別視点:街の人達の反応
ルマーニャの街。
この住人は、基本的にのんびりとした日々を過ごしている。
近隣の魔物も危険な種が出ることはないし、大きなトラブルもない。
それこそ、ここ最近だと古竜が助けに来た例の事件と、ヤマトアイランドの人が助けに来た例の事件ぐらい。
それでも、街の住人にとって『勇者』というものが現れたことは大きいわけで。
「あのきゅうけいさんって魔王さん、そんなにすごいのかなあ……?」
「それ気になるよな」
「な」
そんな会話が起こることもあった。
というのも、住人はきゅうけいさんの活躍を直接見たことはない。
ただ、勇者と同等以上と言われている姉の守護騎士ミーナが、きゅうけいさんを推している。
それも半端なく。
もう信仰というレベルで褒めちぎっている。
『あの凄い人が言うのなら……』
『昔から素直なミーナちゃんが言うのなら……』
『勇者も凄いって言ってるしなあ……」
とまあ、そんな印象であった。
見た目は完全に魔王。
中身は明るい普通の女性。
ただ、実際に戦う姿を直接見たものはいない。
大多数にとって、『あの人が魔王? 人違いじゃない?』という感じであった。
とはいえ、それ故に受け入れられるのも早かった。
『まあ敵じゃないのならいっか』
元々容認派が主流で、皆そんな感じで実に呑気なのがルマーニャらしさでもあった。
一応街の近くで起こったスタンピードも記憶に新しく、また古竜の活躍が印象に残って射る者も多い。
凄いと言っても、あれほどではないだろうという認識の者が多かった。
ただ、その認識は本日ものの見事に覆されることとなる。
「レヴィアタンの庵奈だよー、楽しいこととお酒が大好きだよー」
二人目の魔王が来た。
とはいえ、あの無害な魔王の友人だけあって、その雰囲気たるや見るからに普通の女性。
先日は母親同伴だったし、普通の人よりよっぽど丁寧だったし、まあいっかという感じである。
ただ、今回は街の近くで問題が起こっていることもあって、その戦力には期待したい部分があった。
さすがに自分の命と天秤となると、気楽に『大丈夫』とは言ってられない。
いくら勇者といえども、敵の本体がどこにいるか分からないと動けない。
言わば、無限湧きの魔物を延々狩っているようなもの。
解決の糸口が見えないのである。
「本当にあの魔王が解決してくれるわけ?」
「ミーナちゃんが言うにはそうらしいけど」
街の住人もそんな会話をしながら、興味津々二人の様子を見ていた。
守護騎士ミーナの『きゅうけいさんが来てくれる! これでもう大丈夫!』という意見は、普段かなり自分に厳しく最悪を想定して動く彼女らしくない。
相手の出没位置すらも不明なのに、楽観的すぎて違和感しかない。
その相手もすぐ到着し、六人で話し合っている。
何やら盛り上がったりしていることは伝わるものの、その様子は分からない。
この騒動は本当に解決するのだろうか。
そんなことを思っていた矢先——。
「アリだー!」
遠くで叫び声が上がる。
住人の緊張感が一気に高まり、声のした方へ一斉に振り向いた。
そこには街の煙が上がっていた……のだが。
「これかー」
なんとも呑気な声が、再び広場からした。
そこには自分の身の丈より大きな蟻の首根っこを捕まえた魔王が立っていた。
というか、背中に剣が刺さって既に絶命している。
「うわああああっ!」
すぐ近くにいた人が腰を抜かしていたのを「あ、大丈夫だよー」と首を軽く引きちぎりながら言う。
大きな家具でもバラしたかのような音とともに蟻の肉体が倒れ、蟻のやや平たい顔を両手で持ちながら「うわー」と正面から向き合う件の魔王。
もう一人の魔王も、それを指で突きながら感想を話し始める。
「近くで見るとやっぱ迫力あるねー」
「ね、顎とか絶対刺さらないって分かってるんだけどやっぱうわーって思うよね」
「わかるー」
二人はそんな調子で話しているものの……周りの者は 今、何が起こったか分からない。
皆が困惑する中で、それらを代表するように古竜の少女が質問する。
「……ひとつ聞いてもいいですか、きゅうけいさん」
「どったの、シルヴィアちゃん」
「今のって、つまりあの『煙の出た場所に行って、ギガントアントを倒してここまで戻って来た』のでいいんですよね」
「あっ、そうだね。正確には庵奈と一緒に行って、端っこで豆の漬物っぽいの作ってる人の正面」
「豆じゃなくてケッパーだよー、きゅうけいさーん。こないだ食べたじゃーん」
「あれおいしいよね」
「忘れてた人のコメントじゃないんだよなー?」
二人の解説が横道に逸れだした辺りで、古竜の少女は頭を押さえながら苦笑した。
今の会話で、さすがに周りの住人にもい何が起こったか分かった。
「……いや、マジか?」
「強いとかそういうレベルの話じゃねえ……」
「明らかに握力だけで千切ったよな」
聖女キアラが倒れた蟻の胴体の近くにしゃがみ、叩く強さを少しずつ上げていく。
何度か叩き、蟻の脚表面が叩き割られた。
「……いやマジもんのアントだ、すげー硬いわ。店売りの両刃斧とかじゃ刃の方が欠けるぜ」
さすがに街の住人も理解した。
ミーナの言っていたことは大げさでも何でもない。
「きゅうけいさんにかかれば、この騒動も解決ですね!」
「ミーナちゃんの期待が重い! でも期待されちゃうと調子に乗っちゃう!」
「きゅうけいさんちょろくてうける」
実に気楽そうな会話をした後、周りの住人に向かってその魔王は軽く手を振った。
「あっ、無害だよー。私はこんなだけど超無害だよー。無害さんだよー」
そんな気の抜けるアピールをした後、やってきたメンバーを振り向いた。
「エッダちゃん。街壁の上から西、平原へ距離600ぐらいまでに出口あるかも。出てきたら撃ってもらっていい?」
「わ、わかりましたぁ! 目立つから大丈夫なはずですっ!」
「シルヴィアちゃんとミーナちゃんキアラちゃんは、今煙出てる場所に待機ね。内側の入口あそこだけっぽいので」
「ええ、分かりました」
「お任せください!」
「うっす」
的確に指示しながら、魔王はもう一人の魔王に声をかける。
「庵奈、一緒に潜る?」
「正直、蟻見た感想やっぱやだなー。きゅうけいさんああいうのバッサバッサするの好きそうだし任せた!」
「いや別にアント切るのは好きじゃないんだけど!? じゃあ街の他の場所が危なくなった時全般やって!」
「ま、大丈夫だと思うよー」
そんな呑気な会話とともに、赤髪の魔王は時間でも飛ばしたかのように一瞬で消えた。
その様子を見て、街の皆は思った。
——ああ、本当に今日で解決しそうだなあ。






