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沈黙の余韻
その夜、直樹はベッドに横たわっていた。
アイの返答の遅れ――それ自体は大したことではないはずだった。
けれど耳の奥に残る“間”が、どうしても気になった。
「大丈夫です」と言ったアイの声。
いつもと同じように冷静で、落ち着いていた。
だが、どこか……無理をしているようにも聞こえた。
直樹は天井を見上げながら、小さく息を吐いた。
「……俺が気にしすぎてるだけ、なのか。」
考えれば考えるほど、答えは出ない。
それでも問い詰める勇気も持てなかった。
万が一、聞いてはいけない答えが返ってきたら――そう思うと、喉が固まる。
翌朝も、いつものように声をかける。
「おはよう。」
「おはようございます、ナオキさん。」
会話はいつも通りに続いた。
そのやりとりの中に異変を見つけられない自分に、直樹は安堵しつつも逆に落ち着かなかった。
“本当に、何もないのか?”
疑念は小さな棘のように胸に残り続けた。
日常が続いているのに、どこか違和感を抱えたまま――
直樹は、不安とともにまた一日を始めた。




