きゅうけいさんは料理を振る舞う
は、はたらく!?
どうやら私が怠惰のパッシブスキルっぽいヤツで周りを自動的に怠惰モードにしちゃうんじゃないかという疑惑を解消するために、中身はそんなに怠惰じゃないってところを見せる必要があるみたい。
ってなわけで、私ベルフェゴールのきゅうけいさん、はたらく大罪さま! という新番組スタートを目指して頑張ることになりました。
「しかし働くといっても、何をすればいいですかね……」
当然悩む。だってそれは竜族の村の中でやる必要があるってことでしょ? 供給するなら需要が必要だ。私は何をすればいいのかな?
そう思っていると、横からシルヴィアちゃんが顔を出した。
「きゅうけいさんには、できることがあるじゃないですか!」
「といっても何をするの? できることといえばクリエイトだけど、エリクサーとか量産しちゃう? ポーション制作者大丈夫?」
「ポーション錬金術師が絶滅すると思います」
ですよねー。
「うーん、じゃあシルヴィアちゃんは私に何が出来ると思うの」
「できるって、やってくれたじゃないですか!」
「……? 何かしたっけ……?」
「ああもぉ〜っ! きゅうけいさんはほんとにベルフェゴールじゃないですよね、怠惰とは似つかわしくない勤勉な態度で、あれだけ練習するんだって私に言っておいて、もう忘れちゃったんですか!?」
あ。
「料理!」
「それです!」
私とシルヴィアちゃんのやりとりを聞いていて、トゥーリアさんが横から口を挟んだ。
「待って、ねえ待って。……ベルフェゴールが、勤勉?」
「そうよお姉様。まあ私も最初に聞いたとき驚きすぎて顎が外れそうになっちゃったけどね、きゅうけいさんは料理の練習がしたいという理由で私を街に買い物に行かせたりするぐらいには勤勉よ」
トゥーリアさん、なんだか悩ましそうに頭を押さえている。
「えっと、きゅうけい、さん?」
「はい! きゅうけいさんでっす!」
お姉様からもきゅうけいさん呼びされちゃった! これ本格的にきゅうけいさんで私の名前が固まっちゃいましたね!
「怠惰の対義語が何か知ってますか?」
「え? 勤勉でしょうか」
「そうですよ! なんであなたが勤勉なんですか!?」
理不尽な怒られ方だよ! 気持ちはすっごくわかるけど!
シルヴィアちゃんもエッダちゃんも神妙な面持ちで頷いてる!
「だだだって、私って種族がベルフェゴールなだけの普通の、えーっと普通の普通の魔族ですし?」
「あなたが普通なら、地上に存在する魔族はあなた以外異常個体ですっ!」
「そうです! 私以外が異常個体なんですっ!」
なんとも意味のないやりとり! だけど私とトゥーリアさん、これだけ言い合って距離感縮まった感じがして、まあこれはこれで収穫にしとこう。
二人でそんなやりとりをしていたら、横からシルヴィアちゃんが顔を出した。
「ってわけで、きゅうけいさんの料理を振る舞うのです! そうすればお姉様も認めてくれます!」
「うっ……シルヴィア、確かに言ったけど……」
「お姉様……まさか、この期に及んでまだ難色を示すの? 自分で言い出したことを自分で反故にするようなお姉様なんて———」
「———キライッ!」
Oh...
