きゅうけいさんは三人で秘密を暴く
食っちゃ寝生活がすっかり長くなり、みんな仲良しさんになりました! 特にね、パトリシアさんのね、きゅうけいちゃん呼びがなんだかこう、きゅ〜ってくるの! 好き!
いっしょにおりょーりつくって、レシピを教え合ってお互いのものを作って、そしてみんなで食べるのだ。
あと私は大体マイケル君とミミちゃんと遊ぶか、ロッキングチェアに揺られてます。あ、もちろん揺られながらも【レーダー】を発動しているんだけどね。
今日もキャシーちゃんの周りは大丈夫! 私がしっかりチェックしてるよ! とってもお仕事しております、キリッ!
まあぶっちゃけロッキングチェアに座ってぼーっとしてるだけなんだけどね。
「きゅうけいさーん」
あ、ミミちゃんが椅子の上によじ登ってきた。
「わっ、あっ……あはは!」
もちろんロッキングチェアがぐわんぐわん揺れるけど、そんな状態で私のお腹の方にぴょこんと飛び乗ってきて、顔が目の前に来て笑った息がかかるような距離にっ! きゃわわわわ!
私はミミちゃんを抱き寄せると、ロッキングチェアをくいくい大きめに動かす。ミミちゃんは私の体にぎゅっとしがみついていて、それだけで幸せ。
ミミちゃんのおはだぷにぷにだし、洗ってないのに超サラサラの髪からはものすっごくいいにおいがするし、やっぱりこの子は天性の魅了の魔王って感じがいたします。……正直この種族の190cmとか想像するだけでやばいですね……。
「わー、えいえい」
「……ってうおわっ!? も〜ミミちゃ〜ん」
「えへへ〜」
でも、今はやっぱり超かわいい天使ちゃん! 急に大きく揺らされてびっくりしたけど、いたずら大成功みたいな笑顔をされるとこっちまで嬉しくなっちゃうね!
「……んー、ほんとに不思議な光景ねー……」
「あ、パオラさん」
「最強のベルフェゴール様が楽しそうに子供の相手してて、アスモデウス様が最弱の幼女になって遊ばれてるって、去年の私に言っても絶対信じないわ」
なんとも穏やかな顔で言われた。
そうだよね、パオラさんにとって先代ベルフェゴールも先代アスモデウスも全く違う存在であり、同時に付き合いの長い存在だった。
それが二代目になればここ数ヶ月こんな調子なんだからびっくりだろう。
私はロッキングチェアからひょいっと起き上がると、ミミちゃんをぐわしと掴んでぐるっと回す。
「ミミちゃん!」
「おっけーだよ!」
私とミミちゃんの謎のやりとりに、パオラさんが「え?」と発すると同時、私は両腕両脚を広げたミミちゃんをパオラさんにひっつける! ミミちゃんががしっとパオラさんにしがみついて、なかなかボリュームある胸の谷間に顔を埋めていく。
「へっ、え、あの……ま、またぁ?」
戸惑うパオラさんに、私はすれ違いざま声をかける。
「パオラさん」
「え?」
「平和で、みんななかよしって、いいよね」
素敵なお姉様たるパオラさんに、ちょっぴり上司ぶった声をかける。パオラさんもそれを感じたのか、いつもと違う柔らかい雰囲気で「はい」と返してくれた。
パオラさん……私ね、気取ってるわけじゃなくて、どっかの見知らぬ魔王の責任を感じてるわけでもなくて……本気であなたが笑顔になってくれてるの、私も幸せだよ。
それじゃ、今日も平和を守りに、ちょっぴり相手にする魔物が増えてきたキャシーちゃんの救援に向かいますか!
