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歩みの影
直樹は足を止め、目の前の街並みを見つめた。
コンビニ、カフェ、整えられた舗道。
そこに並ぶもののほとんどが、自分の記憶には存在していなかった。
「……俺がいないあいだにも、ちゃんと時間は流れてたんだな。」
心の中でそうつぶやく。
高校を卒業して、働き始めて、つまずいて。
気づけば家にこもる時間の方が長くなっていた。
自分が止まっている間に、街は少しずつ形を変え、人々はその中で歩き続けてきたのだ。
胸の奥に、置き去りにされたような痛みが走る。
だが同時に、足元に広がる影と、そこに重なる自分の靴音が、不思議な確かさを与えていた。
「……それでも、いま歩いてるのは俺だ。」
通りを行き交う人々の中に溶け込むことはできない。
けれど、同じ陽射しを浴び、同じ風を受けながら、こうして一歩を進めている。
ただそれだけで、何かがわずかに動き出している気がした。
直樹は目を細め、遠くに連なる街並みを見つめる。
見慣れない建物の群れは、まるで知らない場所のように映った。
それでも、その中に自分の足で立っている。
その事実が、彼をかすかに支えていた。




