きゅうけいさんは完全に言い忘れていた
というわけで、やってきましたディナータイム。
四人はとりあえず私が可愛い感じの服に着替えさせました。
フォーマル感あるブレザーと、三人には長袖のセーラーっぽい感じ。
後で別の服に……いや元の素材がいいからか全然これでいい気がする。
元がいいと映えるねー。
さて、暴食の魔王に初の食事を紹介する、大切な時間です。
こんな時に呼んでくるのは、もちろんこの方!
とっても頼れる紳士! この街を守る、ギルドマスターのオルランドさんです!
お店はもちろん、サント・パストラレ!
……ではなく、今日のお店はビストロ・アルベルトというらしい!
どうやら前の店は季節メニューの準備前らしく、ほぼ簡易メニューに縮小中らしい。
それならと、超詳しいオルランドさんがこちらをおすすめ。
本当に頼りになります!
「オルランドさん、今日もよろしくお願いします!!!」
「いいですが……あの、カガミ様、こちらの方は……?」
私のことを名字で呼ぶ、紳士のオルランドさん。
そういや「おいしいもの食べに行きましょう!」と誘って、オルランドさんには事情を全く説明していなかった。
メンバー。
私、とっても無害なきゅうけいさん。
まあ見た目は魔王だけど、大したことない要素ということで。
庵奈。いろいろビッグなレヴィアタン。
私と同様に魔王だけど、それはオマケということでひとつ。
シルヴィアちゃん。
エッダちゃん。
勇者パーティー。
皆さんレベル四桁。
「あと今回のゲストとして! ルクレツィアちゃん! それと、チェレステちゃん、クレリアちゃん、コズマちゃん三姉妹! 超かわいいね!」
「……」
オルランドさん、ルクレツィアちゃんをじーっと見ながら首を下げて挨拶。
ルクレツィアちゃんも同じように、オルランドさんを見つつ小さく挨拶。
「時にきゅうけいさん、こちらの黒目がちな少女は?」
「黒目がちっていうか見ての通り私とそっくりだよね。ちょっとしたかわいい属性ということでひとつ。かわいいよねもうほんと私大好き」
「……。隣の三姉妹には、耳が生えているようですが、北エイメラの……?」
「あっ、こちら三姉妹も魔族です。可愛さのポイントアップにしかなってないということでひとつよろしくどーぞ」
オルランドさん、目を閉じて仰け反る。
うんうん唸る。
「……。まあ、カガミ様ですからねー……」
何とも感情がこもった一言を放ち、息を吐いて戻って来ました。
「ちょっと魔族が増えた程度で驚いていたら、ギルドマスターなんてやってられませんよ。いいでしょう」
「やった! 頼りになります!」
「自分でも、他の人にこの街を任せることはできないなってぐらい頼れる人になった自信がありますよ……」
いやー、さすがです。
このルマーニャの街を守れるのはオルランドさんしかいませんとも。
「それじゃ、よろしくお願いいたします!」
「ええ、任されましたよ。……はぁ〜……」
大きな溜息と同時に、既に注文していたコース料理が運ばれてきました!
これは……なんかおしゃれなやつ!
「テリーヌだ! 容器に入れて作って切り分けるやつ!」
「お、きゅうけいさんよく覚えてるね。一緒に食べたよねー」
忘れませんとも。
そんな色鮮やかなテリーヌが、なんか六枚ぐらいお洒落に並んでます。
ルクレツィアちゃん、フォークを取って刺します。
私達ガン見。
初めての食事に……。
「……!」
ルクレツィアちゃん、三人を見て「食べて」と言います。
感想を言う前に、次のテリーヌを……おなかすいてきた。
いやお腹空いてる時間なんだって。観察はマジで重要なお仕事なんだけど、それはそれとして私達も食べよう。
「おっ、味いい」
庵奈の一言に、私も頷く。
さすがオルランドさんのお店、間違いが全くない。
見た目以上に、テリーヌに使われた素材の味がぐわーってきました。
「おいしいです! 何これ、凄い!」
「どうやって作ってるんだろう……? これ、透明で固まってて」
「ヤバイ、超すっごい。意味わかんなすぎてヤバイ。ほらコレとか」
三人がわちゃわちゃと、互いに感想会のように話しながら食べてます。
いやー、いいですなー。癒されますなー。
「凄い……これが、人間の料理……?」