-
マイケル君ともすっかり仲良くなって、今日はお外で遊んでいた。
ミミちゃんと一緒にいるのはイデアさんとパオラさん。やっぱり二人は仲良しなのか、セットでいることが多い。
キャシーちゃんにも答えたけど、本当にこの村での生活は、スローライフの理想系だった。周りを見渡せば豊かな森、村の中はログハウス、村長の家にあるロッキングチェアに揺られながら子供たちと一緒に遊ぶ。
もし私が人間で、結婚してて、子供がいるとすると、今の生活を「こんな生活が将来したいです」って語った時点で、庵奈から「きゅうけいさーん、いくらなんでもそりゃー理想高すぎだよー、現実見て現実ー」って突っ込まれていただろう。私だって庵奈がこんなスローライフを語り出すと現実見ろって突っ込むよ。
そんなスローライフを、素敵な犬耳家族ともう何ヶ月も堪能している。
これが理想郷の一つの完成系でなくてなんなのか。
パトリシアさんは、ほんとに素敵なお母様だった。私だけじゃなくて、シルヴィアちゃんやエッダちゃんもすっかりパトリシアさんに馴染んできていると思う。だって本当に素敵だものね。私なんて割と本気でお母さんになってほしいと思うぐらいだ。
だけど……やっぱり前世でのお母さんの顔を思い出すと、少しちくりとする。
「……どうしたんですか、きゅうけいさん。まさか本気で母親が恋しいとか」
「えっ!? あ、いえ、なんでもないですよ!」
「いやいや何故急に敬語に……」
それは、シルヴィアちゃんがあまりにも察しが良すぎたからだよ! 長いこと生活していたせいか、シルヴィアちゃんってば私のことかなり分かるようになってきている。多分普段のノリでしゅんとするのとは違う顔だって、ばれてる。
そして、その……私のことをシルヴィアちゃんがそこまで理解しているという、それだけでもう嬉しくて顔が熱い。
「本当のお母さんじゃなくても、なんだかこういうのっていいなあって」
「……ふふ、そうです、ね……」
シルヴィアちゃんがまた何か言いたそうだったけど、結局口を開かずに再び食事に戻った。……んん、なんだろう……。
でも、思慮深いシルヴィアちゃんのことだ、きっと私に気を遣ってくれているに違いない。
-
ところで、パンプキンは本来あのオレンジしかパンプキンじゃないらしい。英語じゃなくて種類。日本のカボチャは、パンプキンじゃなかった! 確かにハロウィングッズの中に緑のジャックさんはいらっしゃらなかった。
そんな日本のカボチャとは別分類のパンプキンの分類、その名前は……なんと……ペポ!
ペポ!? かわいくない!?
「ペポーッ!!」
「はい? どうしたんですかきゅうけいさん」
「ペポだよシルヴィアちゃん! ぺぽぺぽぺぽーっ!」
「なんだか今日は一段と楽しそうですね……」
何が言いたいかというと、村の裏手にある農場からペポカボチャを収穫してます。今日の料理はかぼちゃ料理だよ! やったね!
このきゅうけいさんにかかれば、料理の際にパンプキンパイを作るのだって、素手でグシャーっと余裕で潰せます。パトリシアさんテンションアップ! どうやら毎年パンプキン料理をたくさん作りたいけど、包丁を入れるのがしんどくてなかなかがっつり作る気にならないらしい。
そういうことでしたら、おまかせくださいっ! あとパンプキンレシピ後で教えてくださいーっ!
今日もなごやかにお料理タイム。パトリシアさんと一緒にキッチンに並んで楽しい時間を過ごすんだ。
……と思っていると、なんだか外が騒がしい。
私がさすがに気になって、パトリシアさんに断りを入れて外に出ようとする……も、シルヴィアちゃんが厳しい目で片手を上げてこちらを見ていて、あ、コレまずいやつだなと思って止まる。
言い争っている内容を聞くと……どうやら隣の村がやられたらしい。
(今日はみんな出ていってなかったから張り直してなかった。【レーダー】)
私が再び索敵魔法を使うも……確かに西側の反応が綺麗さっぱり消えていた。魔物や魔族の反応も……ない。遅かったか……。
話し合いによると、どうやらリックさんは、私のことをやってきた村人達に説明してくれるらしい。窓からちらちら見ると……お、おおう、ウサ耳だ……男も女もウサ耳だ超かわいい……。
