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ふんじょしっ!  作者: 真木あーと
第三章 デートはふんどしと沢山の敵と共に。
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第三章第四節

「ふむ、望月君か……分かった」

 推古は鋭い目で、まるで品定めするように翔子を見る。

 翔子は少し緊張したように居住まいを正す。

「望月君、君は友達でもないと言い張る苑子君と、どうしてそこまで必死になって同席したいんだい?」

「え? あ……いえ、別に……」

 翔子は何故だかちらりと俺を見て、それからうつむいた。

「ふむ。大体分かったよ。紹介が遅れたね、僕は百地推古。これからもよろしく」

「あ、はい、よろし……百地?」

 翔子の表情が一瞬だけ厳しくなる。

「あ、いえ……よろしくお願いします」

 その後、少し緊張したようにそう言った。

「ふう、全く君は本当に放っておけないね」

 溜息とともにそう言って、何故か俺を見る推古。

「俺? 俺は関係ないだろ」

「関係はあるよ。ま、君に怒るのは筋違いというくらいの分別は僕も持ち合わせているけどね」

 推古が俺を責めたいと言わんばかりに俺を睨む。

「おやかたさま、デートの続きはどこに行きましょう! カラオケがいいですか」

 苑子が少し必死気味にそんなことを聞く。

 おそらく自分は特別で今はデート中だってことを強調したいんだろう。

「カラオケか、いいね、そう言えば景冶とは最近行ってなかったね」

「な、何来ようとしてるんですか! 今は某のデート中なのです! 邪魔しないと言ったではないですか!」

「邪魔しないとは言ってないよ。君を追い出したりはしないと言ったんだ。でも君は僕を追い出すのかい?」

「くぅぅっ!」

 苑子が悔しがる。

 ま、俺も太刀打ちできない推古を言いくるめるのは苑子には不可能だろうな。

「そっか、最近カラオケに行ってないわね。私も行こうかしら」

「行けばいいです。ヒトカラすればいいです」

「何でよ! 一緒に行くわよ!」

「迷惑です、翔子は音痴です」

「なっ! 苑子よりはマシよっ!」

 ……音痴では、あるんだ。

 ちょっと涙目になってるあたり、気にしてるのかもな。

「とにかく! 私も行く! これは決定!」

 推古とは違い、感情で押し切る翔子。

 まあ、それでも苑子には効いてるらしい。

「くむぅぅぅっ! おやかたさまぁ……!」

 苑子は俺に助けを求めてきた。

 しょうがないなあ、ここは苑子の味方をしてやるか。

「推古、翔子、悪いな、今日は苑子のとデートだから遠慮してくれ。また今度みんなでカラオケ行こうな?」

 俺が真剣な表情で二人に言う。

「ま、景冶がそう言うならしょうがないね」

 推古が諦め気味に言う。

「こ、今度っていつですか? 明日ですか? 明日ですね?」

「落ち着け翔子。まあ、またみんなの予定が合った時でいいから、みんなで楽しもうな?」

「じゃ、じゃあ、私の連絡先渡しておきます。ふるふるでいいですか?」

「あ、ずるい! 某もまだなのに!」

「ちょっと黙ってて、通信できないでしょ!」

「おやかたさま某も!」

 翔子と苑子が二人そろって最新スマホを突き出す。

 二人のスマホの画面には「既に友達登録されています」と表示されている。

 近いから二人で接続されたらしい。

 何だかんだ仲いいな、この二人。

「忍者が二人揃って最新スマホかよ……あー、俺やってないから赤外線でいいか?」

 俺はスマホですらない携帯を取り出しながら言う。

「当然です。忍者は情報を先取るものです」

 まあ、親父さんが携帯ゲーム開発者だしな。

「うちは父がこの携帯を開発してたので」

「……忍者ってすげえな」

「僕の父は携帯の通信網の管理している会社を持ってるけどね」

「いや、お前は関係……って携帯会社!?」

 さらりと言ったが、通信網の管理って日本には携帯の通信網を持ってる会社なんて数社しかないぞ?

「お前ってもしかして、結構令嬢なのか?」

「そういう言い方はやめて欲しいな。僕には似合わないだろ?」

 否定しないって事はそうなのかよ。

 頭がよく顔もよく、性格も家柄もいい。

 こいつ、実はハイスペックなんじゃないのか?

「某の父上は開発者兼経営者なのです! ハイブリッドなのです!」

「いやそれってベンチャーって事だろ」

 それを悪いとは言わないけど、そこで張り合ってどうする。

「令嬢ですよ? 深窓のお嬢様ですよ?」

「深窓じゃないし。そもそもお嬢様はふんどし穿かないし」

「ふんどし……?」

「おやかたさま! 某のプライバシーは秘密です!」

 苑子は赤くなって俺の口を塞ごうとするが、手が届かない。

「あんたまだふんどししてるの?」

 翔子が言う。

 まだ、って事はこの子も昔はふんどしだったとも取れるんだが、それを聞くほどの勇気は俺にはない。

「……悪いですか?」

「でも、生理の時どうしてるの?」

 翔子がおそらく素朴な疑問を口にして、俺がいることに気付いて頬を染める。

 もういいよ、俺は空気になるからみんなで男子禁制(ガールズトーク)しててくれよ。

「某は忍者の神に選ばれているのです。だからそんなものはありません」

 忍者の神っているんだ?