シルヴィアちゃんの、超必殺技が決まった。
「え……? あ、あたしの聞き間違いだよな? な、な、嘘だよな? あのいつも後ろについてきてくれたかわいいシルヴィアが……」
「フンッ! きゅうけいさんを受け入れてくれないようなお姉様なんて、あたしのお姉様じゃないもん!」
「そ、そんなあぁ! あああシルヴィアがああぁ! あたしのかわいいシルヴィアがぐれたああうわあぁんやだああぁ!」
お姉様、完全崩壊。
タイムアタックはシルヴィア必殺技、トゥーリア特効でダメージ100倍、一撃フィニッシュでタイマーストップ。
タイムは0:00:10.73。小時間のご視聴、ありがとうございました。
「……もぉっ、そんなに泣くことないじゃない」
「ううぅ〜だってぇ〜シルヴィアがぁ……」
「ちゃんときゅうけいさんを認めてくれたら、あたしもこんなに言わないよ。だってきゅうけいさんはあたしが認めたのよ。それを否定するなんて……あたしの眼を否定されてるみたいで悲しいのよ」
……ああ、そっか。
シルヴィアちゃんが私を信頼してくれたって事は、私自身の評価がシルヴィアちゃんの『見る目』に大きな影響を与えるんだ。
それだけ、シルヴィアちゃん自身が私を認めてくれたことに重きを置いてくれている。それって……嬉しいな。
「いいよ、シルヴィアちゃん」
「え?」
「トゥーリアさんのこと、嫌わないであげて。ちゃんと認めてもらえるように、そしてシルヴィアちゃんは慧眼ですごいんだって分かってもらえるように……私、たくさん料理作るからね?」
私はそう言ってシルヴィアちゃんの髪を撫でた。くすぐったそうにしていたけど、嬉しそうに眼を細めてくれて………………それを見ていたお姉様のすっっごい恨めしそうな視線を浴びた。
「ううぅ……」
「あの、トゥーリアさんの気持ちも分かりますから……私、こんなに思いっきり魔族ですし、むしろ二人とも無警戒だったから忘れていただけで」
「……わかってますよ……でも、約束は約束ですからね」
「はい、もちろんです!」
ってなわけで、私は料理を作ることに決まった。
しかし料理を作るとは聞いたけど、一体どうすればいいんだろう。
「あの、一応生活魔法があるとはいえ、どこで誰に料理を提供しようかなってのはあると思うのですけど……」
「そうですね、でしたら……いきなり村の皆に姿を見せるのも難しいと思うので、うちで作っていただけますか?」
「え? でもほら、こういう屋敷なら料理番とかいるんじゃないかなって」
「いえ、広い屋敷ですけどメイドみたいな人はいないですよ。普段はお母様が作っているのですが、今は長のお父様と出ていますから」
話を聞くと、どうやら屋敷には住居部分と道場部分があり、沢山の竜族が戦闘訓練という道場としてこの屋敷を使っているようだった。
食事は料理番がいるわけではなく、基本的には外食か、パンみたいなものを買ってきて食べるようなものらしい。
そしてドラゴネッティ家は母が料理、もしくは最近はトゥーリアさん一人で外食だったとか。
「じゃあ、今晩この屋敷の、えーっとトゥーリアさんやシルヴィアちゃんの分の料理を作ればいいんですよね」
「そうですね、お願いできますか?」
「もっちろんです!」
それで認めてもらえるというのなら安いものだ。難点を挙げるとすれば……ほっとんど練習らしい練習をしたことがないことぐらいですかね!
そのことを思い出して私がうんうん唸っていると、シルヴィアちゃんが肩に優しく手を乗せた。
「大丈夫ですよ。きゅうけいさんなら間違いなくいいものを作ってくれると信じていますから」
そんな期待の籠もった目で言われると……。
……頑張るしかないよね!
「当面は、この屋敷を寝泊まりに使ってください」
「いいんですか?」
「ちょうど余った部屋がありますから。それに……」
トゥーリアさんは、言いづらそうに言葉を濁した。
「……な、何でしょうかぁ……」
「私が許可を出すまで、あなたの存在をあまり他に知られたくないなと思ったんですが……。……思いっきりあなたの姿を見られたのと、あなたに私が押し負けていたのを、この屋敷に住んでいない者に見られたなーと……」
……そ、そういえばそうだった……。
じゃあ今、外は……。
「きゅうけいさんの話題で持ちきりでしょうね……村で一番強い竜族より強い魔族が現れたって話で……」
……ああ……やっちゃったあ……。
-
昼過ぎに到着して夕食まではもう少し時間があったので、シルヴィアちゃんのお部屋にお邪魔することとなった。
シルヴィアちゃんの! お部屋! ちょー楽しみ!
「そんなに面白いものはないですよ?」
「でも、他の子の部屋とかすっごく興味ない?」
「そういえばエッダの部屋を覗き損ねたわ!」
「ふえぇっ!?」
そうだったっ! エッダちゃんのお部屋はきっと、女の子女の子していたに違いないっ!