……そうか、この人たちがやられたのか。……魔族……。
「受け入れていただき感謝いたしますわ、リチャード様」
「いえ、緊急時にはこうする約束でしたから。我々が襲われていたら厄介になるのはこちら側でしたし、お気になさらず。あとリックでいいですよ」
「ふふ、やはりノース・ジャーニーの村長様は頼りになりますわね」
ウサ耳ちゃんの村長は女性の方でした。レポゼータ族のペトラさんという落ち着いた方。パトリシアさんよりちょっと上かも。パトリシアさん、三十後半ぐらいのはずなのにめっちゃ若いからペトラさんが本当はどれぐらいか全くわからないけど……。
リックさんの渾身の説明と、パトリシアさんの渾身の説明と、更にキャシーちゃんもマイケル君も加わってすごいことになっちゃったその説明会に、レポゼータ族……ウサミミさんたちも頷くようになっていた。
最終的に、古竜のシルヴィアちゃんに手を引かれる形で、私も恐る恐る出て行った。最初は注目されていたけど……なんとか騒動は免れた、と思っていい……と思う。
ぺこぺこ頭を下げながら、穏やかな感じで解散。よかった……これで大丈夫のはず。フェンヴェーナの人達は、とりあえず公民館に移された。
村長のペトラさんは、これからリックさんと村長会議をする。会議の中には、村長二人とパトリシアさんにキャシーさん、更に私とシルヴィアちゃんも入っていた。
お野菜大好きレポゼータのみなさんに、お肉大好きなミアキスベータのみなさんと分担して、避難民となんとか食料を保たせる。
とりわけ私が取ってきた過剰に多い魔物のおかげで凌げるらしい。やったね、さくっと倒してきたけど、思いの外いい効果だったようだ。
うまく調整出来そうだと和やかな雰囲気になってきたところで、お腹を空かせたミミちゃんがドアを開ける。
「おなかすきましたー……」
「ああもう、ごめんなさいパトリシアさん」
そーいえばそーでした、パンプキンパイつくるんでしたね! パトリシアさんも「そうだった!」と手を叩いて立ち上がる。パオラさんやエッダちゃんも顔を覗かせている。
うんうん、頭を使った後は、たくさんたべないとね!
そして……私とパトリシアさんが和やかにキッチンに向かおうと立ち上がった瞬間。
「……サキュバス……サキュバスがなぜここにいる!?」
急に、今まで穏やかでお嬢様系おばさまだったペトラさんの口調が豹変する。
ま、まずい、これって……!
「お前、魔族……魔族! アスモデウス! しかもサキュバスお前イデアだな!? イデアだッ! イデアがッ———! ッグ……!」
皆が突然のペトラさんの変貌ぶりに唖然と動けない中、真っ先にシルヴィアちゃんが口を塞いだ。もごもごと暴れようとするけど、シルヴィアちゃんのレベルは竜族の中でも一線を画した世界。とてもではないけど獣人の村人でも勝つことはできない。
「……お、オノレオノレ……」
鬼なんて見たことないけど、まさしくこういう表情だろうとしか言い表せないであろう鬼のような形相で、シルヴィアちゃんに悪態をつくペトラさん。
ここまで……? ここまでサキュバスに恨みがあるものなの……?
シルヴィアちゃんは厳しい顔で……と思ったら、首をかしげながら何かわからないような怪訝な顔をしている。
「……あ、あああ……!」
今の声は……!
ペトラさんの暴れ方に、尻餅をついて涙目で震えるのはエッダちゃんだった。
「だ、大丈夫だよ! 今シルヴィアちゃんが……」
「……お、同じ……同じです……ユルトの街の人も、全く同じ言葉を———」
「———きゅうけいさん! クリアエリクサー!」
な……ッ!!!
「【クリエイト:クリアエリクサー】!」
私はシルヴィアちゃんの叫びを聞いて、久々の薬を使ってペトラさんに飲ませる。そして飲み終わったペトラさんは……目を閉じて気絶した。
……あの時と……ビーチェさんの時と同じだ。
「シルヴィアちゃん、どうしてわかったの?」
「言葉ですよ、今この人は『おのれ……』という恨み節を言いました。これを言ったのは今までで、サタンの眷属の暴走、マモンさんの暴走です」
すごい、シルヴィアちゃん、ついに秘密にたどり着いた……!
