氷の覇王が最も欲しかった者
「馬鹿な・・・。娘一人のために玉座を捨てただと・・・?」
呆然とするナルシスに追い打ちをかけるように王は口を開く。
「つまり・・・俺はウルアークの王ではなく、一人の男、ラディウスとしてここに来た。咎を受けるは俺一人。国は俺が最も信頼する臣下に託した」
ディーナはマルドアが王が成すことに全力で協力することを思いだした。今回も止めることなくサポートし、喜んで送り出したのだろう。
「つーか、国の問題っつっても、こんだけ不利な状況でまだ戦うってーの?俺ら3人だけで攻め落とされてんだぜ?これがウルアークってなったら・・・俺が認める猛者どもっがわんさかいる。それでもテメーは勝てるって思うのか?」
「ち、父上はどうした!」
「騒ぎにならねえよう寝室で寝てもらってる。他の従者にも理由つけて休んでもらってる。勿論何人かは違和感を感じてるだろうが、この部屋に来たら殺されるかも知れねえって流したらこの状況だ」
肩をすくめてみせるギドにナルシスは思いつく言葉がなく、ただただ立ち尽くした。そんな中、ラディウスがディーナを抱き上げる。
「返してもらう」
窓から飛び出そうとしたラディウスを「待ってくれ!!」とナルシスが止める。
「他の物は何でも与える!だからその子だけは・・・っ」
ギドはディーナがここでも心の拠り所になっていたと知る。さすがと言えばさすがだが、勿論ラディウスの答えは見えている。
「俺も貴様同様にディーナ以外を必要としない」
絶望したように顔を歪めるナルシスの目の前でラディウスはディーナを抱き上げたまま窓から飛び降りた。そんなナルシスの肩をギドがポンと叩く。
「今の嬢ちゃんの顔見たろ?」
青年の腕の中の少女は真っ赤になりながら、それでいて嬉しそうに青年に顔を寄せていた。あの顔を自分がさせられるだろうか。そう思った時見つからない答えに暗然とする。
「テメーに入る隙はねぇってこった。んで・・・相談なんだが」
ギドはニッと笑う。その笑顔にシンはゾクリとした。
「今回の件。訓練場入り口崩落は事故。嬢ちゃんがいなくなったのはお前が手放したから。ま、簡単に言っちまえば今日の騒動は全部お前のせいってことで片付けてくれ。言っとくが、俺は結構情報通だからな?国あげて何かしようってんなら・・・その前に国の頭がなくなるからそのつもりでな?」
『王族殺し』の言葉には重みがある。シンはおちゃらけて見えたこの男を敵に回したくないと強く思った。
「それから・・・嬢ちゃんとはラディが最初に会ってんだ。出会う順番が逆だったらまた違ったかもな。ただ・・・一番最初に出会った男もここにいるがな」
「へ?」
不意に話をふられシンは驚く。そしてクシャッと頭を撫でられた。
「思い切り泣いとけ。惚れた女のためにここまでできるオメーは本当にいい男だ。すげぇよ」
別に泣くつもりなどない。ディーナが幸せならそれでいいと、そう思っていた。だが、歪んでいく視界に我慢出来ず頬を涙が伝う。
悔しい。悔しい。
一番最初にディーナに惚れたのは間違いなく自分だという確信がある。
いつだって大事に、いつだって優先してきた大切な人。
思いを告げることもなく、自分には付け入る隙がないと思い知らされた。
多分、目の前の事実を突きつけられることなく防ぐ方法は今までいくつかあったのだと思う。
それでも、惚れた女の幸せが見たいと動いた自分は馬鹿かも知れない。
けど・・・幸せそうなディーナを見て嬉しいとも感じれた。
「その涙はかっこ悪くねえよ。お前は本当にいい男だ」
絶対にあの2人の前で涙は見せたくないからここで泣いておく。
次に2人にあって、2人が生涯添い遂げると答えたら、笑って「おめでとう」と言おう。
そう決めた。
ディーナは着替えを済まし、ラディウスと共にウルアークに向かう馬車に揺られていた。隣同士で座り、ラディウスは外の景色を眺めている。
「あの・・・助けていただきありがとうございました」
「・・・遅くなってすまなかった」
おずおずと礼を言うとラディウスはディーナに向き直り謝罪した。
ラディウスの言葉にディーナはいえ!と両手を振る。
「助けていただけなければどうなっていたことか・・・」
「・・・今までも乱暴にされていたのか?」
「いえ!いつもはただ歌うだけでした。ナルシス王子があんなことをされたのは今日が初めてです・・・」
「そうか・・・」
暫し沈黙が二人を包む。だが、不意にディーナの手にラディウスの手が重ねられ、ディーナはカッと赤くなる。そっと伺えば平然とした表情のラディウスの姿があった。しかし、その耳が赤くなっていることに気付き、ディーナは俯くことしかできなかった。
城に着くとメイドや兵士達が出迎えてくれた。その先頭に、マルドアの姿が在った。
「お帰りなさいませ」
微笑んだマルドアは、ザッとラディウスの前にその場に膝をつき頭をたれる。
「私が認める王はあなたただ一人。譲り受けた玉座を今一度お返し致した上で、貴方の右腕として働かせてください」
