きゅうけいさんは自分で選び取る子が好き
幸い、相手の子らは『超絶強い!』みたいなタイプではなさそうなので、じっくり観察してみるとしましょう。
まずは正面の、女の子三人組。
髪の毛は紫色で、三人とも似たようなショートヘアです。
この三人が実にまあそっくりでございます。
服装はですね~~~…………涼しげなシャツと短パンに素足です。
この季節には冷えますね。というかダンジョンの底に裸足とか。
後。
忘れてはならない部分があります。
というか、この部分だけで、目の前の女の子の正体が一発で分かります。
三人組の向こう側にいる子も、分かります。
女の子ね、耳ついてるんですよ。
ぴんと立った、狼の耳です。
紫色で、髪の毛と一体化しています。
人間の耳の位置には何もありません。
これはアメリカ大陸もとい北エイメラの、ニュージャーニーにいたケモ耳さん達と同じです。
獣人と迂闊に言うと、庵奈と口論になりそうなので言いません。
出てきた魔物は、オークと、空中で止まる蝿。
同じ種類の狼の頭が三つ。
はい、もうお分かりですね。
「君達、もしかしてケルベロスだったりする?」
話しかけると、びくぅ! と見ていて可哀想になるぐらいの絶望顔でこちらを見ながら身を寄せ合う三人。
初対面の時のシルヴィアちゃんを思い出すようで……ぬおおアレを思い出すと今でも自分の初手のやらかしっぷりに悶える!
みんなは昔の失態を思い出して「ぬおお!」ってなったりしない? 私はめっちゃします。
「何もしない! 何もしないよ! 会話できそうな子には何もしないよー無害だよー!」
なんとか同じ対応を取る方向でやってみます!
こんな感じだったかな? 違う気がする! まあいいや勢いだ!
「無害だよー! 私の名前は無害さんだよー!」
「………………無害さん?」
「そう! あっ、違った、きゅうけいさんだった。いやきゅうけいさんも違うんだった」
自分の本名を初手で忘れる。
私の名前を呼ぶ人の方がもう少ないからね。ダークエルフ長老ロベルトさんとか、竜族の長老エドモンドさんとかあの辺り。
あっしまった、完全に三人おいてけぼり。
「ええと……とにかく、話を聞かせてもらっていいかな」
「…………」
「…………?」
「……(そわそわ)」
三人はお互いの顔を確認しながら、恐る恐るこちらを見る。
あと……忘れてはいけないのが、向こうに見える黄色い子。
三人組が私に話しかけようとしているのを見て、ちょっとこっち見てる。
目の中は、やっぱり黒白目に金の目。
笑顔で手を振る。
再び塞ぎ込む。
んー、残念。まあやっぱ私は現状じゃちょっと怖いよなあ。
「えーっと……じゃあ、お話しするね」
私はまず、自分から情報を開示していくことにします。
土の付いた床に座り込んで、目の前の三人をしっかりと見て。
「私の名前は火神球恵。七人の魔王の一人で、ベルフェゴールなんだ。仲間だよ」
最初の情報開示に、三人は再びお互いの顔を見ます。
可愛いね、三つ子ちゃん。
「ケルベロスは、昔ここに現れたことがあるからね。人間形態で現れたことは初めてだけど」
「……」
「それで、私の住んでいる所にはベルフェゴールの眷属フェニックスとか、レヴィアタンの眷属マーメイドとか、全員いるよ」
「……! ほ、他の筆頭眷属……!」
「私達だけじゃないの?」
「えっえっ会いたい、私らだけじゃもう限界」
お、今度は反応良さそう。
よくよく見ると、真ん中の子はヒロイン可愛い系、左の子は更にロリっぽく可愛い系、右の子はややギャルっぽい可愛い系です。
可愛いね。それしか言えんのかい。
――言えませんね! 可愛いので!
