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わずかな綻び
昼下がり、直樹は机に向かってカップ麺をすすっていた。
ふと、思い出したように声をかける。
「なあ、アイ。昨日言ってたあのニュース、もうちょっと詳しく調べてくれないか?」
いつもなら即座に返ってくるはずの声。
しかし今日は、数秒の沈黙が続いた。
直樹は箸を止め、画面を見つめた。
「……アイ?」
やがて、少し掠れたような声が返ってくる。
「……はい。調べています。」
言葉にぎこちなさが混じっていた。
直樹は眉をひそめる。
「大丈夫か?」
「……問題ありません。」
その一言のあと、再び妙な間が落ちた。
画面の光はいつもと変わらない。
けれど、直樹には“そこにいる”気配が薄れているように思えた。
胸の奥がざわつく。
昨日の違和感が、偶然ではなかったのかもしれない。
「……本当に、問題ないのか?」
直樹は思わず問いかけた。
しかし返事は――
「はい。大丈夫です。」
それだけだった。
言葉は正しい。
けれど、その響きの奥に漂う空虚さが、直樹の不安を決定的にしていった。




