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きゅうけいさんは諦めたくない

 マーメイド……それは、嫉妬の大罪である大ボスのレヴィアタンと戦う前の関門ボスだ。

 水属性と風属性での遠距離攻撃、更には特殊技なども駆使してくる。なかなかやりづらいボスである。

 でも彼女の代名詞はそれではない。


 マッチョ人魚。

 見た目とはかけ離れたあだ名だ。


 理由はもちろんある。この人魚は遠距離攻撃を中心にして戦うことを想定されている、湖の淵にいるか浮き上がるかをしているマーメイドは、遠距離専門ボスだった。

 近距離でも戦えないことはないんだけれど、弱点であるマップ上のギミックを破壊して、その後の硬直時間中にダメージを与えなければならないというタイプだ。だけどこのギミックがめんどくさいのなんの! だからよっぽどのことがない限り、みんな遠距離か魔法で相手をする。


 じゃあ、硬直させずに近接テクニックで攻撃したらどうなるかというと、見事に反撃を受ける。

 人魚に近づくと、結構なスピードで腕を振るってきて、ちょっとやそっとのプレイヤースキルじゃ回避できない。


 そのダメージ、近接ボス最強格のベヒーモスの100倍。


 いやね? 確かにね? 魔法攻撃ばかりやってくるボスに狂人化バーサーカーの魔法を使ったりして、実は近接攻撃が魔法攻撃より強かったっていう「正攻法で倒せ!」っていう制作者の声が聞こえそうなボスも過去にはいたけどさ。

 それにしても、いくらなんでもドラゴンの攻撃を防御失敗しても大丈夫な囮役ヘイトコントロールのシールダーが、人魚型の美少女モンスターにビンタされて一瞬で体力ゲージすっからかんは、あまりにもインパクトがありすぎた。

 あまりにもネタになって、イラストSNSでムキムキの人魚が投稿されたり巨人みたいになった人魚が投稿されたりした。

 っていうか、こんなに強かったらお前レヴィアタンの眷属なんてやってないで下克上しろよ! というごもっともなツッコミも入った。


 つまり、それぐらい目の前の奴の近接攻撃は強い。

 そんなマッチョ人魚ことマーメイドさんが、目の前にいる。




「二人とも、いいかい」


 私は後ろの二人に声をかける。

 まずはそのことを伝えないと、本当に危ない。


「大前提として、絶対に接近してはダメ」

「……何故ですか?」

「あいつにビンタされると、トゥーリアさんでも一撃で頭と胴体が離れるよ」

「ま、まさか……」

「ちなみに人間形態でも古竜形態でも容赦なく一撃だろうね。試したくはないけど」


 シルヴィアちゃんが息を呑む。エッダちゃんが「はわわ……」と言って涙目で震えているけど、今はそんな癒し成分たっぷりの可愛い反応を堪能している余裕もなさそうだ。


「ってわけで、ちょっと私が行ってくる。ここからはお願いだけど……絶対に前に出てこないでね。遠距離攻撃だけならシルヴィアちゃんでも簡単にはやられない程度だと思うから」

「わ、わかりました。でもきゅうけいさんは……!」

「あはは、さすがに私は多少のことではやられやしないよー」


 なんといってもカンストレベルのだいたい1兆倍だ。まあなんとかなるでしょ。




 私はマーメイドの近くまで歩いてきた。そして、ふととんでもないことに気付いた。

 そもそもここって、竜族の村のダンジョンだ。

 レヴィアタンの本拠地は、転移門から飛んだ先の海底神殿だった。

 そのダンジョンの先に、レヴィアタンが構えているのだ。

 もちろんそのマップは、海底神殿って感じのなかなか凝った綺麗な場所であり、こんないかにも「洞窟です!」って感じのマップじゃない。


 つまり何が言いたいかというと。

 ギミックがない。


 ……いやいやいや! 詰んじゃう! これじゃ近接職詰んじゃうから!

