きゅうけいさんは完全に見抜かれた
災害を防いだ。
恐らく、あれ以上の攻撃はない……と思いたい。
後はもう天変地異とか、隕石で氷河期とか、それぐらいの規模でも来ない限り大丈夫。
……ひょっとして隕石も殴り返せるのでは?
改めて、なんていうか『津波を直前に押し返した』というプレイに自分で笑っちゃう。
やろうと思えば何だってできる。
生活魔法みたいな小さな規模から、災害の対策までお任せのきゅうけいさん。
そろそろ休憩を希望します。
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というわけで、休憩に勧誘されました。
——私の大好きな天敵、リリアーナさんに!
「ふふっ、教えてもらったわよ。この半島を全部消し飛ばしちゃうような攻撃も、きゅうけいさん一人で対処しちゃったんだって?」
「……ひゃい」
「あらあら、借りてきた猫みたいになっちゃって可愛いんだから」
借りてきた猫でも、もうちょっと奔放だと思います。
首根っこ掴まれた猫なら、これぐらいになるかも。
えーっとですね。
今ですね。
……リリアーナさんのふとももの上に載ってます。
身長差がありすぎて、高校生が小学生を抱いてるような感じで座ってるの。
ほんとリリアーナさん大きすぎでしょ。色々と……色々と!
「……。……ん〜っ、やっぱり抱き心地いいわぁ。ベルも体から睡魔みたいなもの出してるんだけど、きゅうけいさんもうっすら無意識で出してるのね」
「え? そうなんです?」
「そうよ。といってもきゅうけいさんは『起きてやりたいこと』が沢山あるからそこまでじゃないの」
そうなんだ。私のこと、私以上に知ってるなあ。
さすが初代ベルフェゴールを近くで見続けていた人だ。
……ん? ってことは……。
「ベルさんが体から睡魔を出す理由って……」
「あの魔王、今は基本的に優しいし誰にでも交友持ってるけど……ぶっちゃけパオラの交流よりマモンの交流より『寝たい』の方が強いわよ。ベルは眠ることよりやりたいこと、基本的にないの」
うーん、私二代目ベルフェゴールだけど、さすがに先代の怠惰欲には勝てる気がしないですね……。
世界が滅んでもひとしきり泣いたら、後はまた眠ってそうだ。
「……うん! 堪能した! もういいわよ」
「あ、えっと、離れても?」
「喋りにくいでしょ、背中の私とじゃ。それに……真面目な話も、あるんでしょ」
あ、やっぱりその辺りも分かりますか。
リリアーナさん、元々色欲の魔王アスモデウスという肩書きながらも、すっげえ出来る人。
部下は大切だけど、線引きをして死地に送り出すような人。
正直、私が言ったこととかあつかましいにも程があったなってぐらい。
「何考えてるか分かるけど、何度でも言うわ。……あなたに提案してもらえて、本当に救われたのよ、私は」
正面に座ったところで、リリアーナさんはまっすぐ私を見ながら伝えた。
……ほらね、私の考えてることお見通し。
仲間想いでありながら、超クレバー。どのあたりが色欲なんだろうね。まあ今は人間だけど。
「私がやりたかったことだから。オレスティッラさんも、それにヴァンダさんもダフネさんも。知り合っちゃったんだから、見なかったことにはできないよ」
「ほんと、正義感たっぷり。不思議な魔王さんね」
「よく言われます!」
「私とは反対で、元々人間だものね」
——。
…………。
今、この人は、何と?
「魔王からの人間転生。それを体験したから余計に思うのよね、今の私が人間であると同時に『魔王の経験を持った、感覚の違いに思い悩む人間』であること」
「……思い悩むこと、あるんですか?」
「そりゃもう。人間の食料品なんて、よく分からないし。魔王って味覚はあるけど食べなくても死なないもの。逆に満腹概念もないから、ベルゼブブとか半永久的に食い荒らすけど」
そ……そうか……私は餓死しないのか。
そりゃ人間の到来を待つ魔王が、勇者が来ないからと言う理由で餓死してたらギャグでしかないけど……。
「そういうところを驚いてるのももちろんだけど、他にも理由があるの」
「な、何でしょうか」
「シルヴィアの前に出会っていたのが、ミーナという少女と聞いたわ」
「あっ、うん。ミーナちゃんと仲良くなったんだ」
「その前は?」
その前?
