きゅうけいさんは信頼されたい
二章スタートです!
今回はやや復習的に各キャラの話を書いてます。
「今日はカルボナーラだよー!」
「きゅうけいさんのカルボナーラやったーっ!」
「……」
私はこれで何回目になるかわからない、カルボナーラを皿に盛りつける。お皿を受け取るのはエッダちゃん。
その後ろに、私を射貫く視線。
お、おいしそうだよね!
「おいしそうですぅ〜っ!」
「……」
ほ、ほらぁ〜! ピンクペッパーを入れると! なんと彩度低めのカルボナーラにアクセント! 白いパスタを綺麗に彩る辺りが素敵でしょ〜っ!
ね、ね! 女子力高くなぁ〜い!?
「……」
「なぁ〜い……かな?」
「……」
かな?
「……。……はぁ〜〜〜っ……ああもう、負けよ負け! あたしの負けですよもう……」
……!
「そ、それじゃあ……!」
「ええ、ここまでやらせておいて応えないなんて、さすがにあたし自身心苦しいというか、なんだかそうと決まるとだんだん意地を張っていた自分の小ささに情けなくなるやら……」
「いえいえっ!? そんな、村のみんなを守るためですもの、当然ですよっ!」
「……仕方ない。あたしの責任を持って認めましょう! 父上……長には私から言っておきます。……ようこそ、きゅうけいさん」
「やったー! ありがとうございます!」
「お姉様! あたしからもありがとうございます!」
「なんでシルヴィアがお礼言っちゃうのさ……」
今日、ようやくここ、『竜族の村』に住むことを正式に認めてもらえた! いやあ長かった……本当に長かった!
「なんだか、すっかり色々言い訳しちゃってごめんなさいね。改めて、その、私とも仲良くしていただけるかしら」
「もちろんです! よろしくお願いしますね! トゥーリアさん!」
———さて、どうして私はここで、シルヴィアちゃんのお姉様であるトゥーリアさんの前で料理をしているか。
発端の話は、一ヶ月前まで遡る……。
-
私とエッダちゃんは、シルヴィアちゃんの背の上で、長い間空の旅を楽しんでいた。
せっかくの旅なんだし、ゆっくり行きたいよね。と背中で発言すると、その声を聞き漏らさないシルヴィアちゃんが意図を汲んでくれて、速度を落としてくれている。
「私、こんなに遠くまで来たの初めてで、わくわくしてしまいますぅ!」
「うんうん、私だってそうだよ。なんていうかさ、この両目で見る世界だと迫力あるなあって思ってね」
「へ? 両目で見る以外に、世界の見方って有るんですか?」
「あっ……えーっと、そうね、絵越しとかだとどうかな」
「確かに絵だと、ここまで迫力は感じられないですよね」
いけないいけない。私が見ていたこの世界はディスプレイ越しだって事はさすがに言うわけにはいかない。
……し、シルヴィアちゃん、思いっきり何か勘づいてそうで怖い!
話題を変えよう、そうしよう!
「それにしても、シルヴィアちゃんはかっこよかったんだよー」
「えっえっ、聞きたいですぅ!」
「古竜のドラゴンブレス! あれでやってきた魔物をどーん! って一掃しちゃって、もう見ていて気持ち良かったんだから!」
「わああ……! やっぱりシルヴィアちゃんって素敵ですぅ!」
あっ、ちょっとモゾモゾ動いちゃってる。んっふふふ、照れてるわね? んもう、こんな姿になってもかわいいんだからっ!
シルヴィアちゃんは、竜族の村の中でも長の末娘である美少女だ。今はこんな大きな黄色い竜の姿をして私たちを乗せてくれているけど、実際の姿は金髪サラサラヘアの可愛い超絶美少女。
強くて可憐でしかも頭もいい上に、人間を守るために頑張るという完全無欠のスーパーヒロインなのだ!
「そういえば」
「うん?」
「きゅうけいさんは、古竜のドラゴンブレスみたいなことできないんですか?」
「できないよ!?」
と、突然何を振るのかなエッダちゃんは! 私があんなドラグルムの魔法で火炎攻撃しか吐けなくなる大変身魔法とか持ってると思ってるのかな!
