商隊の用心棒
ユキとスノウは再び再開した。マトンとは最悪の別れ方をしたが、それでも二人は幸せだった。
帝国から離れるために南に向かうことにした二人だが、スノウはそこで懐かしい顔と出会う。
マトンと別れたスノウだったが、もともと首都バルダンに向かう予定だったため、行く宛がなくなってしまった。
マトンの話から、メルル村での出来事は帝国の知るところとなったらしい。ユキが帝国のリキシュと戦えば、きっともっと多くの人が死ぬだろう。マトンは強かったが、ユキに指一本触れずに敗北していた。それでもユキはまだまだ本気を出していないことがあの戦いぶりから見て取れた。あのまま戦えばマトンは死に、更に追手が差し向けられるだろう。
「これからどうしよう・・・。」
ボソリとつぶやく。
「そうじゃの・・・。帝都とやらには近付かんほうが良いじゃろうな。お前様と一緒ならわしは何処でも良いがのぉ。」
ユキはのんびりと答える。スノウとしては早くどこかに落ち着きたかったが、そんな悩みはどこ吹く風なユキは幸せそうな笑顔をスノウに向けた。
二人は帝都から離れた平原の方を目指していく。二人は今イドル大陸の西側にいる。最初は青色山脈を越えて帝都を目指していたが帝都にはユキを狙う者達がいる。そうすると残された選択はこのまま南に下り、大陸一の穀倉地帯を目指す事だろう。
あそこはまだ帝国の支配が及ばぬ地域で、追手もそこまでは来ないだろうと踏んだのだ。
「おおー!お前様ここの眺めはサイコーじゃのう!」
ユキが小高い丘に立つと両手をあげて喜んだ。目の前には緑の波がゆらゆらと揺れ、太陽の光を反射させていた。
ユキの白い肌と緑がコントラストを生んでいる。
「このまま南にもっと下ればロコっていう村にたどり着きますよ。以前、行商に来た人が教えてくれたんです。」
スノウはその時のことを思い出す。確か何人かに混じって自分と同い年くらいの女の子がいてその子に教えてもらったのだ。
さすがに南部というだけあって太陽が良く照り、蒸し暑いくらいだ。
スノウのシャツの背中が少し汗ばんでいる。ユキさんは大丈夫かなと見てみると、ユキのシャツも汗で群れているらしく魅惑的な胸の曲線がシャツから浮き出るように主張していた。
慌てて目をそらして、前方を眺めると、陽炎の様にゆらゆらと村が見えてきた。ロコの村に到着だ。
ロコの村は今は昼休みの最中だった。よそ者である二人を見ても特に気にした様子はない。交易する人が多いのでいちいち気にする人もいないのだろう。
食事できる屋台の前に通ると、美味しそうな匂いがしてお腹が鳴る。そういえばろくにモノを食べていない。
「お前様。何か食事をとるかえ?」
その音を聞きつけたのかユキはニヤリと笑った。店に入ると、中は活気にあふれている。適当に注文をして待っていると周りの世間話が気になった。
「おい、やっぱり東の奴ら、帝国に対して攻撃仕掛けてるって本当なのか?」
「ああ、元々帝国の支配には反抗的だった奴らも多いし、戦争のために蓄えてたって話だぜ。都から追い出された奴らもいいと聞くしやっぱりきな臭くなりそうだな。」
「ふん。いつも時代も人間は争いばかりしておるの。」
「嫌になりますよね。戦争って・・・。」
あれ今ユキさんいつの時代もって言ったか?なんかまるで昔から知っているみたいな言い方だったぞ。
「あのユキさんって、どこの出身なんですか。」
「ん?なんじゃいきなり。」
「ちょっと気になって、そのこれだけ一緒にいるのに、ユキさんの事良く知らないなってそう思って。」
「・・・あまり昔のことについて話とうない。」
「あ、いや無理強いしてるわけじゃないです。」
「済まぬな。」
聞くべき時ではなかった。沈黙が二人を包む。そこに料理が運ばれてきた。チジャというこの地方では一般的な白湯スープとロジョという羊の肉をパリっとした衣をつけ春巻きにした様な物だ。二つとも出来たてで湯気が出ている。
「いただきましょうか。」
「うむ。」
二人が食べていると、突然お店の人が忙しそうに外にでていく。外から帰ってくるとその足でこちらのテーブルまでやってくる。
「すまないがお二人さん。これからちょっと団体さんが来るからあっちの席に移動してもらっても構わねえかな?」