と感心している私に反して、シルヴィアちゃんは何故か落ち込んでいた。
「……もっと早い段階で気がつくべきでした。もしくは、エッダの聞き取りを詳細にしておくべきでしたね……遅かったです」
いや、真っ先にあの一瞬でクリアエリクサーと叫べたシルヴィアちゃん、誰よりも判断が早かったよ。私にはそこまで頭が回らなかった。
そして……エッダちゃん。たまたま共通項に出会っていたということで、解決の糸口を既に見つけていたんだ。
「やっぱり二人のコンビネーション、凄いよ。この一瞬で、一気に光明が見えた……!」
「は? え、あたしたち二人とか、本気で言ってるんですか?」
……えっ!? いや、今のすっごく心を込めて、いい感じのこと言ったつもりだったんですけど、シルヴィアちゃんは不満でした!?
「あたし達三人、です。てゆーか気付くのも考えるのも運と閃きがあればできるのを担当しているに過ぎないんです。一番は……きゅうけいさんですよ」
「へ……なんで? 私言われるがままにしてるだけで……」
「そう。言われるがままに、今は亡き『聖女』しか作り出せず、もはや聖遺物となった魔王の呪いを解除するクリアエリクサーを、在庫を気にせずぽんぽんぽんぽん作るあなたの能力が凄すぎるから解決できてるんです」
……あ、そうでした。
そうか、自分が当たり前のようにできるから言われるがままの歯車になった気分でいたけど、私のクリアエリクサー作り出せる人、この世界にいないんだ。
「あはは、自分が出来ることって珍しくないから忘れかけちゃったけど、そうだったね。うん……じゃあ言い直すよ。『私達三人のコンビネーションは最高』だね!」
「そうです。あたしたち、ほんといい組み合わせだって我ながら思いますもん」
「えへへ、なんだか私ってそんなにできてる気してないんですけど、みんなにそう認めてもらえて嬉しいですぅ……!」
ペトラさんが眠ったことで、エッダちゃんも安心したのかやってくる。私はちょっと感慨深くなっちゃって、二人の首に腕を回してほっぺたすりすりしちゃう!
「わっ! もう、相も変わらずいけない人です」
「はわわぁ! ……えへへぇ、きゅうけいさんぷにぷにですぅ」
いや、ぷにぷになのはエッダちゃんだよ! なんてツッコミも胸とかって言いそうなところだけど、ほっぺたも超ぷにぷにだった。シルヴィアちゃんはなんだか幸せになる滑らかさだった。
あ、ちょっぴりツノあたってる、解放解放。
「……ん……」
っと、そうだ。ペトラさんが起きた。
今まで一言も発していなかったリックさんが、急いでペトラさんのところへ向かう。
「……あれ、私は……」
「おはようございます、ペトラ様。今までの流れは覚えていますか?」
「…………。……んん……リックさんに上げてもらって……そう、村の食料を分けてもらえるのですわよね……」
「なるほど、そこまでは。……では……」
緊張した様子で、リックさんがイデアさんを見る。
「あの人に、見覚えは?」
「……あ、もしかして、村で見たサキュバスのイデア……?」
ッ! 名前を知っている!
私とシルヴィアちゃんが緊張して、エッダちゃんが私の後ろに隠れて震えている。
「……そう、あなたもここの家に厄介になっているということは、魔族の……きゅうけいさん? というのよね。あの人みたいな感じでお世話になってるの?」
「え、ええ……」
「そう……魔族の子供もいるようだけど、危なくは感じないわね」
……これは……!
シルヴィアちゃんとも目を合わせる。エッダちゃんも驚いた顔だ。
全然違う!
サキュバスに対しての対応が全然違う! 全然怒ってない!
サキュバスを知ってる上で全然怒ってない!
なんだ……こんなに綺麗に解決できたんだ……!
「……あれ、でも……だとすると……」
急にシルヴィアちゃんがつぶやき出す。
「これ……これ、まずい! やばい状況じゃない……!」
私が納得している中で、シルヴィアちゃんが何故か叫びだして皆が注目する。
えっと、あれ? サタンの呪いが、フェンヴェーナの人たちにかかっている、ってことだよね?
それを解除すれば、村人達は解放されるんじゃない?
「いえ、フェンヴェーナに関しては分かります。でも……村を滅ぼされて大罪の呪いを受けているというのなら」
シルヴィアちゃんが、緊張した面持ちでイデアさんの方を見る。
「……ユルトの街。あの街の女性にサタンは憤怒の吐息を使っておいて滅ぼしていない。つまり、ユルトの街でサキュバスクイーンを狙っているのは街の女性じゃなくて、サタンだわ……!」