「ええっ!? まだなの? 十五歳なのに?」

 翔子が驚く。

 うーん、俺もよくは知らないが、保健体育で聞く限り、初潮ってのは十二歳くらいだっけ?

「大丈夫です。お医者さんも『遅い子も結構いるから大丈夫。のんびり来るのを待とうね?』って言ってくれたのです」

 医者に相談してんじゃん、神に選ばれてないじゃん。

「そっか……」

 さっきまで厳しい目で苑子を睨んでいた翔子も、今では温かい目で見ている。

 苑子は黙って耐えている。

「ともかく、苑子君もそろそろショーツを買う時が来るのではないかな?」

「……はい。その日をお赤飯を炊いて待っています」

 いや、来てから炊けよ。

「それなら先達として僕からアドバイスしよう。まずは色だけど、肌に近いか遠いかでまず分けて──」

 その後、推古によるパンツについてのアドバイスが始まった。

 それを苑子だけでなく、翔子も興味深く聞いていた。

 俺は居たたまれなくなったけど、行き場もないので、とりあえず固まっていた。

 地獄のような時間はみんなが食事を終えるまで続いた。

 あ、ちなみに翔子だけでなく推古もパンケーキを苑子にやったが、苑子は一口食べて「おなか一杯です」とか抜かしたので、残りは俺が食べることになった。


 その後、二人と別れてカラオケに行くことになった。

 苑子はさっき翔子が言ってた通り、かなりヘタクソだったが、まあ、可愛いのでよしとしよう。

 オーダーの中にパンケーキがあって、苑子が注文しようとしたので止めた。

 ちょっと休憩してドリンクバーに出る。

 ついでなので苑子のオレンジジュースも持って行ってやろう。

 そう思って、氷を二つ分入れている時だ。

「よお、いいところで会ったな」

 声をかけられたので振り返ると、そこにはこの前のB系ファッションをした人がいた。

 相変わらずバリバリのB系ファッションだが、その表情にはかけらも友好的な雰囲気が感じられなかった。

「こ、こんにちは、お久しぶりっす」

 俺は緊張しつつ、とりあえず挨拶をしてみた。

「久しぶりだな。俺をコケにしたお前に、また会いたかったんだよ。あの女もいるんだよな?」

「はい、部屋に……いえ、この前はすいませんでした。ワナビーの意味知らなかったんで」

「そんなこたあ、もうどうでもいいんだよ。お前らは俺を殺そうとした。本気じゃあなかったんだろうが、そうしたって事が問題だ」

 その人は物凄い眼力で俺を睨む。

「お前らには落とし前を付けさせてもらう」

 ヤバい、これはちょっとヤバいな。

「おやかたさまに何してるんですか?」

 いつの間にか俺の前にいた苑子が、B系の人を睨んでいた。

 手には苦無を持ち、いつでも攻撃に出られる体勢だ。

 情けない事に、俺は苑子の顔を見てほっとしてしまった。

「来やがったな……おい、みんな! こいつらやっちまえ!」

 その人が怒鳴ると、二つくらいのカラオケルームからぞろぞろと同じようなB系の格好をした人らが出てきた。

「何だ? おい、ジーゴ、何やってんだ?」

「こいつらに礼がしたくてよ。ちょっと手伝え」

「おいおい、女のガキに弱そうな男じゃねえか。こんな奴、お前ひとりで充分だろ?」

「女の方はヤバい奴だ、油断するな」

「しょうがねえなあ、さっさとやるか。おい、お前ら、女の方やっちまえ!」

 その男の号令で、後ろにいた男たちが俺たちを囲む。

「おやかたさま、殺人は?」

「認めん。殺さないように場を収めろ」 

 俺は何人か殺してもいいから何とかしろ、と言いたくもなった。

 この状況は本気でまずいし、俺もかなり怖かったからだ。

 だが、ギリギリのところでそう答えた。

「ぎょいです」

 苑子はそう言うと、俺の前から消えた。

 消えた?

 ドゴォ

 俺が苑子がいなくなったことに疑問を感じた瞬間、そんな音が聞こえた。

 少し離れたところ、さっきジーゴとか呼ばれてた人と話していた、おそらくこいつらのボスの顔面に、苑子の膝がめり込んでいた。

 そいつは声もなく倒れた。

 俺を含めてみんなが呆然とする中、今度はジーゴとか言う人の顔面に蹴りを入れていた。

 ジーゴは鼻血を吹いて倒れる。

 巨漢とは言えないが、大きな身体の二人が、苑子みたいな小柄な女の子に倒されるという、見ていても信じられない光景を呆然とただ眺める、男たち。

 しん、とする廊下。

 遠くから誰かが熱唱する声が漏れてくる。

「まだ抵抗したいのは誰ですか?」

 振り返りながら、苑子が聞く。

 多少殺気を放っている苑子に、誰も応える者はいなかった。

「では終わりですね。おやかたさまはこれから某と我が家に来るのです」

「あ、はい」

 俺も、その雰囲気に飲まれ、そう答えてしまった。


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