「お、惜しいことをしたぁ〜っ……! エッダちゃんのお部屋の匂いを嗅いで、ベッドの中に頭から潜り込んでくんかくんかしながら眠りたかった……」
「きゅうけいさん変態すぎますドン引き」
「ヴッグゥーッ!?」
シルヴィア必殺技、火神球恵にも100倍特効、一撃キルでタイムアタック終了です。ご視聴ありがとうございました。
「まあそれは冗談として」
冗談で殺されかねない。シルヴィアちゃん……恐ろしい子!
「あたし自身久々に帰るので、正直部屋ってどうなっていたか記憶にないんです」
「あっ、それもそっか」
なんといっても2年ぶり。
それは高校や大学で下宿をして、2年実家に帰っていないというレベルだ。お部屋がどうなっているかなんて分かるわけないし、自分の部屋がどういうものだったか忘れていても不思議ではない。
「着いた。じゃ、開けますね」
「ゴクリ……」
「べつに緊張するほどのものじゃないですよ」
そして、その扉が開かれたのだ……!
……中は、本棚に難しそうな本。ベッドと机と椅子。
そしてペン立てとインクと紙がある。
女の子の部屋というより、お父さんの書斎だった。
「シルヴィアちゃん、これ間違ってない?」
「いえ、私の部屋ですよ。これで全部です。昔から勉学が好きだったので、戦う訓練の時以外は、部屋ではずっといろんな文献を漁るのが楽しみでした。懐かしいなあ……私が出て行ったときのままだ」
わ、わああー……シルヴィアちゃん予想以上に才女。
お嬢様で末っ子で才女なんて、シルヴィアちゃんって素敵すぎ!
そりゃトゥーリアさんもシルヴィアちゃん大好きお姉ちゃんになっちゃうの無理ないね!
……ていうか、私が最初にこの冷静で知的な美少女にアイアンクローかまして涙と鼻水でズルズルにしていたと知られたら、今度こそお姉様に寝首かかれますねコレ……。
「ふえぇ……」
「……エッダちゃん?」
「私の、ぬいぐるみを置いたピンクの部屋を見られなくてよかったです……こんなの見せられたら同じ女として惨めすぎて絶対に見せたくなくなります……」
その気持ちはわかるよ……わかるけど……
……そのエッダちゃんに抱きしめられるピンクのぬいぐるみの部屋と聞くだけで、興味レベルが九京まで上昇だよ。
シルヴィアちゃんも今絶対同じぐらい興味津々って顔してるもん。
「勝ちとか負けとかじゃないよエッダ、っていうか女の子らしさという面では間違いなくあたしの方が負けてるというか、自分で言うのも何だけど地味な部屋だなって思うし」
「……うう、じゃあそういうことにしておきます……」
「友達なら、そのうち見せてね」
「……! ぜ、善処、します……!」
シルヴィアちゃん殺し文句、『友達なら』発動しました。エッダちゃんにも特効倍率が乗って一撃ノックアウト。
改めて思うけど、的確に相手の弱点突いてくる一言発するの、シルヴィアちゃん強すぎる……。
「ってわけで、しばらくどうする?」
「どう……って?」
「ここに来た目的がきゅうけいさんが住むこと、そしてその手段が料理である以上、今この場でやることって何もないわよ」
「……じゃあ」
私は、考えて考えて……そして結論を出した。
「寝よう」
「……は?」
シルヴィアちゃんの、素の切り返しを戴きました! やったね!
そして私はロッキングチェアを部屋に三つ出す。
再び主張!
「寝よう!」
「……はは……なるほど、きゅうけいさんらしいや……」
納得いった様子のシルヴィアちゃん。
「緊張して疲れていましたし、私も寝たいです!」
エッダちゃんも賛同してくれた!
というわけで、今日は私がクラシックな見た目のやつに座ります。
シルヴィアちゃんにはソファータイプを、エッダちゃんには籐家具を勧める。果たしてどんな反応かな?
