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これを見つけた人へ

 これを見つけた人へ


 私の名前は己斐西唯恋こいにし いこい

 ただ一つのことだけに一途な恋をするような、まっすぐな女の子に育つようにと命名されました。

 恋っていうのは男の人に向けたそれだけじゃなくって、例えば勉強とか、趣味とか、スポーツとか……熱中して打ち込むことも意味として込められてるって、母はそう言っていた気がします。

 私がどうしてこの名前を付けられて生まれたのかを、誰かに知ってほしかった。


 私は間違いをした。

 生まれてきたことがその中の優勝候補だけど、それだけじゃない。

 将来の夢を叶えるためにたくさん努力をしようとした。でも頑張り方が上手く思いつかなくって、酷い方法を選んだ。

 男の人に、時間を提供する代わりにお金をもらった。要は世間でパパ活って言われてること。もちろん彼らとは寝てない。私は処女です。

 でも税金も取られない、請求書も発行されない、多分違法なお金。

 お小遣いだって言って彼等は私にお金をくれて、私はそれを銀行なんかには預けずに自宅のタンスの中の二重底の下にしまっておいた。

 社会からは裁かれない。本当はこれ以上にもっと酷いことをしたけど、これも十分に裁かれなきゃならない酷いことだと思う。


 今これを読んでいるあなたにお願いがあります。

 良かったらその事実を私の母に伝えてください。多分、仏壇を買うときの足しになる額が見つかるんじゃないかな。



 これは遺書です。わたしは自殺します。抱えた秘密と罪に耐えられないから、逃げるんです。

 だけど一人じゃない。やっと秘密を打ち明けられる友だちができたの。その子は私を信じて全て打ち明けてくれた。私が私の秘密と将来の夢だっていうこのくだらない目標を打ち明けても、それでも私のことを思ってくれた。

 私も変だけど、彼女も変。お互いに変なところを打ち明けあって、多分私たちは唯一無二の親友になった。


 その親友が私と彼女自身の秘密を抱えて死ぬと言ったとき、私は彼女の抱える秘密についてやっと理解した。とても遠回しな言い方だったけど、私はあの子の罪を理解した。

 あんな言い方で気づけたのは、きっと私もあの子のことが大好きだったからじゃないかな。


 そして思った。私は彼女と一緒にいくのが一番幸せな人生の結び方だって。

 ほんと、あの子の言う通り。自殺って全然ネガティブなことなんかじゃない。前向きに自分の人生を自分で飾り終えるための、一種の努力なんだ。



 これを見つけるあなたは、誰より賢くてずるくて、そして人の秘密を絶対に漏らさない、口の堅い人だと信じています。

 だから私たちのこの終わり方を見届けたとき、どうか真相はあなたの胸の内にしまっておいてください。


 きっとあなたも感じていたんじゃないかと思います。

 私の親友が抱える、罪と葛闘と、生きづらさについて。


 それは本来、こんな卑怯な逃げ方をするべきじゃなくて、もっといろんな人に裁かれるべきだとは理解しています。

 でも彼女は自分の手でそれに始末をつけると決めました。だから私も一緒に、自分を清算します。

 多分ふたりなら怖くないと思うから。

 だから……もうこれ以上の悲劇はきっと起こらないと思うから、お願いだから、あなたは何も言わずにこのことを胸の内にしまっておいて。


 とても無責任でごめんなさい。

 でもきっとあなたはそうしてくれると思う、だからありがとう。






 最後に遺書らしいことを書こうかな。

 もしかしたら私にとって予想外の人がこれを見つける可能性もあるからね。

 その場合は――さっき書いたことはどうか忘れて、今から書くことだけをお願いします。


 上で書いた通り、私の埋蔵金は全額、私の母に受け取らせてください。

 私の私物はできる限り処分してください。ノート類や蓋のついた箱なんかは絶対に中を見ずに処分して。

 スマートフォンもできれば中を見ないで処分してほしいです。

 フリーメールのアカウントは削除しておいてください。


    アカウント名:××××××××××××@×××.××

    パスワード:××××××


 教室のロッカーに、学年主任の先生から借りた本があります。返しそびれていたので代わりに返してください。

 面白いから読めと言われたけど、最初の3ページしか読んでいなくてすみません。



 ……このくらいかな。

 結構長くなったね。思春期JKのこじらせポエムって感じかも。




 あはは。

 それじゃ、さようなら。




 20××.己斐西唯恋

 








追伸


 もし仮に、これを読んでいるのが私の思うあなたなら。

 どうか自分を責めないでください。

 私や彼女の死は、決してあなたのせいじゃありません。

 確かにあなたは私の秘密を握り、私はそれにかなり悩まされました。でもそれが原因で死ぬわけじゃありません。


 人が一人死んでしまうって、とても大きな出来事で、その人に少しでもかかわっていたら、まるで自分がもっと何かできたんじゃないか、自分さえあのときああしていれば、この人は死なずに済んだんじゃないか……そんなことを考えてしまう。

 その気持ちは痛いほどわかる。


 だけど今回ばかりは違います。私が死ぬのは、あなたのせいじゃない。

 あなたは運悪く私の人生に、ちょっぴりだけ巻き込まれただけの人です。

 だからどうか、自分を責めないでね。


 あなたは確かに卑怯な人だけど、決して、あなたは、殺してない。


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