「いえ、竜に変身じゃないですよ!?」
「え?」
「ベルフェゴールだけの特殊能力ですよ」
……そう言われてみれば……。
ベルゼブブは、なんといっても暴食のあのすんごい呪いよね。最大HP減少攻撃って、いやらしすぎる。しかも道具に込めて、範囲魔法のように使えるなんて……。
他の大罪も使えるわよねそういえば。操作が急に怪しくなるサタンの怒り付与とか、真綿で絞めるように殺すレヴィアタンの猛毒付与とか。
確かに……普通に考えると、ベルフェゴールにもなにかあるはずだ。
「エッダちゃんは、そういうものってあるの?」
「私は特にはないですね……ダークエルフとして気配が消せるぐらいでしょうか」
「気配が消せる? 具体的にはどうやって?」
「森の中でやらないと意味ないですよぉ」
そっか……そういえばそういう種族だったもんね、エッダちゃん。
ダークエルフのエッダちゃんは、見た目は褐色で長い耳、銀の髪が綺麗な美少女だ。ちっちゃくって幼くって、ゲームのダークエルフのことを忘れてしまいそうになるほどのかわいい見た目。
……唯一同じ部分を挙げるとすれば、そのぷるんぷるんしてるものがゲーム中のお姉様ダークエルフと同じサイズな所ぐらいですかね!
ちなみにその2つで1セットのソレは、ぎゅっとしがみつかれて私の左腰を挟んでおります! ここが天国か……高い空の上だしマジで天国近そう。
「うーん、特別なスキルか。ちょっと今度調べてみようかな」
「きっとすごいものがありますよ!」
「あんまり怖いものは使いたくないから、なるべく使わないような生活が送りたいなー」
それは本音だった。他の大罪の能力を見る限り、どう考えても碌な能力じゃない。
「私の今の能力だけで十分だからね。でも、うん。言ってくれてありがとう。知らないより知ってる方が絶対にいい。だから調べてみるよ」
「はいっ!」
エッダちゃんの笑顔を見てこちらも自然と顔がほころぶ。
……っとと、シルヴィアちゃんの高度が下がった。雲の下側に見えるその場所は、険しい山脈が広がるのみ……。
……どうしてこんな不毛の地……。…………っ!? あ、ある! 山と山の間に、広い平地がある……!
その場所は、紛う事なき村そのもの!
「エッダちゃん、もしかしてここが……!」
「はい……! きゅうけいさん、間違いありません!」
竜族の村だ!
-
シルヴィアちゃんが降り立ったとき、近くに人が沢山集まってきているのが見えた。レーダーも使っているけど、かなり広範囲で人がやってきている。いや、人じゃない……これ全部、竜だ。シルヴィアちゃん族だ……すごい……。
もしかして歓迎かな? そういえば、シルヴィアちゃんってどれぐらいの頻度で帰ってるんだろう。
シルヴィアちゃん、その街の中でも中心の、大きな建物の中心の広場に降り立つ。
「きゅうけいさぁん……は、はなれないでくださいぃ〜……」
「う、うん。私もちょっぴり緊張しちゃってるよ……」
シルヴィアちゃんの爪が地面に触れ、私とエッダちゃんが地面に降りる。にわかにざわつく周りの面々。……ていうか、武器持ってる! すっごいこっちに向かって構えてる!
って、当たり前ですよね! 私全身青いですもんね!
私ベルフェゴールの火神球恵は、全身真っ青の、エグイ角つきで白目部分は黒いという、見る人が見たら真っ先に「怖っ!?」と叫んでしまうような見た目の魔族なのだ。
っていうか私、湖に映る自分の見た目見て「怖っ!」って叫んだからね! この見た目で今後どうしよう!? って。あっでも腰の細さは満足度最高です!
とかなんとか思っていたら、目の前のシルヴィアちゃんが【ドラゴンフォーム】の魔法を解いた。これで姿が人間の美少女に戻る。
ほらほら、金髪美少女。ツンツンした目もとがかーわい
「———無礼者がああぁァッ!! 今すぐその武器を降ろせェッ!!」
いひゅあああああすんませんでしたあああ!
って、え?
シルヴィアちゃんの勇ましい叫びに、顔面蒼白になって武器を下ろし膝を突く面々。いや、膝を突くというよりこれは、敬礼……!