「いいのか・・・?」
「はい」
マルドアの表情に迷いはなく、どころか嬉しそうですらあった。
「すまない。ありがとう。マルドア」
「いえ。ですが・・・一つだけ願いを聞いていただけますか?」
「ああ」
「今日はまだ私が王でいさせてください。その間にあなたはディーナに全てをお伝えください」
「・・・分かった」
ラディウスはディーナを連れて部屋に向かった。そして、部屋に入った途端再びディーナを強く抱き締める。
「陛下・・・?」
「ディーナ・・・本当にすまなかった・・・っ」
抱き締められる腕に力がこもる。
「俺は・・・俺はお前が好きだ」
告白に驚き、ディーナが目を丸くする中もラディウスは言葉を続ける。
「愛している・・・っ」
擦り寄るようにディーナを掻き抱くラディウス。ディーナは呆然としていたが、やがてラディウスの服をつかみ、言葉をつむぐ。
「私・・・も・・・」
返事をしようとしたディーナだったが、不意にズルッとラディウスの力が抜けたのが分かり、半ば倒れこむように床に座り込む。
「へ、陛下?」
声をかければ返事代わりに寝息が聞こえ眠っているのだとすぐに分かった。よく見れば目元の隈がすさまじい。出会った頃のようだ。
ディーナはラディウスのために子守唄を奏でた。
ラディウスはゆっくりと目を開け、同時に耳に届く美しい歌声にハッと起き上がった。
「おはようございます。陛下」
振り返ればそこにディーナがいた。そして自分が先ほどまでディーナの膝の上で寝ていたことを悟る。
「す、すまない」
「何も謝られることはありませんよ」
ディーナの服が乱れていないことを確認し、襲い掛かった訳ではなさそうなことだけは理解する。ディーナに会った途端感情という感情が溢れて抑えるのに必死だった。正直記憶が曖昧で何を言ったか覚えていない。ならばもう一度・・・
「陛下」
ディーナに呼ばれふと視線を向ける。
「私はただの村娘です。皆様に認めてもらえるこの声以外、長所はありません。それでも・・・それでも、貴方のお隣にいてもいいですか?」
予想外の言葉に暫し硬直した。だが、言葉より体が動き、ディーナを抱き締める。
「勿論だ。愛している・・・ディーナ・・・」
ディーナは幸せそうに笑い、ラディウスの胸に顔を埋めたのだった。
―END―
ここまで読んでくださってありがとうございます!日明です。
第1部は完結しましたが、続きます。初期の予定ではもう二悶着ぐらいあってから二人が付き合う予定だったんですが、ナルシスが思ったより活躍した結果こうなりました。そのため残りの二悶着は第二部でご紹介になります。
次から次へとネタが沸いてくるこの感覚は久しぶりです。中学の頃がピークで高校に入ると途端に出て来なくなったので(笑)
私が好きなものを皆さんにも楽しんでいただけて嬉しいです。そしてこの作品を面白いと思ってくださっている皆さんとは気が合うと思いますので是非仲良くしてください。
感想や評価、ブックマークは凄く私のやる気に繋がるので「早く続き書いてー」という時は感想などいただけると多分早くなります(笑)
皆さんのおススメ作品も是非教えてください。中々感想を書いたりできないかも知れませんが、凄く読みたいです。
最後に覇王様の子守唄は2巻に続きます。明日の朝また更新しますので覇王様で検索していただけるとすぐにヒットすると思います。大体8時過ぎぐらいには更新してると思うんですが、間に合わなかったらすみません(汗)
ここまでお付き合いいただき本当にありがとうございました。王とディーナのピュアッピュアッな関係をこれからもお楽しみいただきつつ、他の人達の恋模様もお楽しみいただけたらと思います。
第二部でも皆さんを会いできること楽しみにしています。
日明
7月7日追記
アクセスの伸びがあまりにも激しいので確認してみたら恋愛日間ランキング67位に入ってました!本当に嬉しいです!ありがとうございます!続きの方も頑張っていきますのでよろしくお願いします。
7月8日追記
恋愛日間ランキング53位に入り、ブックマーク100件突破。1日のアクセス数1万突破しました!皆様本当にありがとうございます。一気に伸びすぎて逆に怖いですが続きの方も書いていってますのでよろしくお願いします。
7月9日追記
日間ランキング134位 恋愛日間ランキング30位 1日のアクセス数1万5千突破。ブックマーク数150突破。本当に凄く嬉しいです!勿論自分がまだまだ未熟なことは自覚しておりますのでこれからも精進致します。でも嬉しいことが重なりすぎて逆に怖くて・・・小心者なんです。でもどうなったか毎日確認はしてます(笑)皆様本当にありがとうございます。続きも是非!
7月14日 追記
1章目に追記しましたので気になる方はご確認ください。ランキングの最高は日間93位。恋愛19位でした!凄く感動です!ありがとうございます!楽しんでくださる方が増えて嬉しいです♪本当に趣味全開なので警戒しながら楽しんでください!




