きゅうけいさんはそれを知っている
草原を走っていると、上空によく見知った反応。
これは、クローエさんだ。
弥々華さんと喋っているうちに、結構時間が経ってしまったんだね。
私は上空にストーンランスを投げるというパワープレイで場所を伝えた。
クローエさんはすぐに気付いてくれたみたいで、急降下でこちらにやってきた。
続いてシルヴィアちゃんも降り立つ。
二人はヒューマンフォームに、エッダちゃんはその直前に降り立つ。
「まずはみんなに報告。ルマーニャは大丈夫でした!」
「間に合いましたか!」
「間に合わなかった!」
えっ、という顔をした三人に、堂々宣言!
「なんと、寧々ちゃんご一行が来ていてですね、弥々華さんが私の代わりに全部終わらせてくれていました!」
「弥々華さんですか! あの人なら安心ですね」
「瞬間移動したのに全く驚かなくて、思いっきり怒られちゃった!」
「それで笑顔なのきゅうけいさんぐらいですし、それで驚かないのも弥々華さんぐらいですね……」
シルヴィアちゃんとエッダちゃんが納得しているところで……あっ、そうでした。
「えっとねクローエさん、弥々華さんってのはね」
「パオラの友人だっけ? マモン様の部下なのよね、なら心配はいらないわ」
「あっ、えっと、はいあってます」
まさかの完全に予習済みですね!? さすが優秀な部下筆頭、できる人すぎる。
ルシファーには勿体なさ過ぎる。
だから私がもらいました! もう返さないもんね!
「さて、悠長に話をしている暇はないんだ。ちょっとここから、西に飛んでいってもらいたい」
「まだ、何か敵の手が?」
「西海岸から街まで全部消えるほどの攻撃が今来てる」
「……は?」
まあ、そんな反応だよね。
TSUNAMIは海外で英訳できるものじゃないと聞いた。つまりこっちにはそういうの少ないのだろう。
津波と地震、プレート、火山、温泉。
このあたり相互関係ある、ってやつだっけ。
「弥々華さんと私にはその『津波』が通じたので、恐らく認識の齟齬はないよ。だからシルヴィアちゃん、西海岸までお願い」
「分かりました」
シルヴィアちゃんの背中に乗り、来た時同様にクローエさんの先導で西へ。
予想通り、魔物が多い。
だけどね……こっちには私の自慢のフレンド、クローエさんがいるの。
空に出てきた敵がどんな相手でも、余裕で勝っちゃうよ。
これを、隷属ではなく友人としてやってくれるんだから、やっぱり友達作るのって大切だ。
敵には絶対にないもの。
奴隷は、友達とは言わない。
部下も、友達とは言わない。
これはレジーナさんに言われたことを守っている……だけではない。
私が、私自身が友達であることを望んだからやってる。
ビーチェさんも諦めなかった。
クローエさんも諦めなかった。
パオラさんも、マモンさんでさえも。
私は友達になった。
——だけど、白黒はハッキリつける。
目の前には、西海岸の海。日本と変わらない海。
二十一世紀のスマホ社会になって、人類は初めて津波を撮影した。
それまでは、波の泡立ちが見えず、撮影しても分かりにくいような津波ばかりだったからだ。
「なん、ですか……あれは……」
視力が抜群に高いエッダちゃん。
だけど、森での生活をしていた彼女は、当然スマホもテレビも見ていないし、海すら普段から見ているわけではない。
それでも、違和感を口にしている。
つまり……それだけ、大きいのだ。
「エッダちゃん。波、来てるんだね」
「はい。横一面に広がってます。……大丈夫、なのでしょうか」
レーダーを見る。
魔物がいる。
……間違いなく、あいつが起こしたのだろう。
レイドボス『ヨルムンガンド』だ。
このゲームでのヨルムンガンドは、蛇というより海竜。
湖を割って現れる、とんでもなくでかい毒の首長竜である。
湖から現れた登場シーンでは、画面全体が揺れていた。
——ならば、海で登場したらどうなるか。
それが目の前の光景なのだろう。
「【ロックスピア】」
私は、そのレイドボスを、今回はもう遠慮なく撃った。
こいつは、おまけだ。
本当に重要なヤツは、魔物ではない。
「シルヴィアちゃん。エッダちゃん。一応先に伝えておくね」
「……はい? 何でしょうか?」
「これから私は本気を出します。でもみんなの味方です」
エッダちゃんは目を見開き、シルヴィアちゃんは『グル』と小さく頷いた。
すぐにエッダちゃんも「大丈夫です」と頷く。
私は、シルヴィアちゃんの背の上で立ち上がった。
クローエさんが、魔物を倒し終えて何かを察したのか、シルヴィアちゃんの後ろで待機する。
