きゅうけいさんはご両親にご挨拶する
投稿を初めて一ヶ月が経過しました。最初はここまで読んでいただけるとは思っていなかったので、ここまで続けられたのも読んで下さる方が沢山いらっしゃったおかげです。
今後も更新を頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いします。
※指摘をいただいて、前話をある程度修正してあります。話そのものに大きな変更はないです。
「うわああんやっちゃったあああ! もおお穴があったら入りたいよおお!」
大浴場で朝風呂といこうぜ! と思って足を踏み入れると、ビーチェさん、頭を抱えてばちゃばちゃ魚の下半身でやっていた。
今日は天井までの噴水サービスかー。
っていやいや。なくなる。ビーチェさんのパワーでばっしゃんばっしゃんやったらお湯なくなるからってうわ冷たっ!?
……って、自動追い炊きがないんだったら、そりゃ温かいはずないよね。
「ビーチェさん、朝から元気だね……」
「だってぇ〜おさけがあんなのなんてぇ……」
ビーチェさんは、それはもうすっごい笑い上戸だった。
美人で儚いストーリーの人魚姫、もう常時笑いっぱなし。
そして、茹だった魚みたいに、ぐでーっとなって、ごぼごぼ言わせながらお風呂の中で横になったわけよ。
最初はびっくりしたけど、そういえばこの人、上半身は人間だけど溺れるっていう概念がない人魚なのを思い出した。
そしてビーチェさんにとって最悪だったのが、楽しくお酒に酔っ払っても、記憶がしっかりしている方だったことだ。
それはもう、どんなふうに酔っ払ったか、完璧に覚えてるって感じで。
「まさかあそこまで、自分が大変なことになるなんて……」
「お酒の失敗はね、あるあるなのよね……」
「よくあるっていわれてもぉ……。……うー、きゅうけいさんの失敗話を聞かせてー。聞かせてくれないとすねちゃうもーん。私より恥ずかしいエピソードじゃないと拗ねちゃうもーん」
ビーチェさん、とっても子供っぽく拗ねだした。
美人のお姫様ルックスでそれやられると、ほんとにワガママお姫様って感じで、これはこれで……なんだか似合ってる。
やっぱ美人って得だね。ちょっと聞いてあげたい気になっちゃう。
「むう……い、いいよ! ビーチェさんだけぐらいなら、いいよ!」
「お……おおっ!? ほんとに!?」
「きゅうけいさんの失敗エピソード、とっておきのやつ、ビーチェさんに教えてあげようじゃない!」
私はビーチェさんのいじけ具合を見て、せっかくなので二人っきりの距離を縮めることも出来るかなとも思い、自分の失敗エピソードを語った。
普段は淡麗で辛口……という書き方をすればいいように聞こえるけど、つまり飲み慣れてるタイプの安いお酒しか知らない私にとって、利き酒という味の飲み比べをする場所は衝撃だった。あ、米のワインというか、ちょっと特殊な地元のお酒でね。
で、そこにあるのは、なんとも甘くて濃厚で、おいしいお酒。普段自分が飲んでいるものとはまるで違うレベルの、透明ではなく、少し琥珀色になっているお酒だった。
私はもう、それはもう飲んだ。飲みに飲んだ。よく味を比べる仕事の人がガバガバ飲んでいるのを見たことがあったから、強い方の私も絶対大丈夫だろうと思ってた。
ちょっとずつ飲んで、次の種類。
ちょっと飲んで次のやつ。
ちょい飲み次の。
次の。
次。
次、次。
次・次・次々つぎィ!
いやー、ダメだったね。
後から知ったんだけど、味を比べる人は酔っ払わないために、口に含んで香りとか調べると、そのまま吐き出しちゃうんだってね。それで十分なんだと。
そりゃそうだ、酔っ払って正常な判断なんて出来るはずがない。
ってわけで、私はお酒が沢山ある場所で、ふらっふらになりながら酔っ払ってね。
まだ当時ベルフェゴールじゃなかった時、自分の友人に……お酒をぶっかけたのよ。
水浸しになった友人を見てゲラゲラ笑って「ウヒョー!」とか「ノヒャー!」とか意味不明に叫んだ挙げ句、私は直後に足を滑らせて額から地面に突っ込んだ!