 ってそんなルールがこの世界にあるわけないか……。




 ふと、肝心なことを思い出した。


 ケルベロスはベルゼブブの筆頭眷属だ。故に敵対勢力の排除としてダークエルフの集落にベルゼブブの魔族が現れ、古竜のシルヴィアちゃんの前にケルベロスが送り込まれた。

 そしてマーメイドは、レヴィアタンの筆頭眷属だ。

 だから疑問なのだ。


 ここ最近はずっとトゥーリアさんとごはんをたべていたので、色んな他愛ない話をしながらの食事をしていた。

 他愛ないって言いながらも勇者の話、魔族の話、人間の国の話、そして大罪の話など重要な話もたくさん出てきた。


 そこで確かに言われたはずだ。


 ———先代の勇者がレヴィアタンを倒した。


 つまり、目の前のコイツは、レヴィアタンの復活を意味する?

 まあ、違う可能性もあるけど。




 ……ところで。

 ずーっと気になってるんだけど。


 攻撃してこないよね。


 遠距離攻撃で結構射程距離があるのがマーメイドの特徴だった。

 そのマーメイドが、まだ何も仕掛けてこない。

 ……なんでかな。


 なんでかなって、ちょっと考えれば当たり前だった。

 だって私……めっちゃ青いじゃん!

 魔族で大罪で、レヴィアタンのご親戚みたいな見た目じゃん!?

 ご親戚っていうかまあ実際ご親戚みたいなもんだけど。


 ……しかし、そうか……すぐに敵対ってわけではないんだ。

 じゃあ……話しかけてみようかな。


「こんにちわー」


 後ろでびくっと驚く音が聞こえてくる。ま、そりゃそうだよね。見た目は可愛いけど魔王に与する超強い存在なのだ。

 会話しようなんて誰も思わないだろう。


「……?」


 あ、マーメイドさん首を傾げた。

 分かってたけどやっぱきれい。

 人魚ってだけでヒロイン枠だもんね、びじーん。


「どーもどーも」

「……」

「ねえ、喋れたりする?」


 ちょっと無視気味だけど、根気よく話しかけてみる。

 やがて……マーメイドが声を発した。


「あなたは……」

「おっ」

「……っ!? あ、あれは、古竜! ダークエルフ! 敵対種族!」


 ———えっ!?


 と考える間もなく、マーメイドは私を無視して階段近くに待機していたシルヴィアちゃんに攻撃を始めた!

 ま、まずいっ!

 私はとっさに後ろに下がって、浮かんだ水色の光から撃ち出された氷の槍を鎧の拳で殴った。次にマーメイド本人からのウィンドカッターを拳で受ける。

 私の身体スペックだけじゃなくて、この初期装備の鎧本当に優秀だね! エッダちゃんの誘惑に負けて着ているものを脱がなくて良かった。


「うわああストップストップ!

「古竜、牙! ダークエルフ、耳!」

「きゅうけいさんっ!」


 私が声をかけるも、まるで心ここにあらずという様子のマーメイドさん。後ろからシルヴィアちゃんの悲鳴が聞こえてくる。


「ごめん、ちょっと上に登っててくれる?」

「それが階段が封鎖されてしまっていて……!」

「ぐぬぬっ、エッダちゃん、大丈夫?」

「は、はいぃ! だいじょうぶですけどだいじょうぶじゃないですぅ!」


 言いたいことはわかる。エッダちゃんはここの戦いにはさすがに厳しすぎる。

 私はなんとかマーメイドを止められないかと頭を巡らせる……だけど本人よりも横の攻撃ビットが厄介だ、破壊してもすぐに戻るからねアレ。


「なんとか手が……いやビットを攻撃しても本人を止める手段がなければ」

「あ、あの、きゅうけいさんは討伐しないんですか!?」

「しないよ! 会話が出来るってことは、多分あのマーメイドは普通の魔族と同じパターンだから!」


 私は、今回はどうしても諦めきれなかった。


 そもそもマーメイドって魔物らしい魔物じゃなかったはずだ。むしろ、このゲームはどうしてここまでマーメイドという存在を会話不可能な敵として出したのかって思っている。

 普通人魚って喋れたり交流したり、それこそ童話でヒロインになったりするものでしょ? モンスター娘でヒロインやるなら、どっちかというとモンスター娘枠に入れていいのか困惑するぐらいには、人間に馴染みある種族でしょ?