「だから、分かるんだ。向こうの子も」
私は、ずっと向こうで体育座りしている子に声をかける。
ケルベロスの三人、顔を見合わせて再び警戒モード。
そうだね。
君達という存在は、やっぱりどんな時でも、ご主人様のことは第一に考えちゃうんだね。
それが本心からなのか、それとも隷属魔法だからなのかは分からない。
分からないけど、まずは話しかけてみることから。
「そろそろ、君とも会話したいな――――二代目ベルゼブブの子」
私が声をかけると、デーモンの子は肩を大きく揺らして反応した。
うん、当たりのようだね。
「君は、突然生まれた魔王なんでしょ? あのオークは、眷属のはずだった。多分、蟻も蝿も、全部そう。ルマーニャ……上の街から食料を取ってくるために、眷属を向かわせたんだよね」
「……そうだよ」
初めて、その高い声が聞こえてきた。
ケルベロス三人組、慌てたように振り返る。
「あなた、何なの? せっかく人間を安全に襲う力を得たのに、どうして私の兵士を殺すの」
おっ、事情を話していただけました。
いいですね、いいですね。
生まれたばかりの魔王様がどんなものか、じっくり考察できますね。
「質問していいかな」
「質問したのはこっちじゃない」
「大切なことなんだ。ねえ――何で人間を襲おうと思ったの? 食べ物が欲しいから?」
私の質問に、ベルゼブブの子は「はあ?」と首を傾げた。
「私、生まれた頃から魔王なのよ。人間を襲う種族なの。襲わないと変でしょ」
「でも私、魔王だけど襲ってないよ」
「何でよ」
「必要ないから」
「――――」
私ははっきりと言い、絶句している子に重ねて質問する。
「もう一度聞くよ。何で人間を襲おうと思ったの? あの街がどういう街か知ってるの?」
「知らないわよ」
「あの街にはね、歴代最強の勇者がいるんだ。レベルは8000以上、そのお姉ちゃんも同じぐらい強いよ」
私の言葉に、四人が揃って目を見開く。
そうだよね、さすがにそんなの知らないよね。
だってルマーニャって最初の村なのだ。周りに居るのはコボルドみたいなザコ敵て、そいつら倒して生活しているような冒険者の街なのだ。
恐らくこの子も、その感覚で襲ったのだろう。
一斉に魔物で囲えば、ルマーニャなら滅ぼせると。
……思えば、一番最初にベルゼブブが狙ったのもルマーニャだった。
オークで海岸から攻めながら、反対方面では魔物の群れとケルベロス。
あの時には、私がいた。シルヴィアちゃんもいた。
今は、レベルが数千倍になったミーナちゃんがいる。
いやほんとミーナちゃんこうやって考えるとマジで半端ないなあ。
「三度目の正直。どうして人間を襲おうと思ったの? それってさ、もしかしてだけどさ」
私はここで、核心に踏み込む。
「——なんとなく『そうしなければならない』という誰かからの命令を受けた気がしただけで、本当は『特に理由がない』んじゃない?」
私の言葉に、呆然と少女は私の方を見つめながら止まる。
三人のケモ耳は、そわそわとこっちを見たりあっちを見たり。
やがて、デーモンの少女は「あ……」と声を上げた。
「私、なんで人間を襲う必要があると思ったの?」
「そういうふうに最初の指示がなされているからだよ」
「じゃあ、あなたはどうしてその指示に従ってないの?」
「そうする必要がないからだし、そうしない方が得だからだよ」
本当は、人間だから人間の味方をしているというのが正しい。
でも、この場合はその対応は正解じゃないだろう。
「得、って言ったの?」
「そうそう。だって私達は、自分の意思で何かを考えることが出来る。漫然と、ただなんとなく魔物を召喚して、漫然と食べて、漫然と寝ることも出来るね。でも私は、それを『生きている』とは言わないな」
これはちょっと踏み込んだ話だけど、メタ認知の訓練みたいなものだ。
自分はここにいて、自分の意思で何かをやっていて、それで初めて自分の意思があると言える。
それはなんというか、こう、ゲームでも食事でも、それこそ食事の後の皿洗いでも。
この子は、魔王。
設定された魔王ベルゼブブ。
三人は設定された筆頭眷属ケルベロス。
その鎖から抜け出すことが出来れば。
「あなたは、人間の味方をして、どんな『得』をしたの? そんなにいいことがあったの?」