「薄情ね、もうシルヴィア・ドラゴネッティなんて名前、みんな忘れてしまったのかしら。悲しいわ」
その声に、一番前の人が跳ね上がるように反応した。
「めめめっそうもございませんッ! シルヴィア様のお帰りを、村の皆はずっと心待ちにしておりました! 村を出て行って早2年、一体いつお戻りになるのかとトゥーリア様は毎日のようにこぼしてらっしゃいまして……」
「うっ……! そ、それは悪かったわよ……。ちょっと長い間、帰らなさすぎたわね……アウグストさんにも苦労を掛けたみたい」
「いえいえ、こうやって戻ってきていただいて、我々一同———」
と、声を交わしていると……そのアウグストさんの後ろのドアから、金色の光が急速に飛んできた!
「———シルヴィア〜〜〜〜っ!」
ぼふ。という音が鳴りそうな勢いで……シルヴィアちゃんの顔が隠れた。よく見ると……そこには走ってきた金髪美人さんのすんごいサイズの胸に、頭を完全に埋めてしまったシルヴィアちゃんがいた。
す……すごい……なんという規格外……!
シルヴィアちゃん、かなり苦しいのかバッシバッシ腕を叩く。
「あ痛っ! あっ、ご、ごめんなシルヴィア!」
「ああもう! しばらくぶりなのは分かるけど再会して早々に巨乳に埋まって死ぬとかしゃれにならないわよお姉様!」
———お姉様!
私とエッダちゃんは一瞬目を合わせて、そしてその金髪美人さんを見た。
顔はそれはもう、切れ長の美しい目で、この人物は産まれながらにしてもう違うものだと思わせるほどの絶対的な造形美。
そしてシルヴィアちゃんの顔の辺りに胸が来る高身長、そんなシルヴィアちゃんの顔が思いっきり埋まるほどの大変なサイズの胸。
規格外って、決められた規格サイズから外れてるって意味なんだって分かる。このサイズはダークエルフの集落でも見なかった、まさに規格外で店頭から弾かれたメロンの如し。
間違いない……シルヴィアちゃんのお姉様!
確かにこれは美人だ……! シルヴィアちゃんの謙遜でも何でもなく、こんな美人がいたら自分が一番とか絶対思わないってレベルの超絶美人さんっ!
……の顔が。
私の方を向いて目が合って———
———次の瞬間私の右手は剣を握っていて、シルヴィアお姉様の剣を受け止めていた。
「魔族、魔族!? どうしてこんなところに! これ、色、青、嫉妬の一族? いや、髪……別の一族か? しかし不意打ち、完全に狙ったのに受けられた……!」
「え、あの」
「ハッ!」
剣が引かれると同時に、右の腰を狙ってくる。め、めちゃくちゃ速い! 私のレベルじゃないと、これ9999程度では油断してると一撃で真っ二つなんじゃない!?
その攻撃を再び剣で受けると、そこを支えにするようにお姉様のハイキックが飛んでくる! う、打ち合うと折ってしまう!
私は自分の顔を狙ってくる足を潰さないよう、足首を握る!
「……っ!? は、離しなさいッ!」
「いやいや落ち着きましょう!? あの、私は———」
「———なにやってんのよおおお!?」
最後の叫び声は、シルヴィアちゃんだった。
叫びながら、シルヴィアちゃんは見事にドロップキックをキメていた……お姉様のガラ空きの腰に。
「グフゥッ!?」
お姉様、錐揉み回転しながら吹っ飛ぶ。油断していた無防備なところだったのか、かなりの勢いで壁に頭からぶつかった。
持っていた剣が吹き飛び、地面にカランカランと乾いた音を立てる。
……一同、唖然。
「……いやいやシルヴィアちゃんやりすぎじゃない!?」
「こんな失礼千万なお姉様、これぐらいして当然です!」
「え、ええー……?」
特に悪びれもなく、腕を組んでふんぞり返るシルヴィアちゃん。そんなやり取りをしている間にも……お姉様、横になってなかなか起き上がらない。
……え? 大丈夫なの、アレ。
あっ……もしかして……
「……あのさ」
「うん」
「今の全力?」
「うん」
「自分のレベル、かなり上がったのは分かっててやった?」
「———あああっ!? お、お姉様ーっ!?」
さっきまでのキリっとした怒り顔は一転、お姉ちゃん心配な妹って感じで慌てて走っていった。
……シルヴィアちゃん、頭のいいカッコイイ系かと思ったら、お姉様の前ではおてんば妹なのかな?