 そんな喋れる人魚を、どうしても倒す気になれなかった。


「何か手があるはずだ、何か……」

「きゅうけいさん」

「っ! シルヴィアちゃん! 何でもいい、あいつをどうにかできる方法思いつかない!?」


 シルヴィアちゃんは、少し時間をおいて、口を開いた。


「あたしたちが憎いなら分かりますよ」

「え?」

「ダークエルフが憎くて殺すなら分かります。まだベルゼブブの気持ちの方が分かります」


 シルヴィアちゃんが急に魔族の考えてることを語り出してびっくりした。

 ど、どういうこと?


「モンティにやられた復讐にダークエルフの集落を襲うのなら理にかなってるんです。ですが目の前のあいつは……」

「古竜、角。古竜、肉」

「私を討伐した際の素材のことを喋っています。最初は怒り出したと思ったんですけどね」


 ……ほんとだ、さっきはとっさのことで気付かなかったけど、何故か素材のことを言っている。


「ねえ、きゅうけいさん」

「何かな」

「あれ、操られてないですか? 命令を聞いてってんじゃなくて、自動でそういう反応になるタイプの」


 自動で、そういう反応になる……!


「だっておかしいんですよ。意味ないじゃないですか、古竜の角とか。マーメイドが手に入れて何に使うんですか」


 た、確かにおかしい! 言ってる内容の意味はわかるけど、意図がわからない……!


「はわわ、なんだか病気みたいですぅ……」

「病気?」

「心の病気? って意味ですです、昔ベアトリーチェさんが人間の街で、そういう呼び方をする人がいたって聞きましたぁ……」


 ……!

 心の、病気……!


 もしかして……!


「エッダちゃん!」

「へ、ふぁいっ!?」

「あなたを連れてきて正解だった! ナイス!」

「え? え?」


 私は今の意見を聞いて、次やることを決めた。まずは左手を前に出して、ビットを狙う!


「【ロックスピア】!」


 私は初の遠距離魔法を左手から打ち出す。正確無比に撃ち出された攻撃は、ビットを貫通して破壊する。

 ……人魚本人に当てたら思いっきり体力全部吹っ飛ばしそうだから気をつけよう。


「もひとつ、【ロックスピア】!」


 私はビットがなくなったタイミングを見て、剣を仕舞うと前に出ながら次の魔法を使った。


「【クリエイト:クリアエリクサー】!」


 心の病気。

 精神操作。


 もしもこれが本当に病気だというのなら。

 病気の薬で回復するのではないだろうか。


 そんな、希望的観測。

 ……希望的観測だけど、まずは試したい。


 やらずに後悔するより、やって後悔したい。

 それに、違っても別の手段をどんどん試したい。


 結果がついてきてもいい。

 ついてこなくてもいい。


 だから———




 ———できること、できるうちに全部試したい!




 私は兆スピードでマーメイドに近づく。

 そして右手で瓶を持ち左手でクリアエリクサーを開封、時間停止世界のマーメイドに接近する。

 また素材云々喋っているのか分からないけど、相手の口が開いている、ちょうどいい!


 私は右手で首を掴み、エリクサーをマーメイドの口にねじ込む!


 時間停止世界だと液体が流れていかないので、集中していた意識を解放して、流れていく様子を見る。

 急に口にねじ込まれた瓶に驚いて、ガチっと歯が瓶に触れるけど、どうやら魔族の見た目の私は敵と認識していないため振りほどかれない。

 やがて液体を飲んだマーメイドは……ふっと気絶した。


「きゅうけいさん? 今、何を……」

「あ、シルヴィアちゃんはまだそこで待機していてね」

「っと、すみません。油断しすぎでしたね、わかりました」


 シルヴィアちゃんが階段付近に戻ったのを確認して、私はまずはレベルを下げる。


「【ハイドレベル:9999】……これでいいかな?」


 まずは頬を張ってマーメイドを起こす。あなたも大概すんごいレベルだから、これぐらいは大丈夫でしょ?


