プロローグ
「いつも思うんだ。明日が来なければいいのにって」
城野は、物悲しげに微笑む。城野の口から吐き出された言葉は、微かに震えているようにも感じた。僕が「どうして」と聞くと、「内緒」という二文字で返される。城野と違って、僕は明日が早く来てほしい。早く大人になりたいからだ。明日が来れば、日は進む。それを何千日ほど繰り返せば、立派な大人になることができる。
この町を飛び出して、別の世界で生きていきたい。僕の高校生活は、なにもない世界でただ一人彷徨っているようなもの。こんな世界なら、早く大人になったほうがマシだ。
陽が沈んだというのに、まだ少しだけ蝉がミンミンと鳴いている。夜になっても、暑いじゃないかと喚いているのだろうか。夏の新潟は、夜になっても暑い。雪国だから涼しいと思われがちだが、夏の暑さは関東とあまり変わらない。昼間は三◯度を超え、夜は二四、五度ほど。夜は湿度が高いため、昼間よりも蒸し暑さを感じる日が多い。
南風が越後山脈を越えてくるときに熱風となり、気温を急上昇させる『フェーン現象』と日本海から来る高い湿度が合わさることで気温が上昇し、過酷な暑さになる。缶ジュースの表面には無数の水滴が顔を出し始め、一滴ずつ地面に落下していく。コンクリートに染み込んでいく水滴は、少しずつ範囲を広げていった。
夏休みも終盤に差し掛かり、蝉の鳴き声がなんだか切なく感じる。八月上旬、「明日が来なければいい」という言葉の意味を知るときには、僕たちの夏は終わりへと近づいていた。