「ミーナちゃんより前は、誰もいないよ」
私の答えに対して、リリアーナさんは腕を組んで頷いた。
「決定。以前聞いたんだけど、シルヴィアが『ポーションの錬金術師の生活を気にしていた』と言っていたのよね」
「あー、よく覚えてますねそんなの」
「そりゃ覚えるわよ。……人間の生活基盤側を考えるなんて、魔王七種誰でもない。増して、エルフでもドラゴンでもない。それを、あなたは誰かに教えられるでもなく感じ取っている」
「……」
「利益でも、売りやすさでもない。人間でも平民ではとても持てないほど、高度な考え方よ。ある程度の教養がなければ、私も最初は分からなかったわ。シルヴィアはすぐに分かったみたい、優秀よねあの子も」
……ああ……そりゃあそうか。
確かに不当廉売の概念って、完全に経済かじってないとなんないもんね。
高い方が儲かるとか、安く売ると払う側が払いやすいとか、それぐらいまで。
ばれたのは、これで二回目。
一回目はもう言うまでもなく弥々華さん周り。あの人らが私のこと分かってないわけないと思う。
鯛めしの作り方を覚えたデーモンとかいないっつーの。
とはいえ、シルヴィアちゃん達も薄々で、ほぼ確信してるとは思う。
しかし、この人には一発でばれちゃったかあ……。
「……ああ、私は誰かに言いふらしたりしないわよ。言いたいのならきゅうけいさんから他の子に伝えること」
「はい。……大丈夫かなあ」
「なんでそーゆーとこだけ臆病なのよ。みんな受け入れてくれるし、今以上に親近感を持ってくれるわ。特別感みたいなのは、なくなる……わけないか。どっちみちあなたのレベルぶっとんでるし、あなたより個性の濃い存在、世界中探してもないわ」
くすくす笑って、たゆんたゆん揺らす。
人間の美女で気楽そうに声をかけてくれる、元魔王さん。
うーん、リリアーナさんほんと話しやすい相談役だ。
いろんな人と出会ったけど、別ベクトルで唯一無二の存在感があるっていうか。
「そして、私はあなたの次聞きたいことも分かる。言いたくないけど、言わなくちゃ離してくれなさそうなことも」
「……」
「残りの魔王のダンジョン、全て行くのね」
私は、頷いた。
もうね、人間の国に対して津波をぶつけてきたというのが、私の我慢のラインから完全に出てしまった。
ルシファーは新しく考えた一手みたいなものでやったのかもしれないけど、それが私の地雷だとは思わなかっただろうね。
君は右足で百合の間に挟まる男を、左足で推理小説のネタバレを。
うまく例えられないけど、そんな感じ。
きゅうけいさん大爆発である。
「はい、もうここで決めてしまうつもりです」
「分かったわ。こうなったらもう、私もあなたに全部賭けてしまうつもり。心苦しいから言いたくない、ということでさえあなたの気持ちを蔑ろにする感じだもの」
そしてリリアーナさんは、全ての情報を話した。
知らないダンジョン。知らない世界。
だけど、離島はひとつもない……全てのダンジョンが、この半島に収まっていた。
つまり、それは——今すぐにでも時間を止めて、全てを終わらせることができるということ。
「ありがとうございます、教えてくれて」
「お礼を言うのは私のはずなのにね。でも『どういたしまして』と受け取るのが、あなたにとって一番欲しい言葉なのも分かるわ」
そういうところも含めて、ありがとうございます。
もっともっと、この人ともお話、してみたいなー。
私は少し後ろ髪を引かれる思いで、リリアーナさんの家を去った。
後は、全てを終わらせるだけ。
この私自身の頑張りで、世界を変える時だ。