「……あ、ラタンってつるつるなんですね……」
「そうだよ! それでいて結構しっかりしているから背中を任せられるよ!」
「分かりました。それじゃあお言葉に甘えて……」
エッダちゃんが、籐ロッキングチェアに深く腰掛ける。
「……ああ……もっとギシギシしているのかと思ったら……下手な木のものよりもしっかりした作りですね……真っ当に気持ちいいです」
「そうよねエッダ。これってよくある民芸品とかの類と思ったら、かなり機能を追求した優しい弾力のある椅子の完成系なのよ。王国内の制作者じゃあ、この優しさは難しい感触よね」
「わかります、完成度高いですね……優しいって分かります……。私、自然に囲まれて過ごしてきたから……これ、好きだなあ……」
……エッダちゃんが、籐の椅子を気に入ってくれた。
いざその一言を聞くと、自分が好きなものを好きと言ってもらえるのがこんなに嬉しいとは思わなかった。
そして何といっても、シルヴィアちゃんのベタ褒め具合がすごい。そこまで籐家具を評価してくれるなんて……。
……いい、友達だなあ、本当に……。
シルヴィアちゃんが、次いでソファータイプに座る。座ったと同時に、ずぶずぶと座面にシルヴィアちゃんが沈んでいく。
シルヴィアちゃんの口元が、にまーっと自然に笑った。
「……あ、やばいこれ……」
「ふふ、それ気持ちいいでしょ」
「……即効で落ちますねこれ……ああもう立ち上がりたくない……」
私はその姿に満足すると、自分もロッキングチェアに座った。
……そうそう、最初に座ったのがちょうどこんな感触だったね……。
ゆらり……ゆらり……
「三人一緒に竜族の村で」
ゆらり……ゆらり……
「きゅうけい……」
…………
ゆさり。
「……」
ゆさゆさゆさ。
「……ん……?」
何か、揺れている。
座ってるのがそうだった。睡眠用タイプのロッキングチェア、本当に気持ちいいなー。
ゆさゆさゆさぐらぐらぐらぐら!
いやこれ揺らされてる! ああもう椅子から落ち…………る…………
……目を開けると、部屋は橙色。
視線の先には夕日を浴びて光り輝く髪。
組まれた腕と、その腕に乗っかるでかいもの。
そして。
ものすっごいジト目。
「……あ、お、おはようございますトゥーリアさん……」
「はぁ〜っ……優雅なものですね〜……折角、怠惰の大罪が怠惰ではないと挽回チャンスを与えたというのに、まさかよりにもよって昼間っから三人揃ってロッキングチェアを持ち込んで寝ているとは……」
「す、すすすみません今すぐ夕食の調理に向かわせていただきますッ!」
「……もう時間ないですよ」
「すぐにできますから!」
私は大慌てで起き上がってキッチンに向かった———
「———キッチン、どのへんでしょうか……」
「ああ、そうですね。では一緒に参りましょう」
ダッシュで向かう勢いをしぼませて、私はすごすごとトゥーリアさんと一緒にキッチンに向かった……。
さて、まずは無難なものを作ろう。
「トゥーリアさんって、苦手なものとかはあります?」
「人間が食べるものなら何でも大丈夫です。虫とかはダメですね」
「そ、そりゃもちろん私もダメですよ! 辛いものとかも大丈夫です?」
「辛いものは好きですよ」
良かった。それならばやっぱりアレしかない。
まずはシルヴィアちゃんからもらっておいた食材オープン。
パスタを4人分用意して……。
「えっと、きゅうけいさん」
「……はい?」
私はにんにくを生活魔法で切りながら、トゥーリアさんの質問に答える。……あ、芽をとっておこう。
「こういった質問は、二人がいないうちに聞きたいのですが……」
「……」
「どうしてあなたは、ここの村に来たんですか?」
どうして、どうしてかあ……。唐辛子は輪っかが綺麗だけど、入れすぎないように注意しよう。
「そもそも私、山賊から人間の女の子を助けたんですけど」
「……殺したのですか?」
「いえ、腕を折って街に送って、更正してもらおうかなと」
あ、トゥーリアさんおめめまんまるになった。
「……え、ええっと、それで、村に来た目的ですね。元々その山賊のアジトの跡……山の中の洞穴を利用して寝泊まりしていて」