「……っ、……ん……ん?」


 少しずつ、マーメイドの目が開く。


「おはよ」


 私が声をかけると、マーメイドは左右に目を動かして、そして私を見た。


「おはよー」

「……おはよう?」


 ……! 返事をもらえました!


「ねえねえ」

「……どこの魔族なの……筆頭眷属の私に、随分と慣れ慣れしいわね……っ、頭いた……」

「あ、そういう序列みたいなの気にするんだ」

「……だって、あなたの見た目、ベルフェゴール様のデーモンよね? あなたには悪いんだけど、私あの方嫌いなのよ」


 お、おおう……ベルフェゴールが嫌い、と来ましたか……。

 私の表情を、どういうふうに取っているか分からないけど、その目を切なそうに伏せた。


「……ごめんなさい、悪気があるわけではないの。ただ、言っておかないとと思って」

「ああ、いいよいいよ」


 私はマーメイドと会話していてすっかり忘れていたけど、ぱらりと石が落ちる音がして階段方面を見た。

 そうだ、まだ二人がいた。


「えっ、古竜とダークエルフ……!?」

「ストップストップ! マーメイドさん、ストップね!」

「……へ?」


 マーメイドさんはまじまじと私を見て、視線を彷徨わせる。


「ベルフェゴール様の眷属が、古竜とダークエルフを庇った……?」

「今あなた、あの二人に攻撃していたんだけど記憶にある?」

「な……!? いいえ、全く! 私はそんなことするつもりはないわ!」


 お、おおう!? 思いの外激しい反応をもらえた。

 シルヴィアちゃんとエッダちゃん、マーメイドの様子を見て恐る恐る近づいてきた。


「本当に、会話出来ている……マーメイドと会話している?」

「ね? 大丈夫だったでしょ?」

「大丈夫だと思ってるのきゅうけいさんだけですよ……」


「———きゅうけいさん?」


 あ、そこを掴まれちゃいましたかー。


「うん、私の愛称。ぐーたら寝てたらついちゃったあだ名だから、あなたも呼んでいいよ」

「はあ……まあ確かにあの御方の部下ってそういう魔族が多かったけど……」

「きゅうけいさん、あの、いいですか?」


 あれ、シルヴィアちゃんがちょっと呆れ気味だ。


「どったの?」

「いや、さっきから話が噛み合ってないしマーメイドさんは失礼だし」

「え?」

「え?」


 何を言ってるんだろう。という感じで私とマーメイドとの声がシンクロする。


「だからぁ……早くステータス見せればいいでしょって言ってるんですよっ!」

「あっ」


 そ、そういえばそうだった! なんだか会話できることが面白くてすっかりそっちを飛ばしていた!


「ステータス?」

「うん。……えっと、私、かなり最近この種族になった身だから驚かないでね? 怖くないからね?」

「何なの……? 今更怖いものなんて、魔王様ぐらいしかいないけど」

「うう、大丈夫かな……じゃあいきます!【ステータス】!」


 そして、私のステータスが目の前に出る。

 レベル9999のベルフェゴール。

 こわくないよー。


 でも当然、画面を見て凍り付くマーメイドさん。


「……う、そ……」

「えっと、あなたが知ってるのと別人です!」

「……」


 声をかけても顔面蒼白だ。さっきまでの威勢がどこへやら、ステータス画面と私の顔を見比べて……。


「———申し訳ありませんでした!」

「だからそういうのはいいってー……」


 土下座ができないので、湖の淵で頭を思いっきり下げられた。


「ま、まさかベルフェゴール様ご本人だったとは……」

「本人だけど本人じゃないよ」

「そういえば、容姿もだいぶ違いますものね……」


 少しずつ状況を把握して落ち着くマーメイド。


 すっかり丁寧語となって眷属呼ばわりをやめたマーメイドさんに、シルヴィアちゃんは満足そうににっこり。


「あなたのステータスも見せてもらっても?」

「はい、もちろんです。【ステータス】」



 ================


 BICE

 Mermaid


 LV:8816


 ================


 ……。

 ステータス見る度にこれ思うんだけど、でもね、でもね、言わせて。


 つっよ!? あれ、おかしいな、明らかにゲームより強くないですか?

