表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ふんじょしっ!  作者: 真木あーと
第五章 危機は突然に
19/26

第五章第一節

 それから数日、苑子は相変わらず御庭番をしていて、昼は推古を含めた三人で食べるようになって、相変わらず親父弁当で、帰りには毎日たまたま学校帰りの翔子と「偶然」出くわす日々が続いた。

 放課後なのに弁当を勧めてくる翔子には少し困っていたが、食ってみると親父弁当よりはかなりうまかったが、そう言うと苑子と翔子で戦いが始まるので黙っていた。

「よお、久しぶりだな」

 そんなある日、俺は校内で見知らぬ男から声をかけられた。

 ちょっとした長身で、筋肉か脂肪かで大きく見える男。

 何より、元から悪そうな顔が、意地悪そうににやにや笑っているのが、面倒事の予感がする。

「えっと……知り合いでしたっけ」

「おいおい、二度も絡んで来ておいて、そりゃねえだろ」

 その男が、俺に一歩近づく。

 圧倒的優位な立場からの態度だ。

 あ、この態度に喋り方。

「Bボーイの格好してた人ですか? 確か、ジーゴさんって呼ばれてた」

「おうよ、てめえにワナビー呼ばわりされた奴よ」

「この学校の生徒だったんですね。下校時間にあの格好で歩いてたからてっきり社会人かと……」

「一昨日まで停学しててな。復帰したばかりよ。ま、俺もてめえも運が悪いな。俺はここでてめえ殴ってまた暴力で停学、てめえはあの女がいない時に俺に出くわして──」

「苑子!」

「おそばに」

「…………」

 ジーゴさんが、さっきまでの態度のまま、驚いた顔で口をあんぐり開いている。

「む、この人はカラオケでおやかたさまを殺そうとした人」

「殺そうとなんてしてねえよ! いや、してませんっす!」

 ジーゴさんは一瞬で態度を変える。

 ああ、この人、苑子が怖いんだ。

「どうしてまたおやかたさまの前に現れたのですか?」

「いえ、謝って仲直りしようと思いましてですね!」

 そう言いながら肩を組んできた。

 逃げようにも物凄い力で組んで来るので、逃げられない。

「仲良くするのですか? メアド交換とかもするのですか?」

「もちろんっす! な?」

「あー、はい。そっすね」

 ここで本当のことを言っても誰も幸せになれないので、話を合わせることにした。

「せ、赤外線でいいかな?」

 ジーゴさんが携帯を差し出してくる。

 えー、本気で交換するのかよ。

 俺は携帯を出して、とりあえず交換だけは済ませた。

 名前を確認すると、大久保治五郎になっていた。

 なるほど、だから ジーゴさんか。

 とりあえず「苑子関係者」フォルダに突っ込んだ。


 その夜、毎日送られてくる苑子と翔子だけじゃなく、ジーゴさんからも夕飯の写メが送られてきた。

 どうしようこれ。

 あと、なんかメル友って夕飯の写メ送り合うルールみたいなものあるのか?

 とりあえず、ジーゴさんのは見なかったことにしよう。

 翔子は返さないと後から不安げなメールが送られてくるので、適当に送り返した。

 で、翔子にだけ送ると苑子が怒るので、苑子にも送る。

 で、二人に送ると不平等なので、結局ジーゴさんにも送った。


          ▼


「百地どの、ちょっとお話があります」

 ある日の放課後、苑子が来たと思ったらすぐに推古にそう言った。

「僕にかい? 景冶に関することかな?」

「違います。もう一つの、某と百地どのに関係する話です」

「ふむ……」

 推古は思案気に顎に手を置く。

 苑子と推古に関係する話? 俺以外の事で?