ルクレツィアちゃんは、静かにその料理を全て一口ずつ食べて呟きました。
「ね、凄いですよね!」
「うん。美味しい。見た目も味も初めての体験で、どう感想を言えばいいのか分からない」
そうだね、そういう体験だね。
タコを食べた後にトロを食べたら、脂が濃いとか分かるんですよ。
マグロは赤いとか、イカは白いとか。
当たり前の話ですね。
そういう感想って、比較で成り立ってる。
美味しいと感じるものが、どういう方向で美味しいのか。
これが調理したものになると、赤味噌と白味噌、見た目と味の違い。
味噌汁とコンソメの違い。美味しさを数値で書けない美味しさ。
どちらが好きかというのは、数字で選ぶものではない。
醤油とウスターソースでも、ビネガーとケチャップでもそう。
これが、『暴食の魔王』にとって初めての、人間の料理。
故に、感想をどう言っていいか分からない。
これからその料理の違いを、どんどん体験していこう。
全てのお皿が取り下げられて、次に並ぶのは……そうそう、スープです。
ルクレツィアちゃん、じっくりスープの中身を見ます。
見た目はほんと透き通ってて、シンプルだよね。
「この、冷たい……色のついた水は何?」
「冷製スープはスプーンで飲むよ! でも普通に飲んじゃってもいいからね」
「大丈夫よ、親切にありがとう」
お礼を言いつつも、どうにもまだ警戒心ある雰囲気のあるまま、ルクレツィアちゃんがスープを一口。
音を立てずに、スススとスプーンの中身がお口の中に。食べ方めっちゃお上品。
そこで……ルクレツィアちゃんが止まります。
目を見開き、ケルベロス三人の方を見ます。
ちなみにケルベロス三人、ルクレツィアちゃんからオッケーもらうまで『待て』をもらってるかの如く、まだ飲み始めてません。
飼い犬わんこ姉妹かな?
「飲んでいいわよ、というか私のこと気にしなくていいから」
「! はいっ!」
三人、ゆっくり飲み始めます。スプーンは三人とも丁寧に使って——。
「——お、おいっしい! すごい!」
「え……思っていた味と違いすぎる……!」
「わかんない何これおいしすぎてヤバい」
三人、スプーンほっぽり出してぐいぐい飲み始めました。
「あっ、なくなっちゃった」
そして三人そろって、一気に飲み干しちゃいましたとさ。
「……そうね、本当に……信じられないぐらい美味しい」
ルクレツィアちゃんは、スプーンを放棄せずゆっくりじっくり飲み始めます。
ちょっと口の中に溜めてる感じで。
私も飲みます。
……うおっ、すっご。味が濃い。
「うわー、久々にお店の味だ。お店なんだけど」
庵奈が当たり前すぎるコメントをして笑います。
そうだねお店の味だね。お店だからね。
バカっぽいけど、実際レストランのコンソメスープのガチなやつって、マジで超美味しいよね。びっくりするもん。
次はお魚!
「魚は食べたことあるわ。生でも焼いても。これは驚きはないわね」
「そうかな?」
「……何?」
ルクレツィアちゃん、こちらをちらと見て、お皿のお魚を口に入れます。
「わ、すっご……何だろ、不思議……!」
先に食べ始めたクレリアちゃんの感想を聞き、ルクレツィアちゃんはちらとそちらを見て、静かに頷いてます。
「美味しすぎ……今まで私達が食べていた魚って……?」
チェレステちゃんの感想に、食器を静かに置いてルクレツィアちゃんが呟きます。
「素材や種類じゃなくて、これも調理の違い。そうなのよね?」
「分かってきたね」
お魚の次は、メイン!
……の前に、もしかしたら皆にとっては一番珍しく感じるかもしれないものが来ましたね。
「これは?」
「シャーベット。私が出したクッキーとかと同じ系統、人間の甘いお菓子だよ」
「へえ……」
四人は一斉に食べ始めて……三人が一気に食べて、アイスクリーム頭痛を発動させました。
君らめっちゃ仲いいね! 見てて最高に楽しい!
一方、すっげえ上品に食べていくルクレツィアちゃん。
「……甘い。甘すぎない。冷たい。冬の水より冷たい……氷の魔法を食べるなんて」
独特の感性で感想いただきました。
そうだね、魔法のある世界だったら、氷魔法の後にシャーベットという順序も有り得るんですね。
なかなか新鮮。
「さて、次はメインだね」
「メイン? この上、まだ主役が来てないの?」
そう言っていると、現れました!
