きゅうけいさんは犠牲で得るものを拒む
新事実、敵魔王の捜索は既に行われていました!
「まあ、リリアーナ様にとっては自分のことですもの。あの人にとっては、今の自分はただの人間の身体。いくらレベルが1000あっても、不安しかないでしょうから」
「さすが元魔王、規模が違いすぎる……」
「そんなリリアーナ様が生きていると知ったら、相手は警戒するでしょうねぇ〜……。だから、先に相手の場所を捜し出そうとしているのよ」
なるほど、確かにリリアーナさんの気持ちになればそうするのは必然だと思う。
オレスティッラさん達を使って、前もって対策しておくというのは普通だと思う。
思うんだけど……。
「それ、オレスティッラさんは危なくないんですか?」
どうしても気になってしまうのは、そこだった。
魔王がいるダンジョンを探索するというのは、当然のことながらそれ相応の危険が伴うはず。
もちろんそれを知らないオレスティッラさんではなかった。
「うん、危ないわねぇ。でも、連絡が途絶えた時点でその付近が魔王の居所だって分かるから、一番確実な方法かなって」
……。
私は、ちょっと魔族の皆さんのことを侮っていたかもしれない。
特に眷属って部分。
クローエさんの方を向く。
「クローエさんも、魔王に命令されたら言うこと聞いちゃう人だったと思いますけど、同じような状況になったら指示通り動きますか?」
「俺か? 今はともかく、以前はそうだったろうな。隷属とか関係なく、命ぐらいならまあ普通に張るよ。それが眷属ってもんだろうし」
「……じゃあ、オレスティッラさんの反応も」
「普通だ。危険が伴うといっても危険じゃない仕事なんてないとも言える。なら、これぐらい役に立つこともするだろうな」
クローエさんの反応は、まるで何が不思議なのかと聞くようだった。
そうか、これって魔族にとっては普通なんだ。
……でも、平和育ちの私にとっては。
特に、こんな素敵なお友達に対しては、それでいいはずがないのです。
「行かせません」
「……えっ?」
「オレスティッラさんが危険な目に遭うのなら、行かせたくありません。ヴァンダさんも、ダフネさんも。だって大事な友達ですから。その、仮に死んじゃったりなんてしたら、泣いちゃいそうだし……」
美人でセクシー、なだけではない。
誰よりも男を求めた種族ながら、誰よりも他の女性に配慮した装備をしている。
それは、このおっとりむちむちおねーさんの表面的な部分ではなく、内面の深い部分を表しているように思う。
以前、我慢出来ずに動いたことで牢屋に三人揃って捕まったことがあった。
その時のことを思い出して、ふと疑問が生まれたのだ。
レベル1073?
そんな三人組、普通負けるかな?
多分だけど、サキュバス三人組側は、誰も攻撃してない。
何かしら諦めざるを得ない状況になって、捕まることを選択しちゃったんじゃないだろうか。
そして、その衝動があるにも拘らず、男のいる街でオレスティッラさんは完全に鎧姿になっている。
男に声をかけないし、かけられない。ならば、それなりに我慢しているはず。
だけど、我慢出来ないから脱いで襲おうなんてこと、絶対にしない。
レベルも美貌も十二分にあっても、迷惑を掛けないようにと気遣っているのだ。
まー、つまり。
とてもいい人なのだ、この人達。
「だから、リリアーナさんからの指示、私に回してください」
私はオレスティッラさんに一歩近づいて、ちょっと背の高めなその顔にずいっと顔を近づけた。
ここは譲れない部分です。
「……」
「……」
驚いた顔で固まるオレスティッラさん。
そして……なんか抱擁されたっ!
「クローエ様、私、今初めて魔王様のこと本気で可愛いとか思っちゃってるんですけど、不敬じゃないですかね?」
「今更じゃないかな、きゅうけいさんだし」
「ふふっ、そうですねぇ〜。ちょっと本気で欲しくなっちゃったけれど……『退行魅了』しちゃったら、みんな怒っちゃいますから」
頭越しに会話が終わって、オレスティッラさんが離れた。
な……なんか凄まじく聞くのがヤバい単語を拾ってしまいましたが、詳細を聞くのは控えた方がよさそうですね……。
オレスティッラさんは、頭を掻きながらマリカさんの方に笑いかけた。
「ってわけで、きゅうけいさんのお願いによって、私のお仕事は切り上げて街の見回りに戻るわね。それでいいかしら〜?」
「へへっ、もちろんだ。いやー、いいモン見させてもらった! ここで眷属の部下のために頑張っちまうんだから、かっけーわ。さすが私らの英雄様だ!」
「またきゅうけいさんに素敵なエピソードが追加ですねぇ!」
いやいや持ち上げないで! あとエッダちゃんも乗らないで!
照れすぎてどう反応していいか、普通の一般小市民としては困っちゃうよ! 今ちょっと魔王になっちゃってるけど!
「ふふっ、これを褒められたくてではなく、めんどくさがりなのに自然とこうなっちゃうんだから、きゅうけいさんと一緒にいるのは楽しいのよね」
「シルヴィアちゃん、なんとかまとめてぇ〜」
「正直あたしは褒められたくてわざとやってるんじゃないかとおもってるぐらいですからね。でもそうじゃないんだから、きゅうけいさんって相変わらずきゅうけいさんですよね」
あっ、今回のシルヴィアちゃんはあっち側だ。
かくして、私の青肌赤面タイムはしばらく続くのであった。






