第二章第四節
さて、翌日最初の休憩時間、十分しかない時間に、俺は1年2組へ行ってみる事にした。
推古が絡むとまた面倒なので、あいつが来る前に教室を出てきた。
忘れていたが、苑子はいじめられていると言っていたので、とりあえずはそれが深刻なものかどうか見に行きたかったのだ。
まあ、女の子同士のいじめは目に見えるようなやり方じゃないし、場合によっては物凄い陰湿だったりもするし、年上の男が間に入れば余計にこじれる事も多いだろうが、とりあえず、クラスの様子を見たいと思った。
俺も空気を読めない人間じゃない、クラスの空気を見れば、苑子がいじめられているかどうか大体分かると思う。
まあさ、あいつも俺をおやかたさま、とか言って慕ってくれているわけだし、俺が解決できなくても心の支えくらいにはなりたいと思う。
下級生の廊下、教室は、俺たちのそれと全く同じはずだが何故か空気が異なっていた。
俺は若干肩身の狭い思いをしつつ、2組の教室を見つけ、覗こうとした瞬間。
「離してください!」
教室内から、苑子の声が聞こえた。
何だ? いきなりいじめの現場か?
俺は踏み込もうとする心を何とか抑え、そっと教室の中を覗く。
「離してと言っているのです! おやかたさまに会いに行かなければならないのです!」
少し泣きそうな声で叫んでいる苑子のそばに、十人近い女の子たちが集まっていた。
そして、みんなで苑子を取り囲み、交代で抱きしめて撫でまわしていた。
「おやかたさまだって! かーわーいーいーー!」
ぎゅうぅぅっ!
抱きしめられて苑子の身体が女の子群の中に沈む。
「おやかたさまって誰?」
「ほら、前に苑ちゃんが言ってた2年の先輩じゃない?」
「え? だれ? 苑ちゃん彼氏いるの?」
「ねえ、おやかたさまって苑ちゃんの彼氏?」
「違……そうです! おやかたさまは某のカレシーです!」
おい、嘘を吐くな。
「へえ、苑ちゃん彼氏いるんだ。可愛いから当然なのかな」
「某にこんな仕打ちをすれば、カレシーが黙ってませんよ! おやかたさまは独占欲の塊ですから、ひどく嫉妬しますよ?」
お前、下級生に俺の評判を下げること言うな。
「えー、あの人ってそんな人なんだ」
「そうです! この前も無理やり家に連れて行かれ、裸にされたのです! そして今日は帰さないと言われました!」
『えぇぇぇぇぇっ!』
「ちょっと待て! 苑子お前黙って聞いてれば勝手なこと言いやがって!」
俺は思わず下級生の教室に怒鳴ってしまった。
教室は一瞬だけしん、となった。
苑子のそばの女生徒だけでなく、近くで騒いでいた男子生徒もだ。
「おやかたさま! 来ないで欲しいと言ったのです!」
「……あれ、誰?」
「あれが噂の彼氏じゃない? 確か2年の」
「ええっ!? あんな人が苑ちゃんを裸に?」
「……幼女好き?」
「あー、とりあえずだ、俺はお前を裸になんかしてないだろ。そもそも俺らつきあって──」
「おやかたさま! 某にも見栄というものが! 同級生の前では背伸びしたいのです!」
「背伸びだって! 苑ちゃん可愛い!」
ぎゅう。
「ふんぎゃー!」
再び苑子が女子群の中に沈む。
……まあ、もういいか。
なんか説得を試みたらかなり体力が要りそうだ。
チャイムも鳴ったし帰ろう。
本当はもっと時間をかけて誤解を解きたかったが、仕方がない。
女の子の噂の拡がりは早い。
このままほっとくと明日には一年の女の子全員に俺が苑子の裸を見たロリコン野郎だと広まっているだろう。
それもこれも苑子の見栄が原因だから、後で懲らしめるとして、まあいじめでなくて本当に良かった。
うん、それだけは、心から思う。