断る理由もないので二人は言われたとおり席を立つとすぐ後に旅の行商人らしき人達が何人も店に入ってきて席を陣取る。
皆くたびれた調子だ。
先ほどの店主らしき人がやってきて彼らと話す。
「どうした?やっぱりダメそうか?」
すると白髪交じりの中年の男性が首をふる。
「いや、やっぱりだめだ。帝国に払う税金が半端じゃねぇ。戦争に備えて蓄えてんだ。・・・ちょっと危険だが回り道するしかねえかもな。」
「回り道ってことはあの危険な所かい。ちょっと無茶なんじゃないかい?」
「いや、みんなで話し合って、用心棒を雇うって決めたよ。」
「用心棒がいてもねぇ。あそこ、魔物が出るだろう。」
その話をしている途中、店に女の子が1人入ってくる。
あ、とスノウは驚いた。以前行商に来ていた女の子だったからだ。
スノウと同い年もしくは少し上くらいだろうか。豊かな金髪で肩まで伸ばしている。あの時から少し経って大人っぽくなっていた。
向こうは気づいていないらしくそのままテーブルについて他の仲間達と話し始めていた。
「のう。ところで今お金はどのくらいあるのじゃったかのう?」
突然、ユキが話しかける。財布をあさって見る。
「えっと500クレタくらいです。」
ちなみに今食べてる料理が5クレタ。宿代が50クレタ位だ。
「これからも金はかかるはずじゃ。お前様もし良かったらあの用心棒、引き受けてみぬか?」
「用心棒ですか・・・。」
お金が足りないのは目に見えている。このまま旅を続けるのは困難だろう。しかし、また戦いが待ってるかと思うと心が重くなる。そう思っていると大きな声をあげてあの女の子が声を上げる。
「君・・・?メルルの村で会ったことあるよね。」
近づいてくる少女は驚きと嬉しそうな顔をしている。
「私、キアラだよ?覚えてる?」
少女はスノウの手取り目を輝かせる。スノウはびっくりして声を出そうとしたがなぜか喉の奥から声が出ない。
「誰じゃ。お主は。スノウに馴れ馴れしくするでない!」
ユキは頬を膨らませながら二人の間に入り込んでつないでいる手を外す。
「あ、あなたは誰?」
「わしはユキ。スノウとはその・・・命を救われたものじゃ。」
ちらりとこちらの顔を伺ってから悲しそうな顔をする。その顔を見てスノウも胸がちくりと痛んだ。
「どういうこと?」
キアラがきょとんとする。
「ゆ、ユキさん。えっと僕が説明します。」
スノウはキアラや周りの行商人達に事情を話した。ただユキについては途方に困っていた時に出会って助けてもらったとだけ説明した。
どうやらメルル村の惨劇は周辺の村々にはすでに知れ渡っており、その生き残りであるスノウとユキは話題の中心なっていた。
「俺達は話に聞いただけだったが本当にひどい有様だったようだな。スノウって言ったか?拾った命ユキさんにしっかりと礼を言うんだぜ。」
行商人のリーダーであるポットマンが腕を組みながらそう言う。ポットマンは浅黒い肌をしており、口ひげを蓄えている。体つきは屈強だ。
「しかし、ひでー話だ。帝国のリキシュってのはえげつないぜ。何考えてんだ。」
別の男が口を挟む。
「でも、そんな中でもこうやってまた無事に君に会えてよかったよね。それに・・・名前もつけてもらったんでしょ?スノウってすごく素敵だわ。」
キアラは本当に良かったと微笑んだ。その笑顔を見てスノウはドキドキしてあの時と変わらないなと思った。
キアラ達が最初に村に来た時、スノウは馬の世話を命じられた。てきぱきと仕事こなしていると、大きな荷物の影に金髪の頭が動いているのが見える。
なんだろうと見ているとその子がばっと出てきて周囲をきょろきょろと見回す。金髪の頭に褐色の肌、目は大きなブルーだった。
この辺りでは見ない顔だったのできっと行商に来た人の仲間なんだろうと思った。
その子は少し前かがみになって物陰から出てくる。なんだろうと思い目を凝らしてみると手に白い子猫を持っているのが見えた。
こちらに気がつくとあっと声を上げてこっちに近づいてくる。
「ねぇあなた。ちょっといいかしら?」
その子はこちらに気がつくと駆け寄ってくる。肩まで伸びる金色の髪、健康的な白い肌。スノウには何もかもが眩しく自然に視線を下にそらしてしまっていた。
「え、あのなんでしょうか・・・。」
蚊のような細い声でスノウが答えると少女は手に持った子猫を見ながら言った。