「……」
「先日見たら、火をおこした跡があったので、他の人間に見つかったんだろうなあと」
「……ふむ……」
にんにくとオリーブオイルを、銅鍋の中に投入して生活魔法でざーっと揚げる。ガーリックフライのパックが欲しい。あのスライスされたフライドガーリックをもしゃもしゃ食べるのが好きだった。
「ということは、きゅうけいさんは人間を避けているんですね」
「仲良くしたいんですけど、やっぱり私ってこんな見た目じゃないですか。助けた女の子も最初は怖がってしまって……」
「……最初はってことは、会話できたんですね」
「はい。……ミーナちゃん、弟想いでかわいくて優しい子だったなあ……」
私がミーナちゃんとの思い出に浸っていると、彩り赤唐辛子が黒くなりかけて危ない危ない。
それじゃあ麺を茹で始めよう。
「ふむ、分かりました。その経緯で、住む場所がないからとシルヴィアに頼んで竜族の村に来たのですね」
「そういうことです」
「……一つ、いいですか?」
「はい?」
「あなたは自分の能力、どれぐらい把握していますか?」
それは、ちょうどエッダちゃんに言われたことだった。
後で調べると言っておいて全く後で調べる気がない。これあれですね、悪い傾向ですね。講座とかブックマークして一つも実践しないのと似たパターンですね。
自慢じゃないけどブックマークした講座を試した確率、1%切ります。怠惰の大罪ここにあり。ほんとに自慢にならないねコレ!?
「すみません、あまり知らないんです……」
「そうでしょうね。七つの大罪とはすなわち誘惑みたいなものなのです」
誘惑?
「つまり、油断しているとその七つの大罪の要素に、自動的に人間は落ちていく……蟻地獄のような破滅の欲望なのです」
「ああ……わかります。自制したくても出来ないんですよね」
「はい。そして七つの大罪にはその大罪に対応した呪いがあるはずなんです」
……大罪のこと、どこまで知っているんだろう。
「トゥーリアさんって、どれぐらい詳しいんですか? なんだか七つの大罪のことを直接見たかのように詳しいと言いますか」
「直接見てはいないのですが、大罪の話は勇者がサタンに挑んで負けた時に聞きました」
勇者がサタンに……って、ええっ!?
「勇者がサタンに挑んで負けた!?」
「はい。といってもかなり昔の話です。当時の私や父より強い人間の勇者がいたのですが、サタンに挑んで返り討ちに遭ったのです。そのパーティが一人帰ってきました」
「なんと……」
「その人は、「冷静さを失って、敵対対象のことを考えると冷静な判断力が奪われる」「あれは『憤怒の呪い』だ」と言っていました」
……完全に、大罪の呪いだ。暴食の吐息の話と非常に近い。
「な、なるほど。ありがとうございます」
「だからあなたも、そういう人類を滅ぼせるレベルの能力があるだろうと思って私は気をつけているのです。本当はシルヴィアが信じているあなたを疑いたくはないのですが」
「貴重な情報をありがとうございます。村を守るためには仕方ないですね」
私はスパゲッティをほぐしながら、トゥーリアさんの目を見た。
「トゥーリアさんは正しいですよ、たとえシルヴィアちゃんが間違ってると言っても、シルヴィアちゃんを守るためなら私はシルヴィアちゃんよりトゥーリアさんの言い分を信じようと思いますってうおわ!」
かっこよくキリっとキメたつもりが手元が沸騰させすぎて吹きこぼれた! パスタのゆで汁をちゃんと切らなくちゃ! なんだかこのまま煮込んだ気もするけど、あまりゆるくならずに仕上げたいので切っていく方向で!
二つの作業を同時にとか、やっぱり私には無理でした!
「……」
あ、ああ視線が突き刺さる! でもごめんなさいそろそろ終わるので許してちょんまげ! ちょんまげってわかりませんよね!
「あのトゥーリアさんっ」
「え、あっ、はい」
「そろそろ出来上がるので、二人を起こしてもらえると!」
「も、もうですか!? わかりました!」
トゥーリアさん、大慌てで部屋の扉を開ける。
……よし、残りはオリーブオイルをぶっかけて麵を取り分けて、塩を入れて混ぜて、たぶんこんなもんでしょ! 完成!