-
それから、シルヴィアちゃんの先導でお姉様を広い屋敷の部屋まで連れていき、ベッドに横になった昏睡状態のお姉様の口元に、私はエリクサーを流し込んだ。
「ん……うん……?」
「あ、気がつきましたか?」
「……あ、魔族……!」
「はい、魔族です」
素直に応える魔族です。
無害だよー。
「お姉様!」
「ッ! シルヴィア!?」
「お礼!」
「……え?」
「今飲んだのは、きゅうけいさんのエリクサーです!」
「……きゅうけいさん?」
「あっ」
自己紹介する前に、きゅうけいさんって紹介されちゃった。
どーもどーも、きゅうけいさんです。
「す、すみませんきゅうけいさん……」
「うーん、まあいいよ。っていうかステータスもきゅうけい表記の方が楽だったかもなんて思ってるよ」
「もう、相も変わらず怠惰すぎですよぉ」
「そんなつもりなかったんだけど、なんだかこの姿になってから性格が種族に引っ張られてる気がする……いや、もともとこんなだったかも……」
私とシルヴィアちゃんの会話を聞いていて、お姉様が声を上げた。
「え、エリクサー……ですか?」
「うん、シルヴィアちゃんの蹴りがおっそろしくイイ角度で入ってやばかったので、回復のためにエリクサーを飲ませました」
いやー、あれはすごかったね。白いマットのアマゾンに本日竜巻吹き荒れ、トーク不能の姉上に正義のキックをぶちかませだったね。今度は国民的アニメ、エンドラマスクのモデルとなる覆面レスラーでシルヴィアちゃん地上波プロレスデビュー。でもそうなると一発目はドロップキックよりローリングソバットの方を希望します。
って妄想してる間に、お姉様が目を泳がせていた。
「あ、あの……ありがとうございました……まさかエリクサーを使っていただけるなんて思わず」
「いえいえ、ご無事で何よりですー」
……あ、ひょっとしてエリクサーが作れるってこと知らないかな? 言わないでおいた方が話うまく進むかな?
価格知らないけど、やっぱり貴重品っぽいし。
「とりあえずええっと、私は魔族ですけど人間の味方というか、ちょっと変わり者みたいだってシルヴィアちゃんに教えてもらいました」
「……確かに、変わった方のようですね……」
「えっとえっと、お姉様さん」
「トゥーリアです。トゥーリア・ドラゴネッティ」
やった! お名前ゲットできました!
「トゥーリアさん!」
「はい」
「トゥーリアさんトゥーリアさん!」
「えっと、はい?」
「私もお姉様って呼んでいいでしょうかっ!?」
「———ええっ!? いや、あのさすがにそれは……」
「すみません調子乗りました」
なんだか名前を知って呼べたテンションではしゃいでしまった。反省反省、ベルちゃん反省。あ、ベルフェゴールだからベルちゃんってあだ名も良かったな。きゅうけいさんより自然な感じする。
でも……絶対被りそうなので却下!
あ、トゥーリアさんおいてけぼりくらった顔してたほんっとマジすみません。
「ほんとに変わった方ね……? ……ところで、あなたの名は?」
「っとそうでしたっ! 私は球恵・火神と言います!」
「たまえ……かがみ……? ……種族……ステータスを見せてもらっても?」
うっ! ど、どうしよう!
「お姉様」
「ん? どうしたのシルヴィア」
「そういう時は、自分から見せるものよ」
「……本当に、この魔族の方を信用しているんだなー……。仕方ない、そういうことなら見せましょう。……見られて不利になるようなら私の鍛え方が足らないだけ。それに何より、敵ではないようですからね。【ステータス】」
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TULLIA DRAGONETTI
Ancient Dragon
LV:7650
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……分かってはいました、はい。
そりゃね。シルヴィアちゃんのお姉様だものね。
でもね。あのね。あのね? つっよッ!? いやいや、もう9999見えてるじゃないですかこれ! ていうか、あの憤怒の筆頭眷属のユニコーンより強くないですかお姉様!?
「はわ、はわわわぁ……」
ほら! エッダちゃんがもうガチビビリしちゃってる!