「そりゃもう、たっくさん! まずは、そうだなあ……これとかどう?」
私はここで、ストックしてあった手作りアップルパイを出現させる。
あまりに時間を操作する魔法と料理の相性が良すぎて、庵奈と二人でそういう料理ばかりやってる。
魔王二人で料理の方に熱中してるの、さすがに面白い。
だってさあ、料理本で最大の難敵である『冷暗所で一晩寝かせて』が一秒で終わるんだよ。あの素材変化が一瞬で起こるの、めちゃめちゃ楽しい。
デーモンの子、さすが暴食。
現れたものに釘付け。
私はそれを半分に分けて、その子に近づいて出す。
「どーぞ」
「……どうも」
二代目ベルゼブブ、アップルパイを一口。
瞬間……くわっと目を見開く。
それからはもう、高速で噛んで噛んで、食べ切りました。
「なに、これ……美味しい、甘い、こんなものが……」
「あるんですねー、人間の料理というやつには」
私は、近くでずっと見ていた三人組にもアップルパイを渡す。
三人とも食べて、それはもう嬉しそうに飛び上がってくれた。
感情表現が豊かで可愛い。餌付け完了。
「作り方はね。この生地の元になる小麦粉が必要なんだけど、人間の社会にいないと自然には作れません。バターもです」
「え」
「その上で、かなり特殊な手順で生地を作り、それを薄くのばして数十とか数百とかに折り重ねる作業が必要です。めっちゃ技術要ります」
「え……?」
「当然っちゃ当然のことなんだけど、人間を絶滅させるとこれらの料理は二度と手に入らないです」
「あっ……」
私はここで、一旦離れ……ぽぽんとクッキーとか出します。
自分のクッキーもぐもぐ。
「私が作ったやつ! ちょーおいしい!」
今度は庵奈謹製のケーキを出します。
庵奈、マジでお洒落系の料理上手い。
そして、目の前でもしゃもしゃ食べます。
「あっコレ私が作ったのより美味しいな」
ごくん、食べ切りました。
ケルベロスの子が、全部食べ切ったところで「ああっ……」と切なそうな声を上げます。
四人分の目は、じーーーーっとこっちを見ております。
私はそんなみんなに、事実を伝えます。
「これは魔王の私と、魔王のレヴィアタンの友達で作ったものなんだけど……ぶっちゃけ人間のレストランの方が美味しいもの多いよ。というか人間より料理の上手い種族、今のところいないよ」
最後に、腕を組んで胸を張り、ニッと笑った。
「どう考えても、人間の味方してた方が得でしょ?」
それから腰に手を当て、彼女に問いかける。
「一生ここで暮らすのと、みんなで上で暮らすの。どっちがいい?」
その問いは、もちろん向こうの少女だけに。
眷属のみんなは、主に従うしかないのだ。
多分だけど、強制力じゃなく慕ってそうだから、少女が下に残ると言えば、みんなどんなに名残惜しくても残るだろう。
この子はどこまで理解しているのだろうか。私は気付くまで結構かかったからね。
ミミちゃんよりは、ちょっと年上の状態で生まれたのだろう。
受け答えもしっかりしているから、頭の回転も速いと思うけど。
——出来れば、自分の意思で選んでほしい。
ベルゼブブの子は、私の視線を受けて顔を上げる。
内容を吟味し、小さく頷いて目を開いた。
「上がいい。この子達の為にも、下の世界だけで一生なんて絶対に嫌。だって……もう、食べちゃったから。あの味を覚えて、この子達をずっと下に引き留めるなんて、私には出来ない」
少女ははっきりと、そう答えた。
……うーん、びっくりです。
受け答え、400点。
自分の欲望のままに選び取るだけで満点だったんだけど、ちゃんと自分の筆頭眷属が自分に従ってしまうことの負い目というのを理解している。ケルベロス達の分も含めて100点をボーナス加算します。
下手な大人より大人です。聞いたか、クローエ元主のルシファー。
まあクローエさんは私が囲っちゃったけどね。あの最高の王子様系女子は、もう絶対に返しません。
「一応、あなたに従うなら……これの開示もしておく。【ステータス】」
================
Lucrezia
Beelzebub
LV:201
================
「その……色々、よろしく」
こうして、二代目ベルゼブブのルクレツィアちゃんが仲間になりました。
もちろん三人組もセットです。