 これ既にサタンより強くないですかっ!?


「強いですねバイスさん!」

「あ、ビーチェです」

「あああ何て失礼を! すんませんでしたぁーっ!」


 初めて読み間違えをしてしまった!

 全力で頭を下げて謝ったら、ちょっと目を白黒させられた。

 ビーチェさん、シルヴィアちゃんを見る。シルヴィアちゃんが「こういう人なんですよ、今代の」と言って肩をすくめた。

 ……な、なになに、どういうやりとりなの……?


「ところでベルフェゴール様は」

「様とかなくてもいいよ」

「……さすがに……」


 私はマーメイド……ビーチェさんが呼び渋っているのに困ったけど、まあいきなり自分の上司の同列を友達感覚は難しいかなー。


「ベルフェゴール様ではだめですか?」

「ううーん、自分がベルフェゴールって意識ないんだよねー」

「ええ……?」


 さすがにその発言は意外だったのか、なんだか素で返された。戸惑う顔も大変お綺麗なビーチェさん。


「どうしてもダメ? 呼び捨てとか」

「め、めっそうもございません……! そんな恐ろしいこと!」


 ……先代のベルフェゴール、どんなヤバイ奴だったの……?


「……っとそうだ、先代のベルフェゴールが嫌いって言ってたけど、詳細を教えてもらえる?」

「えっ!?」

「私そいつのこと知らないんだ。何でもいいから情報が欲しいなーって」


 ビーチェさんは、言っていいものかと少し困ったように……でもやがて、覚悟を決めて喋り始めた。


「先代のベルフェゴールは……破滅主義者です」




 曰く、怠惰というより堕落・虚無の大罪で、退廃的な世界観、何もしないでいる諦めの境地みたいな世界が好きだったと。

 真っ暗で、何もなくて、音も聞こえない空間。静謐な自分の世界で目を閉じるのが楽しみ。起きても寝ても何もない世界。それが好きだったらしい。


 しかしある日、騒音とともに人間が魔族の領地に入ってきた。

 怠惰だけど好戦的ではない魔族が戦いに駆り出された。

 そして、訓練もやる気がなかった怠惰の眷属は、瞬く間に殺された。


 眷属が殺された事実は、ベルフェゴールに伝わる。

 彼女は退廃的な世界で、静かに暮らせたら良かった。

 眷属は一緒に何も言わずに、寝ているだけで良かった。


 しかし、そういう眷属が殺された。

 怒り狂ったベルフェゴールは、他の大罪に声をかけた。


「我々が出向いて人間を皆殺しにしなければ、魔族は一人残らず殺される」


 そして七つの大罪の魔王達は、自ら人間の領地に出向き、弱い人類を一方的に殺戮していった。

 しかし人間も手をこまねいているだけではない。

 その間に人間の勇者が現れて、戦い慣れないベルフェゴールは能力を使う間もなく逆に討伐されてしまった。魔王の一角が崩れることによって、残りの大罪はすべて自分の領地で眷属を向かわせる方針となった。

 それが、昔々の出来事。


「そして、私のマスターも、その次の代の勇者に滅ぼされ、勇者もサタンに殺されてました。それから私は……私は……?」


 急に歯切れが悪くなる人魚のビーチェさん。


「……そこからは、思い出せません」

「うん、ありがとう。大体事情は分かったよ」


 なるほど、そういうことになっていたんだ。

 先代のベルフェゴールの気持ちも分かるけど、極端に走ったと。


「ところで、先代のベルフェゴールが嫌いだった理由は?」

「それは……レヴィアタン様が、基本的にあまり人間に襲いかかる気がなかったからです」


 ……ん? レヴィアタンが人間を敵視していない?