そこからは覚えてないんだけど、病院で目を覚ましたらその友人が目の前にいたわけよ。
『きゅうけいさんって、よっぱらったらおもろいねー……』
普段は温厚な友人も、怪我でベッドの上にいる私に対して青筋立てていてそりゃもうびびりまくりだった。
まあね、みんなで仲良くお酒飲んでたら、急にお酒で新品の高い服をべちゃべちゃのねちょねちょにされた挙げ句、怒ろうにも目の前で勝手に血の池に沈んでいたらね。
私も今までの人生で一番ってぐらい謝り倒したよ。
お詫びに私は、その友人のやるはずだった仕事をまるまる一週間分は肩代わりすることになっちゃったんだよね……。
ちょっと大変だと文句を言おうにも、みんなの前で『ノヒャー!』と言われて、周りのみんなもそれが何のことか知ってくすくす笑うから、顔真っ赤で作業に戻らせていただきましたとも。
お酒のせいとはいえ、お酒の飲み方を勘違いしていた私がもう全面的に悪い。
それ以来、私は飲み過ぎないぞって決めているわけです、ハイ。
「あっははは! きゅうけいさん、ウヒョーとかノヒャーとか叫ぶわけ!? 今度がばがば飲ませてべろんべろんにしたい!」
「ぜぜぜったい嫌だよ!? やらないよ! 私はあれ以来、もうお酒には飲まれないぞって決めたんだから!」
「でもでも、そういうきゅうけいさん見てみたいなあ」
「あたしも見てみたいわね!」
「そこまではっちゃけるきゅうけいさんなんて絶対かわいいですぅ!」
「米で出来た酒か……」
ん? 何か多くない?
……昨日も、こんなパターンがあったような……
「ってえええええっ!?」
「やあやあおはようございますきゅうけいさん。朝からこのリーダーを差し置いて、新人にだけ内緒話とは随分嫌われちゃいましたかなー?」
「えへへ、気がついたら楽しそうに話していて、どうしても気になってしまいましたぁ……!」
あああ〜〜〜〜っ!
「うわああんやっちゃったあああ! もおお穴があったら入りたいよおお!」
私は朝から、ビーチェさんとこれで同じだね! って感じなぐらい恥ずかしい部分を共用した。
ちくしょう! いずれシルヴィアちゃんとエッダちゃんもべろんべろんにしてやる!
-
朝は、さくっと外に食べに行って、道場に帰ってきた。
「きゅうけいさんの料理の味が広がって、すっかりこの村も活気がつきました」
「いえいえー、私もおいしいもの大好きですからね!」
「ええ、おいしいものを食べるのはいいですね」
すっかり料理人フラグを回避した私は、街の中でも特殊な居候となった。ごはん食べ放題で、街のトップと仲のいい青肌魔族。
なんというか、ここまで馴染めるとは思わなかった。ごはんパワー強かった。
「しかしそうなると、きゅうけいさんにはもっと妥当なお礼をしたいところですね……」
「えっ!?」
「正直、食事を無料で提供する程度ではお礼にならないとさえ思いますよ。だって村全体の底上げですよ? 文化革命です、そうそう出来ることじゃないです」
トゥーリアさんの評価、めっちゃ高くてびっくらした……。そ、そんな褒めてもらえるとは思わなくて、ちょっと目が泳いじゃう。
……ん? 泳いだ目の先に、エッダちゃんがいた。
「……あ、あの……」
どうしたんだろう。
「私、本当に居候していていいんですかぁ……?」
「えっ、どしたの急に?」
「だって、きゅうけいさんについてきたくてついてきただけなので、私ってあまり強くない上に何の役にも立ててないですしぃ……」
「……ええっ!?」
そ、それはとんでもない誤解だ。
エッダちゃんは、ビーチェさん……マーメイドの敵が現れたとき、一体どうやったらこのギミックなしの人魚に対して友人になれるかという最後の一手を示してくれたのだ。
それはもう、私にとってはとてつもない情報で、今後の全ての運命に関わってくるほどの一言と言っても良かった。言っても良かったというか、事実としてそうだ。
———病気。
あのビーチェさんを見て病気と表現することで、大罪の呪いとの関連性に気づけたというのは、私にとっては何よりの功績だった。
エッダちゃんが、集落のみんなとたくさんお喋りして、情報を適切に引き出せていたからわかったことだ。
「エッダちゃんは、誰よりも役に立ってるよ!」
「そ、そうですか……? さすがに誰よりもは言い過ぎでは」
「絶対!」
私はそう言ってエッダちゃんを励ました。
今はまだまだ効果が薄そうでも、きっとエッダちゃんの功績の大きさが分かる時が来るって信じてるよ!
