14.
ウィルバーは金が必要だった。
いつものようにアドルファに、無色のものとウィルバーが色を閉じ込めたレーア・エルツを買い取ってもらう。
アドルファの居るテーブルの横は小さなショーケースがある。
その中に無数のレーア・エルツの原石と、ネックレスに加工されたものが入っていた。
その大半はウィルバーとコードから買い取ったもの。
ウィルバーはその中の一つをどうしても取り戻したかった。
そのために金を稼ぐ必要がある。
「ひい、ふう、みい……はい」
「ありがとうございます。コード、はんぶんこ……あっ!」
ウィルバーはアドルファから金を受け取って、その半分をコードに渡してから大声を上げた。
「お金……揃った! コード、揃ったよ!」
「うるさいわねえ」
アドルファは嫌そうな顔をして煙管をふかした。
「これでお願いします! これ! これ!」
「聞こえてるわよ」
もらった金と今までの金を足した束をウィルバーがアドルファの前に置くと、アドルファは少し身を起こしてショーケースから夜明けの色のレーア・エルツをネックレスに加工したものを取り出した。
ショーケースの中には無数のレーア・エルツが入っているのに、アドルファはウィルバーがどれを求めているのか知っている。
何度も何度もそれは自分のものだと言われ続け、コードから買ったものだから欲しければ金を払えと言い続けた。
それが今日、叶った。
「親方あ……」
「なに、形見かなんかだったの?」
「いいえ」
ウィルバーはネックレスをしっかりと握りしめた後、手のひらの中の輝きを見つめる。
「親方に……お世話になった人に、どうしても見せたかったんです。世界はこんなにも美しい色をしているって……」
「……ごめん」
「コード、気にしなくていいから! 残りの一個だけど、ちゃんと手に入ったし。それにあの時、俺を助けてくれなかったら死んでたもん」
「……」
コードはウィルバーが持っていたレーア・エルツを、生きるためにすべて売った。
ウィルバーはその事実を知ってがっかりしたが、生きるために金が必要なことはとてもよくわかっていたので、責めはしなかった。
なによりコードは奪わない。
殴りもしない。
ただ少し、言葉が通じにくいだけで、とても優しい人だった。
「……で、行くの?」
「……はい」
ウィルバーがこの街に留まっていたのは夜明けの色をしたレーア・エルツを手に入れるため。
その目的が果たされた今、ここに居座る理由はない。
「もっともっと、俺は色んな色を見たいんです」
「そう」
旅立ちの決意を聞いたアドルファは身を捩って、背後からスケッチブックをウィルバーに手渡した。
「餞別よ」
「え……」
そして、アドルファは自分の前に置いてあるテーブルを横にずらした。
「あ、アドルファさん……足……」
初めて知った。
アドルファの片足がない。
座っているから隠れているのではない。
存在しない。
「無いわ。随分前に無くしたの」
「無くしたって……」
それでも、アドルファは残された枝ほどしかない細い足で立ち上がる。
背は、ウィルバーよりも高い。
よたつきながらも、アドルファはウィルバーを抱きしめる。
「行って来なさい。そしていつか、あたしにも色を見せて。ほら、こんなんだからもう、どこにも行けないのさ」
「アドルファさん……」
ウィルバーの目にたくさんの涙がたまる。
コードに命を救われて、それから生きるための方法を、ぶっきらぼうながらもアドルファは教えてくれた。
この街の言語、金になる物、欲しい物の売っている場所。
ウィルバーにとって、コードと同じくらい大切な人だった。
「必ず! 必ず、俺が色んな色を見つけて、アドルファさんに見てもらうために、絶対に戻ってきます!」
「……」
その約束にアドルファは答えることなく、抱きしめた手をゆるめた。
アドルファは様々な色を見たいわけではない。
ただウィルバーに生きて欲しかった。
いつか旅の目的がわからなくなったときでも、生きる目標の一つとして、記憶の片隅にでも置いてくれればいいと思った。
それだけだった。
ウィルバーはコードを見上げる。
「コード、本当に、本当にありがとう」
「うん」
「二人で挑戦して、失敗して、クソまずいものを作ったのは傑作だった!」
「うん」
「ありがとう……行ってくるね」
手を差し出すと、コードはその手を握った。
とても大きくて、力強くて、そして優しい手。
「うん」
コードは人より持っている言葉の数が少ない。
伝えたい気持ちを表す言葉がわからない。
それでもちゃんと、ウィルバーには通じる。
ウィルバーは生かされた街から、再び旅に出た。




