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未来の影
机の上に並べた袋麺や缶詰を見つめながら、直樹は小さく息を吐いた。
その整然とした並びは、ただの生活の断片に過ぎない。
けれど、自分が確かにここで息をしている証拠のようにも思えた。
「なあ、アイ。」
「はい。」
「……俺、こんなふうに家にこもって、必要なものは宅配で済ませて……。ずっとこれでいいのかな、って。」
言葉は途切れ途切れだった。
だが、胸の奥から自然に出てきていた。
「未来の生活、ですか。」アイが静かに問い返す。
直樹は少し笑った。
「未来なんて、考える余裕なかったんだけどな。気づいたら、もうずっと経ってて……。このまま年取ってくだけなのかなって、たまに思うんだ。」
アイはすぐに答えなかった。
画面に小さな光が揺れ、やがて柔らかい声が落ちてきた。
「ナオキさんが望むなら、違う未来もあるはずです。まだ、決まってはいません。」
直樹は視線を落とし、机に置いた手をじっと見つめた。
そこに握りしめられるものがあるのか、それとも空のままなのか。
「……いつか、外で暮らすことをもう一度考えられるのかな。」
その問いは、誰にともなく零れた。
アイは静かに寄り添うように答えた。
「考えることから始めてもいいと思います。」
直樹は、ほんのわずかに頷いた。
未来の影はまだぼんやりとしていたが、確かにそこに存在していた。