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そんな感じで、すっかり四人でいることが慣れた。
トゥーリアさんは道場で子供達に、あとシルヴィアちゃんも一緒に教えることもあったり。
エッダちゃんは教わる側になっていたけど、何かの流派っぽい型をやって、楽しそうにしていた。
でもまあ、日常はいつまでも続かないもので。
ある日、その日はギルドの様子を見た後ぶらぶら歩いていたら、何やら空を大きな影が通っていた。あれは……古竜? でもあれって……。
その竜を目で追っていると、屋敷方面へ行き……別行動を取っていたシルヴィアちゃんがその屋敷方面から走ってきた。
「きゅうけいさん! お、お父様とお母様が来たみたいです!」
えっ!? っていうことは、この村の長!
「どうしよう!」
「どうしようも何も、間違いなくうちに来てますし腹をくくって会いに行くしかないですよ」
「うう……トラブルなりそうになったら守ってくださいね?」
「それはもちろんです。なあに、もうきゅうけいさんはあたしたちにとって大切な仲間ですから、絶対守りますよ」
トゥーリアさん、頼りになるなあ……とそっちばかりを見て思っていたら、手を急に握られた。
これは……シルヴィアちゃん!
「あ、あたしも! 一応これでもドラゴネッティの女ですから、きゅうけいさんのことは何があっても守ります!」
「シルヴィアちゃん! ありがと〜っ!」
「っていうかきゅうけいさんのことを受け入れられないようなら、もうこんな村ソッコー出て行きます!」
「おお、シルヴィアが出て行くならあたしももぉ村いてもしかたねーし、出て行こっかな〜?」
て、手加減してあげてくださいね……。
-
屋敷に入り、道場の方へ行くと……そこには二人の金髪の人がいた。
間違いなく、お父様とお母様だ。
思ったよりも若々しい見た目をしていた。
二人が私の姿を見て、自分の娘がその両手を握っているのを見て驚いた顔になる。そして視線はトゥーリアさんに向かった。
「……トゥーリア、どういうことか説明してもらえるか?」
「まさか、あなたが魔族を入れる役目を担うなんて」
お父様怒ってました。お母様も怒ってました。
すっかり忘れていたけど、トゥーリアさんは長ではなかったんだよね。
「もちろん、審査しました」
「審査だと?」
「ええ」
トゥーリアさんは、私にやった一ヶ月のことを語っていた。
料理を作って、私が怠惰じゃないってことを見たりすることだね。
我ながら屋敷の中で一ヶ月、よく頑張ったなーって思う。
気がついたら竜族の村のみんなの顔なじみ。結構な時間が経った。
特に食事関係はみんなから感謝され、そのことで随分と仲良くなった。
今ではもうすっかり料理をやってなくて怠惰な生活を送っているけれど、そのこともあってトゥーリアさんからの好感度は高い。
「それで、魔王のベルフェゴールを入れたと?」
「ベルフェゴールだけではない」
トゥーリアさんは、ビーチェさんも紹介するようだった。
「ビーチェさんは、マーメイドです。マーメイドは分かりますね」
「……トゥーリア、お前……」
「はい、大罪の筆頭眷属であるマーメイドです。父上にはここにいるマーメイドのことをお話しします」
トゥーリアさんは、ビーチェさんが最初シルヴィアちゃんを攻撃してきたことを喋った。
そして、私の薬によって治ったこと、それから村のみんなにすっかり馴染んでいる、普通の女の子であるということを告げた。
「というか、ビーチェさんは私よりレベルが高いです」
「……やはり、そうか……」
「ですが、シルヴィアが作った冒険者ギルドでのパーティメンバーです」
「な! シルヴィアのパーティなのか!」
そう、ビーチェさんはシルヴィアちゃんのパーティメンバー……つまり「部下」という扱いになる。
もちろんそれをビーチェさんも同意しているし、むしろ嬉しそうにしているぐらいだった。
「ちなみに父上、こっちのベルフェゴールもシルヴィアの部下で、ビーチェの攻撃からシルヴィアを守りながらダンジョンの踏破をしたんですよ」
「まさか」
「あたしも、最初の認識のままの頃はまさかって思ったでしょう。でもダンジョンに入った頃には、この魔族は絶対にシルヴィアを護ってくれると確信していました」
トゥーリアさん……一番大切であろうシルヴィアちゃんに関して、そこまで私のことを買ってくれるなんて、本当に嬉しい。
もちろん、シルヴィアちゃんは全力で守るよ。
「だから、二人にもきゅうけいさんのことを受け入れてほしいんです」
「きゅうけいさん?」
あ、お母様の方が反応した。
お母様は、トゥーリアさんよりちょっと背丈が低いけど、十二分にいろいろと大きいお母様だった。目元は優しそうな感じだ。トゥーリアさんもシルヴィアちゃんも、目元はお父様に似たのかな?
