きゅうけいさんは食べさせたい
ごはんごはん、おなかすいた。
さーて……しかしどうしたものか。
このすっげえ目立つスーパーモデルトリオと、ちょっと着飾った案内人である私に相応しいランチというのが想像つかない。
中身のことを知ってるから、きっとみんなファミレスでもきゃーきゃー言うのかなと思うけど。
……そういえば、日本人にとって海外のファミレスとかってどういうものなのかって分かんないよね。
つまりそれは、三人がファミレスにあるものに驚いたとしても、それ自体を第三者から見ても珍しくないわけだ。
ユーは何を目的にジャパンへ?
そこで語られるのは、『その程度のこと?』というものに対する再発見であったりもする。
つまり、この三人が客として入ると——。
「これ、本当にいくらでも使っていいんですか……!」
「いいよー。だけど無駄にバシャバシャ捨てたりしたらダメだからね。後はあんまり立ち飲みも行儀よくないかも」
「も、もちろんです。うわあ……どれがおすすめですか?」
——微笑ましい旅行客、という感じになりましたとさ。
ミーナちゃんが目を輝かせて、ちょっと注いでは飲み、再びちょっと注いでは飲みました。
一応どれが甘いかとか、その辺りは詳しくお話しいたしました。
とりわけ身の丈180〜190ぐらいの超巨大イケメン女子のクローエさんが、腰を屈めてドリンクバーのメロンソーダを注いで「おお……」と感嘆しながら窓からの日差しに照らす姿を、私を含めたお客さん全員の生温かい微笑みで見守っていた。
分かるよー、分かり手魔王もとい一般日本人だよー。
あれかわいいよねー。
「あの装置の中に、どうやってあれだけの液体を入れているのかしら……?」
パオラさんも、冷静でありつつも興味津々だ。
「あれはね、水を裏からくみ上げるシステムがあるんだけど、あの機械の中に入っているのは物凄く濃い液体で、それを水で薄めているんだよ」
「なるほどね……理屈の上では納得できるけど、ボタンを押すだけであれだけいくらでも出てくるなんて凄いわね。飲み放題で、いくらだったかしら」
「これはセットメニューだから220円かな? パン二個ぐらい」
「安すぎない……? コーヒーもよね?」
それに関しては、マジで安すぎると思います。
コーヒーって手挽きでなくともお店だと普通に一杯でそれぐらいだし。
「あれはね、ボタンを押すと自動的に一杯分だけ豆を挽いて、適切な温度でお湯を入れるの。さすがにあの機械のクオリティは、近年研究を重ねまくってあの最適な動き方が出来るようになったんだよ」
「食に対する執念が尋常じゃないというか……」
それに関しても、マジでそう思います。
おいしいものを作ることに関しては、業者の皆様に畏敬の念を抱いております。
「きゅうけいさんの料理に対する知識と技術って、あれをプロとして標準的なランクぐらいと思うと納得するわね……」
「うん。私の料理技術は、ほんとにめっちゃ普通……とはいってもそりゃ最初から出来たわけじゃないけど、珍しくないと思うよ。味付けセンスはまあ多少頑張ったかな」
そんな会話をしていると、料理がやってきた。
ちなみに注文タッチパネルも、みんな興味津々でした。
「お待たせしました! トマトハンバーグセットのお客様」
「そちらね」
「ナスのミートソーススパゲティのお客様」
「これもそちらで」
「ペペロンチーノのお客様」
「これはあちらで」
「チーズグラタンのお客様」
「ちょっと狭いけどこれもあちらで」
そして、皆さん食べたい物を自由にと言うと、どんどん頼みました。
いいよー、今日のきゅうけいさんは食べさせおばちゃんモードだよー。
大阪の食い倒れ人形の擬人化モードだよー。
「ドリアのお客様」
「それが私です」
広いテーブルに所狭しと並ぶお皿を見て、食事開始。