「この子ね。さっき道で拾ったんだけどお母さんとはぐれちゃったらしくてね、なんだかぐったりしてるの。どうにかできないかしら。その、なにか食べるものとか・・・あれば嬉しいんだけど。」
確かに見てみるととても弱っている。伊達に長い間動物たちと接していたわけではない。外傷はなさそうなので、病気か栄養失調だろうとスノウには分かった。
スノウは分かりましたと言ってとりあえず精の付くものをかき集めてきた。
子猫はそれを持ってきた途端かぶりつくように食べ始めた。ほっとした様子でその子は猫を見ていたが、すっと立ち上がるとスノウにお礼を言った。
それを機に二人は仲良くなった。少女はキアラと言い、旅から旅の行商をする一族だった。色んな所を飛び回るのでたくさんの面白い話を聞かせてもらった。
「キアラさんは色んな所を旅してるんだね。」
「うん。でも色々飛び回るから友達ができないんだよね。あ、そういえば、名前まだ聞いてなかったね。」
スノウは一気に暗い顔をする。
「あの僕名前がなくて・・・。『あれ』とか『これ』とかって呼ばれてる。」
それを聞いてどういう事かと更に聞いてくる。スノウが少し身の上話をすると、段々キアラの顔が悲しみの顔になり次には怒りを帯び始めた。
「そんなのってないわ!いくらあなたを引き取ったからってそんな・・・そんな・・・奴隷みたいにしていい訳ないわ!」
そうしてスノウに振り向くと手を取って言った。
「私、お屋敷の人たちに一言言ってくる!」
結果から言うとキアラの言うことにあいつらが従うわけはなかった。ポットマンと主人が商談をまとめている所に乱入して、机に足をどんと置き一喝をくれたやったのだ。
主人はキアラの事をその場で罵る。するとそれを聞いたポットマンが怒ってしまいその結果、商談は破談してしまった。
キアラはポットマンからその話を聞いてこうなったらスノウを無理やり連れだそうと計画したが、スノウがこれ以上迷惑を掛けたくないと言ったのでキアラもそれ以上何もできなかった。
後から考えると村を出るべきだったと思う。しかし、その時のスノウには外の世界が怖かったのだ。ここよりももっと自分を傷つける物が存在しているのではないかとそれが怖かったのだ。
「それで、話は変わるんじゃが。その方らは用心棒を探しておるそうじゃな?」
「ん、まあそうだが・・・。誰か知り合いがいるのか?」
「ワシがその用心棒になる。」
「あんたが?いや、冗談いっちゃいけねえよ。こっちは真面目なんだ。」
「ワシは大いに真面目じゃ。強いぞ。」
じっとユキを見ると何かに気づいたようにはっとしたような顔をする。
「あんたひょっとしてリキシュなのか?」
ユキはフンと鼻を鳴らして横を向く。
「・・・どうじゃろうな?」
「・・・ちょっと腕試ししてもらっていいか?」
ユキが外にでると屈強そうな男が一人前に出てくる。ユキの背も高いが、その男はもっと高い。
肩を回しながらこっちを見下ろす。
「こいつはバス。行商隊で一番強いぞ。こいつ相手にどこまで出来るか見せてほしい。」
「わかった。」
体を少し相手に対して斜めに構える。
「あーいいすか?ポットマンさん、本気でいいんすよね?後で怒りませんよね?」
バスは頬をポリポリと掻く。なんだかやりにくそうだ。
「いい。本気でやってくれ。」
二人の真ん中にポットマンが立ち片手を上げ、振り下ろす。その瞬間にバスが一気に近づいて掴みかかろうとする。相手を締めあげて降参させる気なのだろう。
しかし、ユキはその両腕をするりと抜けると相手の後ろ側に素早く回りこんで軽く掌底を放つ。
掌底を喰らったバスは地面に倒れて起き上がらない。勝負はあっけなく決まった。それを見ていたポットマンがポツリと呟く。
「決まりだな。」
こうしてユキとスノウは行商隊の用心棒として同行することが決まった。
1クレタは約100円位です。小銭は銅でクレといい、クレタは金貨でできています。このお金はお屋敷から持ちだしたお金ですね。人さらいに奪われなかったのは・・・運が良かったからということにしといて下さい(汗)
初登場のキアラですがもっと可愛く書きたいという思いはあります。でも描写するって難しい。
もしよかったらご意見ご感想をくれると作者は小躍りします。