……。
…………ああ、そろそろ我慢の限界だ。
私は、両手を前に出した。
「【ストーンウォール】」
その魔法は……海から生えた。
海岸に向かって斜めになるように。
「【ストーンウォール】、【ストーンウォール】」
ストーンウォール、ストーンウォール、ストーンウォール。
壁から、壁、
その壁から更に壁、その壁の上からもう一つ壁。
その石壁の傾斜が、段々と急勾配になっていく。
最後は、海の方へ向かうような角度になり、シルヴィアちゃんの背の上からでも海が見えないぐらいになった。
「……【プロテクション】」
その急造した堤防に、私の地球全体より大きいレベルから作られた防御魔法をかける。
待ちながら、考える。
何故、ルシファーとベルゼブブはルマーニャを襲ったのか。
その次が、西海岸なのか。
理由は簡単。その方が、『私にダメージが行く』と理解しているからだ。
もう直接私を倒すことは不可能と分かってきたのだろう。
だけど、私は『仲間が死んでしまったら駄目』だと言っている。
だからだ。
人類の味方である私に対して、『人類側に適当に仕掛けてきた』のだ。
レジーナさんに、みんなと友達になることを約束した。
同時に、シルヴィアちゃんと決断することを約束した。
ああ、そういう意味でも……これは、私の中で絶対のアウト案件だ。
今回のこれは、完全に魔王としての私ではなく、火神球恵としての私の境界を踏み越えてきた。
白黒ハッキリつけよう。
——あいつら黒。
もうゲームクリア目指して完徹プレイするつもりで、徹底捜索して倒すわ。
「魔王の日本人に、津波が通用すると思ったか?」
次の瞬間、轟音が鳴り響き、第二の地震が起こったかと思うほどの低音が聞こえてくる。
それに続いて、まるで爆発音のようなものが聞こえてくる。
だけど、それだけ。
「これで誰も死なない」
海水は、まるで石の壁から発射されたかのように、全て海へと戻されていく。
「……はわ、はわわ……」
そして、こんなに私がカリカリしちゃってる時でも癒やしをくれる可愛いエッダちゃんは最高です。
緊張が解けたので、思いっきりエッダちゃんを後ろからハグします。
「——ひゃわ!?」
「しばらくこーさせてー」
「えっと、あの、どうぞ……?」
困惑しつつも、私の要求を呑んでくれるエッダちゃんマジ天使。
それからエッダちゃんも、私の雰囲気で察してくれた。
「きゅうけいさん、お疲れ様でした。これが敵の攻撃と、きゅうけいさんの本気……なんですね」
「うん」
「……前に、何かあったんですか?」
さすが長い付き合い、私がちょっとおこなの分かってくれていたみたい。
「以前、力がなかった頃に……津波に飲み込まれた人を見たことがあるんだ。あれは波じゃなくて、海」
「海……」
「うん。海の質量に殴られると、人は何もできない。頑丈に作った建物も全部流れて、高く作った堤防も崩れて、坂道も山も越えて……」
「……」
「それよりも遥かに、さっきの方が規模が大きかった。だから、多分ルマーニャとかまで届く可能性もあった」
分からないけど……災害を低めには見積もれない。
ただ、あれは間違いなく地球で起こるレベルのものではなかった。
「この力を持って生まれて、一番充実してるかも」
私は、自分の中に燃え上がった怒りが鎮まったのを感じ、大きく息を吐いた。
「は〜〜〜〜っ……」
そして、魔法で作った堤防を解除して、海が静かになっていることをしっかり確認した。
レイドボスは魔王や筆頭眷属同様、連発することはないだろう。
もう、あの規模の敵が現れることはない。
私は、自分の能力が自然災害というものに対して力を発揮したことを実感して、大声で叫んだ!
「……私、勝ったぞおおおおお!」
きゅうけいさんコミカライズ13話、デイリーランキング1位でした! ありがとうございます!
https://twitter.com/Renta_Comics/status/1407142051863433216
今回はですね、あのエッダママのカルメンさん活躍シーンとかを描いてもらってます。
まだ読んでない方は是非読んでね!
また、こちらの作品ではないのですが
ずっと進めていた『黒鳶の聖者』2巻がついに発売となりました!
https://twitter.com/MasamiT/status/1408085485709238273
去年HF1位になったいい手応えの作品ですので、こちらも読んで気に入ってくれたら手にとってもらえるとうれしいです!