「あっ! えっと……しまったな……」
「はいはい!」
「……え? きゅうけいさん!?」
せっかくなので、きゅうけいさんの由来を喋ろうと思います!
由来語ると、毎度かなり距離縮まるからね!
私はお二人にきゅうけいさんになった経緯を喋った。
最初は驚いたふうで……でも笑ってくれ……いや、お父様は笑ってくれなかった。お母様は柔らかそうな方でニコニコ。私こういういかにもな癒し系お母様キャラすきです。でも超強い古竜なんだよねこの人も……。
それから私がベルフェゴールになった経緯を話して、ようやくお父様の方から反応をいただけた。
「突然ベルフェゴールになった?」
「はい。だから元々ベルフェゴールではないんです。二代目……といったらいいんですかね、先代を知らないのですけど」
「ふむ……」
そこで考えるようにしていたお父様に、意外なところから声がかかった。
「彼女は受け入れないとダメですよ」
はっとして後ろを向くと、そこにはなんと占い師レジーナさんがいた。
いつものお気楽そうな感じのしない、真剣な顔つきと、キッチリ着込んだ魔法使い系の服装だ。
心なしか喋りもキリッとしている。
「レジーナ?」
「お世話になっております長老。突然上がり込んできたこと、お許し下さい。ですが話は緊急を要するようでしたので。……そちらのきゅうけいさんことカガミ様は、この世界に光をもたらす方です」
「どういうことだ?」
「どういうと言われましても、占いとしか言い様がないのですけどね」
「……レジーナの、占いか……」
門前払いかと思いきや、長が考え込んでいらっしゃる?
な、なんだかレジーナさん、かなり信頼されてるみたいですね……!
「それだけではありません」
「む?」
「今日来たのはこちらがメインで……外で長老が何か失敗したのか、黒い霧が長老を追いかけてきています」
占い師の、急に長をディスるというかなり思い切った状況に、長はかなり驚いていたようだけど、失礼だと感じているようではなかった。
「……何か、悪いことが起こるのか?」
「私は占い師。予言者ではありませんが……ただ」
レジーナさんが私の方に来て、そして今度はビーチェさんの頭を撫でた。
「きゅうけいさんが来て、黒い霧を少しだけ晴らしてくれたんですね。そして友達を増やせとアドバイスしたところ、その後日にやってきたのがこちらのマーメイドのビーチェさんなのです」
「……それがどうかしたのか?」
「ビーチェさんが来てから、長老の後ろの黒い影はかなり薄くなりました」
ビーチェさんが来て、黒い影が薄くなる。
それは恐らく、今回何かが起こる騒動に関してビーチェさんが鍵を握っているという意味だった。
「だから、ここのベルフェゴールのきゅうけいさんを救うことが、私にとっては何よりも村を救う一手になると思っているんです」
「なるほどな……」
長は私の方を見た。
「レジーナは占い師で、儂が信頼を寄せている者だ。ただの占い師のようでよく当たる、村も何度か危機を救われたことがあってな。……きゅうけいさん、といったか。ベルフェゴールのそなたが村を実際に救うかどうかは儂が見極めよう」
「……ということは」
「当面は住んでもいい。が、何もトラブルが起こらなかった場合は、そのうち出て行ってほしい。民宿ではないのでな」
……やっぱりかー。
まあ覚悟していたとはいえ、いつまでもぐーたら村に青肌魔族のタダ飯食らいがいついていいわけないもんね。
「ああ、じゃあお父様、きゅうけいさんが出て行ったらあたしもすぐに出て行くわね」
「な、シルヴィア!?」
「いやだってあたしきゅうけいさんとパーティ組んでるのに、一番強いメンバーが出て行っちゃ普通ついていくでしょ。これに関しては村を救うビーチェさんも例外じゃないわよ」
「うっ……!」
さっきまで余裕の態度だった長の様子が急におかしくなる。
シルヴィアちゃん、さすがの痛恨の一撃。お父様にも特効効果が乗っているのか一瞬で決めてしまった。あとお母様が今にも泣きそうなぐらい不安な顔をしていて心が苦しい!
「……わ、わかった! シルヴィアの気が済むまでいさせよう!」
「ほんとですか! ありがとうございます!」
やっぱりお父さんも、娘さん好きだよね。お母様もほっとした顔をしていた。
というわけで私は、ようやく晴れて村に『公認』と言い切れる形で住めることになった。