「景冶、ちょっと先に帰ってくれないか? 苑子君を借りるけど、彼女なら後で追いつけると思うから」

「ああ、分かった。じゃあな」

 思うところは色々あったが、俺は素直に帰ることにした。

 二人と別れて校舎を出ると、日はまだ高かった。

 久しぶりにどっか遊びに行きたい気分だが、その遊び相手の推古と苑子がいないし、一人で行っても仕方がないしな。

 ああ、そう言えばこうして歩いてると、いつも翔子とそのうちどこかで会うんだっけ。

 前にカラオケ行く約束してからまだ行ってないな。

 とりあえずあいつとカラオケ行って、苑子と合流するってのもいいな。

 よし、じゃあ、翔子を探して苑子に電話して──。

「ん?」

 携帯が鳴り始めた。

 苑子か? そろそろ話が終わったくらいだろうしな。

 出ようとして携帯を取り出すと、そこに出ていた名前は苑子じゃなかった。

 大久保治五郎。

 え? なんで?

 本気(マジ)でなんで?

 今、俺と苑子が別々だってことを知ってるのか?

 俺は、恐る恐る電話に出る。

「もしもし、ジーゴさ──」

「四谷か? 逃げろ!」

「は?」

「どこかに身を隠せ! あのガキも一緒に!」

「何ですか?」

 ジーゴさんが結構切迫した声で逃げろと言うので、俺もちょっとだけ緊張する。

「ガラの奴がよ、ナオトさんに言ったらしい! お前らマジでヤバいから逃げろ!」

「ちょっと待ってくださいよ、ガラって誰ですか? あとナオトさんって?」

「ガラはこの前カラオケで会ったろ、あいつだ」

「ああ……」

 あの、グループのボスっぽい人だな、苑子に膝一発でやられたけど。

「あいつがあの事をナオトさんに密告した(チクった)んだ! ナオトさん面白がって狩りを始めるって言い出してよ」

 なんか、ヤバい事になってるな。

「ナオトさんって、誰ですか?」

 俺は、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

「ここら一帯を統括し(シメ)てる人だ。なんかヤベエ軍団持ってるから誰も敵わねえ」

 やばいよそれ! ヤクザじゃないだろな!

 さすがの苑子もヤクザには敵わないぞ!

 一対一ならともかく、奴らは集団だし、場合によっては非合法の武器も使う。

「とにかく、さっさと逃げ──」

「!?」

 俺は、携帯を取り上げられた。

 目の前にいるのは、長髪を二十センチは立ててる、それがなくてもかなり長身の人だ。

 顔はジーゴさんやガラって人みたいにいかにもな悪人顔じゃない。

 軽く化粧をしてるから分かりにくいが、おそらく素顔は格好いい青年実業家みたいな、真摯というか真面目が似合う感じだろうか。

 髪は金に染めていて、一昔前のヴィジュアル系のメイクがよく似合っていた。

 年齢は二十歳くらいだと思うが、化粧のせいでよく分からない。もっと歳かもしれないし、もっと若いかもしれない。

 唇にはピアスが二つ、耳たぶには三つずつついていて、胸には大き目のシルバーチェーンがぶら下がっている。

 長身の身体は細身だが、肉付きが悪いわけではなく、筋肉もちゃんと付いている。

「よお、ちょっと付き合ってくれねえか?」

 余裕のある態度でその人がそう言った。

 俺と彼の周囲には、いつの間にか数人の男が取り囲んでいた。

 カラオケボックスで会った連中とはちょっと雰囲気が違う。

 何らかの訓練を受けたようなそんな雰囲気がする連中だ。

 俺に選択権は、おそらく存在しない。

「……ナオトさんですか?」

 俺はとりあえず聞いてみた。

「ほう、名前は知っているのか。……ジーゴか?」

 ナオトは、俺から奪った携帯の画面を見て言う。

 それはまだ切断されていないようだ。

「よお、ジーゴ。てめえ、明日折檻(処刑)な」

 俺の携帯にそう言ってから、切って俺に放り投げる。

 俺は受け取る。

「ぐっ……!」

 通信が切れているのを確認していると、身体の中心が熱くなった。

 ナオトが、俺の鳩尾に一発入れやがった。

「悪いな、てめえには関係のねえ事だが、付き合ってもらおうか。てめえが忍者と絡んでんのが悪いんだぜ?」

 忍者?

 こいつ忍者とか言ったか?

 まさか、苑子関係か?

 ヤバい、素人の俺だって、こいつが強いのは分かる。

 苑子が敵う相手じゃ、ない。

 だが俺は、何も出来ないまま、意識を失った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