第一話 星を見上げた夜
こんにちは!
新作『星追いの少女、世界を旅して無双する』です。
師匠に育てられた少女リリアが、師匠の願いを胸に世界を旅する物語です。
不定期投稿になりますが、楽しんでいただけたら嬉しいです!
山の朝は、いつも静かだ。
鳥のさえずりと、木々の葉が風に揺れる音。
そんな音を聞きながら、私は今日も目を覚ました。
「……んー。朝だぁ」
布団から起き上がり、窓の外を見る。
山の向こうから朝日が昇り始めていた。
私は大きく伸びをすると、寝間着を着替えて外へ出る。
「おはよう、師匠!」
「おう。今日も早いな」
小屋の前では、師匠が薪を割っていた。
白い髪と、長い髭。
大きな身体に、年季の入った服。
私を拾って育ててくれた、世界で一番強い人。
私の師匠だ。
「今日は何をするの?」
「いつも通りだ。剣の鍛錬をして、朝飯を食って、魔法の勉強。それから……」
「それから?」
「今日は夜、少し特別なものが見られる」
「特別?」
師匠は空を見上げた。
「何百年に一度と言われる流星群だ」
「流星群!」
私は思わず声を上げた。
星が流れるところは、何度か見たことがある。
でも、流星群なんて、聞いたこともない。
「すごい! どんな感じなの?」
「さあな。俺も実際に見るのは初めてだ」
「師匠も?」
「ああ」
師匠は少しだけ笑った。
「だから、楽しみにしておけ」
その言葉を聞いて、私は今夜が待ち遠しくなった。
◆
夜。
私たちは小屋の近くにある、開けた場所へやって来た。
そこからは山の向こうまで見渡せる。
空には、無数の星が輝いていた。
「わぁ……!」
思わず声が漏れる。
そして、最初の星が流れた。
「あっ!」
続いて、二つ。
三つ。
気づけば、空のあちこちを光が駆け抜けていた。
まるで星が降ってくるみたい。
「すごい! すごいよ師匠!」
私は空を見上げながら、あっちを指さしたり、こっちを指さしたり。
師匠はそんな私を、少し離れたところから見守っていた。
「……綺麗だね」
「ああ」
「こんなにたくさんの星が流れるんだね」
「ああ」
「師匠、見て! あっちにも!」
「見ているよ」
私は夢中になって空を見上げていた。
師匠も、きっと同じくらい楽しんでいる。
そう思っていた。
◆
翌朝。
「師匠ー! 朝だよー!」
いつものように師匠を起こしに行く。
けれど、返事がなかった。
「師匠?」
部屋に入ると、師匠はベッドに横になっていた。
いつもなら、私が起こす前に起きているのに。
「……どうしたの?」
「少し……身体がだるくてな」
師匠はそう言って、ゆっくりと身体を起こそうとした。
でも、途中で顔をしかめて、再び横になった。
「師匠?」
「大丈夫だ。少し休めば……」
その声は、いつもより弱かった。
私は慌てて師匠のそばへ駆け寄った。
「お医者さん呼んでくる!」
「待て」
師匠が私の手を掴む。
「この山に医者はいないだろう」
「でも……」
「大丈夫だ。少し休めば治る」
師匠は笑った。
いつもと同じように。
だから私は、その言葉を信じた。
◆
それから数日。
師匠は、ほとんどベッドから起き上がれなくなった。
食事もあまり取れない。
私は山で採れる薬草を集めて、師匠に飲ませた。
けれど、良くならない。
「師匠……」
「そんな顔をするな」
「だって……」
「リリア」
師匠が私を呼んだ。
「お前に、話しておきたいことがある」
私は師匠のそばに座った。
「……何?」
「俺はな。昔、騎士をしていた」
「うん。知ってるよ」
「そうだったな」
師匠は少し笑った。
「俺は、世界の醜いところをたくさん見てきた。人間の欲や、争いや、裏切り……そういうものに疲れて、山に逃げてきた」
「……」
「だが、お前には、俺と同じ道を歩んでほしくない」
師匠は窓の外を見た。
「世界には、醜いものもある。理不尽なことも、悪い人間もいる。だが、それだけじゃない」
「……うん」
「美しい景色がある。美味い飯がある。良い人間もいる。お前を笑わせてくれる仲間だって、きっといる」
師匠は私を見た。
「だから、世界を見てこい。俺のように、逃げるな」
私は俯いた。
「……師匠は?」
「俺はもう、十分だ」
「……」
「お前は、まだこれからだ」
その言葉が、胸に残った。
◆
師匠は、私に色々なことを教えてくれた。
山の外にある国のこと。
街で暮らす人々のこと。
法律や常識。
旅をするときに気をつけること。
そして、世界には私が知らないものが、まだまだたくさんあること。
「街では、勝手に人を殴るな」
「どうして?」
「捕まるからだ」
「……力がすべてじゃないの?」
「そういう話じゃない」
師匠は頭を抱えた。
私は、街というものは難しいところなのだと思った。
◆
ある夜。
私は師匠のために、魔法を使った。
ずっと勉強していた魔法。
星の位置を観測し、空に映し出す魔法。
「師匠、見て!」
部屋の中に、星空が広がった。
天井も、壁も、床も。
まるで夜空の中にいるみたい。
星々が輝き、ゆっくりと動いていく。
星座も、流星も。
何百年に一度の流星群も。
あの夜に見た景色を、もう一度。
「……どう?」
私は師匠を見た。
「私、頑張って勉強したんだよ」
師匠は、空を見上げていた。
そして、静かに笑った。
「……ああ。綺麗だな」
「でしょ?」
「リリア」
「なに?」
「ありがとう」
その声は、少しだけ震えていた。
私は嬉しくなって、師匠のベッドに寄りかかった。
「……師匠」
「何だ?」
「また、一緒に星を見ようね」
「ああ」
私はそのまま、眠ってしまった。
◆
翌朝。
目を覚ますと、部屋は静かだった。
「……師匠?」
返事がない。
私は顔を上げた。
師匠は、眠っているように見えた。
「師匠?」
肩を揺らす。
返事はなかった。
「……師匠?」
何度呼んでも。
何度揺らしても。
師匠は、もう目を覚まさなかった。
◆
私は師匠を、山の見晴らしの良い場所に埋葬した。
そこからは、空がよく見える。
星も、月も。
師匠が好きだった場所。
私は墓の前に座った。
「……師匠」
涙がこぼれた。
「私、旅に出るね」
返事はない。
「師匠が見てきた世界を、私も見てくる」
私は顔を上げた。
空には、朝の星がまだ残っていた。
「……いってきます」
私は山を下り始めた。
師匠が教えてくれた世界へ。
まだ見ぬ星を探す旅へ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
リリアの旅が、これからどんな出会いや景色に彩られていくのか、楽しんでいただけたら嬉しいです。
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