「あら、そういえばあなたは……」
「はっ、はい! シルヴィアさんとは良くしていただいています、ダークエルフのエッダ・モンティです!」
「家の名持ちね。わかりました、元々我々とは友好な一族ですし。……妹の友達になってくれてありがとな」
「はっ、はい! どういたしましてぇっ」
よかった、エッダちゃんはクリアだ。
「……さて、私は見せたのだから、あなたも」
「そうでした。……あの」
「何? もしや今更……」
「いえいえやります! ただ……見せても、敵ではないというのは念には念を入れて確認したいなと」
「わかりました、いいでしょう」
「では……(【ハイドレベル:9999】……エッダちゃんもいるし隠しておこう)……【ステータス】!」
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TAMAE KAGAMI
Belphegor
LV:9999
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その画面を見て、やっぱりトゥーリアさんも凍りついた。
「……ベルフェゴール。これ……」
「ほ、ほんものです……」
「……【スペルブレイク】!」
ッ!? い、今の魔法はっ!?
強化解除の魔法をこのタイミングで……何かすごく重要な魔法をされたというのは分かるけど、一体……?
そして画面を見ると……。
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TAMAE KAGAMI
Belphegor
LV:90Quad
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も、戻っているーっ!?
「……隠して、いたな」
「す、すみません……説明がめんどくさくて他意はないんです……」
お、怒ってらっしゃるっ!? あわわ、これは全面的に嘘ついてた私が悪い。
「このレベルについて教えてもらえますか?」
「……五桁以上の表示です……それ以上はあまりつっこまないでいただけると……」
「そう、ですか……わかりました」
よかった、追及されなかった……。
エッダちゃんが気になって見たけど、どうやらあまり驚いてないようだった。っていうかリリースしたことあったんだった、そりゃ驚かないか。
「しかし……ベルフェゴールというのは、嘘ではないんですね」
「ええ……その、私は突然ベルフェゴールになったんです」
「突然、なった?」
ここも、ぼかしながらも正直に言おう。
「面倒なことが嫌いだったり、すぐに眠っちゃったり、いつも休憩時間を求めてふらふらしてて……一応働いたりもするんですよ? でもそんな私が、その……ある日見たら、自分がベルフェゴールだとステータスに書かれていて」
トゥーリアさんも、ぽかん、という妹と同じ顔をしていた。
「私、こうなる前からあだ名が「きゅうけいさん」って言うんですよ。友人みんな、私のことをきゅうけいさんって。誰が言い出したかというのもなく、自然とみんなが呼ぶようになっちゃって、すっかりそれが定着してしまいまして……」
うう……自分で言ってて、ほんっとーに私ダメ人間だなあって思う……どうやったら自然にきゅうけいさんになっちゃうのって。本名が珠恵じゃなくて球恵だったせいだ。わたしはわるくないぞー!
あ、トゥーリアさん、「だからさっき、きゅうけいさんって呼ばれてたのね」と呟いて、私の目を見てくすっと笑った!
……まって待って控えめに言って女神の顕現! 美人すぎてやばい!
あなたたち姉妹はなんというか、こう、ずるいッ!
「……なるほど、確かにシルヴィアが懐くのもわかりますね、これは随分と変わった大罪だ」
「で、でしょ! お姉様! だからきゅうけいさんは安心なんですよっ!」
「———ただしッ!」
急に叫び声を上げて、びくっとする。シルヴィアちゃんも、言ってる言葉を途中で切り上げた。
「実際に中身が怠惰の大罪だった場合のことも考えている」
「そ、そんな、お姉様……」
「その影響力は、じわじわと周りの気力を奪って、勤勉なる者を絶滅させるともいわれている。私はそれを危惧している」
う……そ、そんなことは、ないとおもうんだけどなあ……?
いや、元の魔族の性格上その能力を自然に使うのかもしれない。だとすると確かに、危惧する気持ちも分かる。
「……しかし、理由なく追い出すということはとてもシルヴィアの様子を見る限りできない。そこで、だ」
トゥーリアさんは、座り直して私の目を見た。そして彼女は、なるほど怠惰の大罪には厳しい、信頼を勝ち取るための「お願い事」をしたのだ。
「私はあなたが、中身が怠惰の大罪本来のものではないという確証が欲しいです。そこでなのですが……しばらくの間、怠惰の大罪が絶対にやらないこと……」
「この村で、働いてみせてくれませんか?」