せっかくなので、あれこれとお互いに食べ合います。
「これ、すごく美味しいですね!」
「……! はーっ……これはなるほどね」
「いいなあこれ。どれも遜色なく美味い……」
ま、ここイタリアンのファミレスでも人気ですから。
そしてみんなは、イタリアンな世界観からやってきた人達ですから。
きっと間違いないだろうと連れてきて正解でした。
私も自分のものを……と思ってドリアを一口食べたところで、視界に何かすっごいものが現れる。
色気の化身とスーパーモデルが歩いてる。
じゃなかった。
なんかすっごくセクシーなスタイルと服装の二人組が店に現れてる。
誰ですかあれ、めっちゃ目立ってます。
他のお客さんを見ると、男衆が二度見してた。
女の人も怪訝そうに見た後、二度見してた。
はい、分かり手魔王です。
元来、人間は揺れる物を追いかけるという習性があって、猿から人に進化する過程で胸が大きくなったと聞きます。
なので、あれを見てしまうのは正常です。
他の席から「えっ、今日何かの撮影?」みたいなコメントが出てます。
どう見ても一般人オーラじゃないからね。
まあ、一番びっくりしたのは、その人らの後ろから顔を出した人物なんだけど。
「おっ!? めっちゃお洒落してんじゃん、ていうかレーヌの服じゃん! 何だよもー私が行ってない時に買っちゃったのー?」
おっぱいの後ろから、すげえイカしたファッションの庵奈が出没した。
カウボーイハットをぴっと上げて挨拶する庵奈に対し、一体どこで出会ったんだというおっぱいさんが庵奈に振り向いた。
「あら、アンナさん。お知り合いですか?」
「今日はばしっと決まってるから分かりにくいかもね。でも残り三人は、みんな会ったことあるっしょ? それ連れて来られる人なんて一人しかいないし」
「もしかして……あの方がきゅうけいさん!」
「嘘っ! あっでも言われてみるとどことなく……!」
振り向いたすーぱー美人さん達が、嬉しそうに私の席の隣にぐいぐいっとやってきました。
い、いやいやちょっと待って下さい、今私はこちらの三人に観光案内しているところでして、よりによってこんな美女のおかわりがやってこられても困るといいますか。
モテ期来すぎでは? 明日らあたり隕石に頭ぶつけるのでは?
——ちょっと待って。
一旦冷静になろう。
庵奈がいる。
庵奈と知り合いのセクシー美女がいる。
私を知っている。
私は見たことない。
いや、知らないはずがない。
こんなに色気たっぷりの人で、サキュバス三人と違う見た目の初めましての人で……。
「もしかして……イデアさんでは?」
「ふふふ、当たりよ」
「じゃあ隣はビーチェさんだ」
「そう!」
うわー、うわー、大変なことになってまいりました。
こっちの仲良し四人組、やってきちゃいました。
「だって、二人ともとっくに行ってるって聞いて。私、アンナ様に頼み込んでイデアと一緒に来たのよ。行くなら絶対四人一緒がいいって」
うわーっ、そりゃそうだーっ!
すっかり自分の身体のパーツが限界来ていたことに気を取られて、肝心なことを忘れていた。
四人は仲良し、こういうので抜け駆けはナシって感じだったもんね!
「ありがとう庵奈、私の体のパーツが足りなかった分の転送装置!」
「ハハハもっと言い方あるっしょ、ほんと調子のええやっちゃなー。あ、二人ともドリンクバー説明しとくよー」
というわけで、今回はいきなりメンバー合流して七人の大所帯となりました。
いやー、どうしましょ。
周りのお客さん、カメラは肖像権あるからやめてね。私はSNSデビューしたくないので。
でもま、せっかくだし。
「じゃあちょうど食べ始めたところだから一緒に食べるとして。夜らあたり、乾杯しちゃう?」
「気が利くねぇ、それ採用!」
今日の楽しい一日は、もう一段賑やかになりそうです。