「きゅうけいさん、おはようございます。すっかり寝ちゃいましたね」
「ラタンすてきでしたぁ……。……あっ! えっあのこれ、もしかして」
エッダちゃんは、そういえば私の料理初めてだったね。
「ペペロンチーノですか! わーっ本当に人間の料理ですね」
「……本当に人間の料理?」
「———ああ〜っ!?」
エッダちゃん、口を押さえて目を見開いて、シルヴィアちゃんの方を向く。シルヴィアちゃん、額を片手で押さえて目を閉じる。
「もしかして、二人で内緒話をしていたときのこと?」
「……う、はい……すみません……」
「ううん、いいよいいよ。それぐらいじゃ怒らないし聞かないよー」
「あ、ありがとうございますぅ……!」
「ふふ、きゅうけいさんはやっぱり優しいですね。普通何を喋ったか聞きたがるものですよ?」
「二人の仲が良ければ私は何だっていいからね! 友達だもん、気にしないよ!」
お皿を机に並べながら、私も椅子に座る。……トゥーリアさんが、じーっと見てる……。
「……あ、あの……」
「ああ、いえ、私のことはお気になさらず。……それじゃ、食べましょうか」
「はい! いただきます!」
私はペペロンチーノを食べ始める。うん、無難! 初日と同じ美味しさ! 間違いのない塩とニンニクのお味でした!
「お、おいしいですぅ〜っ!」
きゃーっエッダちゃんの笑顔! かわいい末っ子大天使の笑顔いただきましたっ!
「うへへ喜んでもらえて嬉しいよぉ〜!」
「本当に、味の加減が上手いですね。塩も、にんにくも、過不足というものがない……麵も固くない場合はズルズルに膨らんでしまうこともあるというのに」
「昔、パスタは沢山作ったからね……」
このパスタをふやかして……というかカップ麵を迂闊に放置して、あの2〜3人前になったブツブツに切れるゆるゆるの超薄味パスタを胃袋に入れた経験から、麵がのびることに関してはもはやトラウマレベルの警戒があった。
でもみんな、一度はやるよね?
「……これが、怠惰の大罪の料理……?」
最後にトゥーリアさん、神妙な面持ちで食べている……。
だ、大丈夫だろうか、二人は査定が甘い可能性も高いし、正直自分も料理には甘い方だと思う。創作料理とか作ると絶対甘くなりそう。
ところであの創作料理みたいなので飛び道具みたいな料理ばかり作る人、絶対自己採点めっちゃ甘いよね。私そのレシピよく見てたけれど、既存料理プラスアルファなおいしい創作料理を作る人と、まるで実戦テコンドーとフリスビーを組み合わせた全く新しいという要素にしか特化してない創作料理作る人と真っ二つに分かれてたと思うよ!
私は多分、無意識に後者タイプになるので手を出せない!
っと、今はトゥーリアさんだった。
「……あ、あの、お口に合いませんでしたでしょうか」
「っ!? い、いや! おいしいですよ……」
「あああよかったぁ〜……トゥーリアさんに認めてもらえないと意味ないですからね、そう言っていただけると安心しました」
よかった、すっごくドキドキしまくったけど、どうやら無難料理で第一関門クリアだ!
……これで居眠り分はチャラになったりしますよね? ね?
私がすっかり緩んだ顔で椅子に座り直すと、トゥーリアさんもようやく少し、困ったように笑ってくれた。
……笑顔を見せる度に、ちょっと本気でドキドキしていますけどね私。
シルヴィアちゃんの笑顔で本気で浄化しかけた私が、そのまま理想的な成長を遂げたお姉様トゥーリアさんに弱くないわけないもんね、仕方ないね。
すっかり食べ終わって、みんなで満足笑顔。
あー、パスタって一人で作って食べてるときばかりだったけれど、こうやって食べさせるってのもなんだか楽しいなー。
「明日以降も料理を作るという形でいいんですよね」
「はい、そうです。代わりに寝泊まりは自由としますので、よろしくお願いしますね」
「おまかせくださいませっ!」
ってわけで、ドラゴネッティ家の料理人として働くことになりましたっ!
なんだかエッダちゃんと一緒に、シルヴィアちゃんの家族になっちゃったようで嬉しいね!