牛肉のブロック! 赤色が見える、血も滴る……あっこれ血じゃないんだってね。
ドリップステーキ! あんまり美味しそうじゃなくなった。
でも絶対美味しいのは分かってます。
「これが……」
ルクレツィアちゃん、フォークを刺してナイフをゆっくり動かします。
綺麗に切断されたお肉を口に入れ、何度も咀嚼。
その様子を、私はじっと見守ります。
さっきからこんなに観察してるのはですね。
——戦いたくないんですよ。
いや、何を急にって話なんだけど。
さっきまでお話していた内容はもちろん踏まえた上なんだけどね。
もしも人間の料理という中での、スイーツじゃなくて、こういった塩味系のしっかりした普段の料理ってやつを、果たしてベルゼブブという魔王が気に入るかっているのは問題だったんだ。
だって、先代のベルゼブブは完全に悪の裏ボス親玉だった。
体重想定数トンの、ヤバい肉塊の魔王だった。
もう『量』以外に何も興味がないという生き物だと思った。
ルクレツィアちゃんは、すっごくスマートで美人。
だけど……この子が果たして、この切り身の魚からの、切り身の肉でどれぐらい満足するのかが分からない。
この子は。
味なのか。
量なのか。
その差は、私がこの子と戦わなくてはならなくなる境界線になる。
「——ということを考えてるんだ」
「すっげえ考えててびっくりしてる」
今、スピードアップして、庵奈とこっそり会話してます。
「庵奈的にはどう?」
「私の中では、結論出てるけど」
「えっ」
緊張しながら喋ったんだけど、庵奈はもう全然余裕そうな感じだった。
今度はこっちがびっくりしてる。
「なんで?」
「いや分からない? この子のおかしさ」
おかしい?
「おかしくないでしょ」
「おかしくないよ。だからおかしい」
ルクレツィアちゃんの食べ方は、全くおかしくない。
食器の選び方も完璧だし、食べ方も問題ないし。
全然というか、すっごく綺麗でむしろおかしいところが……。
おかしい……ところが…………?
「いや待って、なんで何も間違ってないの?」
おかしい。
カップスープをスプーンで飲み始めてる。
フォークをまず左手に持ってステーキを切っている。
何より……来た料理に対して、食器を端から選んでいる。
何故この子は、フレンチ初体験で何もおかしくない?
説明してないのに。
「じゃ、時間戻してうちらも食べよー」
「ほぁー……」
なんとも間抜けな返事で、私は庵奈に続いて牛肉を食べ始めた。
あっ、ちょーおいし。
最後のデザートまで、全て同じ。
ルクレツィアちゃんは上品に、三姉妹は元気良く。
最後のコーヒーをブラックで飲みながら、ルクレツィアちゃんは私達を見ます。
「美味しかった。きゅうけいさん、オルランドさん。……本当に美味しかったわ。ありがとう」
そう言って、薄く笑いました。
ン゛ッ。
————可愛いッ!
びっくりした。微笑むとは思ってなかった。
ここ一番でやってきました!
ルクレツィアちゃんは、カップの中の黒い液体を眺めながら、ぽつりと言いました。
「私は……何て言うのかな。こういう料理を食べるために、生まれてきた気がする」
そう言われて、ようやく点と点が繋がりました。
この子は……人間の料理を食べる魔王として生まれてきたのだ。
何故か分からない。何故か分からないけど、むしろそう考えると『街の近くに生まれた』という理由も分かる気がする。
だって明らかにレベルが低いし、よりによって勇者のいる街なのだ。
生まれてきても、意味がない。
じゃあ、この子がどうして産まれてきたのか。
(また起きる時に、挨拶しますかね)
二人のちょっとお茶目な美人さんのことを思い浮かべながら、私もコーヒーを飲んだ。
「これで、良かったのですかな?」
「はい! オルランドさん、マジでグルメ最強! ギルマス! ルマーニャの救世主!」
「言い過ぎですよ」
「いや全然言いすぎじゃないです。……あれ?」
ふと私は、何か重要なことを忘れてる気がした。
改めて、今回のレストランにオルランドさんの助けを借りた理由を説明しよう。
「一応この子、暴食の魔王ベルゼブブの二代目として生まれてきた子で、人間の料理に満足いかなかったら割と難しい状況だった、という話は」
「初耳なのですが!?」
言ってなかった! テヘ。
オルランドさん、立ち上がりかけてたけど腰を抜かして再び座り込みました。
「ま、結果的にやっぱり街を救ったし、これも一つの『えっ、俺何かやっちゃいました?』ということで!」
「ははは……カガミ様と話していると、本当に自分が相当出来る人間だと勘違いしそうですよ……」
いやいや、今回はマジで凄い活躍でした。私だったら予約もチェックもなしに前の店紹介してたと思う。
やっぱり、この街を守るのはオルランドさんの役目だったね。