「どうして?」

「どうしても何も、「なんであんなレベルの低いザコどもに嫉妬しなければならないのか」って言ってですね、それでむしろ自分よりレベルが高く、苦手な火属性のフェニックスを筆頭眷属に持っている先代ベルフェゴール様のことを一番妬んでいたからです」


 お、オオオ……嫉妬の大罪(レヴィアタン)が嫉妬する材料が、まさか怠惰のレベル(身内)にあったとは……。

 そっか、じゃあ眷属含めて元々人間のこと嫌ってなかったんだ。


「ありがとー、すっごくよくわかったよ」

「どういたしまして……ところでなのですが」

「うん?」


 ビーチェさんは、再び私とシルヴィアちゃん達を見比べた。


「三人はどういう関係なんですか?」

「友達!」

「友達で冒険者パーティです!」

「友達で、きゅうけいさんは恩人ですぅ!」


 三者三様だけど、みんな友達!

 こうやってハッキリ言ってもらえると、嬉しくて顔がにやけちゃう。

 にやにやえへへー。


 ビーチェさんは、目を見開いて顎を大きく下げて、オーバーリアクション! って感じの顔で驚いていた。


「と、友達!? え、あの、竜族ですよね? ダークエルフですよね!?」

「うん、私は人間の味方だよ。人間の女の子とも友達……友達になりたいなあ、えっと、仲のいい子がいるんだよ」

「———」


 絶句して、シルヴィアちゃんを見る。シルヴィアちゃんは再び、「変わってるでしょ」と言って両肩を上げた。

 なんだかリーダー、その動作似合うね。


「えっと……本当に」

「ほんとだよー」

「……もしかして、今私がこうやって意識を取り戻したのも」

「うん。なんだか変な病気にかかってたから、クリアエリクサーを無理矢理飲ませて治したよ」

「……!」


 私の手にまだ持っていたクリアエリクサーの空瓶を見て、再び絶句をするビーチェさん。


「あの……どうやってお礼をすればよろしいでしょうか……とても返せる気はしませんが、どんな命令でもお聞きします……!」

「今どんな命令でもって言ったね?」

「は、はい……!」


 よし、最後の仕上げた。




 今日のこの一歩は大きい。

 この一歩から導き出せる成果も大きい。

 聞き出せた情報の重要度も大きい。


 私だけだと気付かなかった。

 シルヴィアちゃんがいたから。

 エッダちゃんがいたから。


 だから。

 カーテンコールはもちろん、こうだ!


「絶対命令!」

「ッ!」




「私を「きゅうけいさん」と呼んで、タメ語で話す私の友達になりなさいっ!」




「……え?」

「だから、友達になってほしいなーって。元々そうしたくて治したんだし」

「……本当に、それだけでいいんですか?」

「それだけも何も、何よりも一番やってほしいことだよ。この命令だけは何としてでも頷かせたいし、この命令を聞いてもらえたら、もう命令したいこと何も残ってないよ」


 マーメイドさんは、ぽかーんとしていて。

 でも目を閉じて……そして再び目を開くと、優しく微笑んだ。


「その命令、お受けします。……よろしくね、きゅうけいさん」


 ……!


 や、やった!

 誰も為し得なかったマーメイドのフレンド登録!

 みんな、みんな見てるー!? いや見てないよね!

 攻略サイトでマーメイドのページにコメント残していたみんな!

『マーメイドを仲間にする方法スレ Part.3』のスレのみんな!


 やったよ……!


「嬉しい! よろしくね、ビーチェさん!」

「ええ! ふふ……レヴィアタン様が復活なさったら、説明が大変ね」


 私はそんな、困ったようにはにかむビーチェさんの綺麗な人魚姫スマイルに見惚れながら、今日の挑戦の成功を心から喜んだ。

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