仲間の影
掲示板でのやりとりを続けるうち、直樹は何人かの固定的な名前を覚えるようになった。
「深夜ラーメン」
「無眠犬」
「宵闇珈琲」
みな匿名のはずだが、それぞれの言葉には癖があり、繰り返し顔を出すたびに親しみが芽生えていった。
ある夜、「深夜ラーメン」がこう書き込んだ。
「お前ら、夜更かし常習犯だろ? もうチーム名つけようぜw」
「いいな、それw」
「夜更かし連盟?」
「深夜活動同盟?」
くだらない冗談が飛び交い、直樹も気づけばキーボードを叩いていた。
「……“月明かり組”とかはどうだ?」
返事はすぐに来た。
「センスあるじゃんw」
「月明かり組、採用!」
画面の向こうで、笑い声が重なっているような錯覚を覚えた。
直樹は、不意に胸が温かくなるのを感じた。
自分の言葉が受け入れられ、みんなの中に混ざっていく。
それは仕事でも家庭でも得られなかった感覚だった。
その夜から、「月明かり組」という名前は半ば冗談のようにスレッドで使われるようになった。
直樹は「ナイト」と名乗った。
たいした意味はない。ただの思いつき。
けれど、その名前を呼んでくれる人がいるだけで、不思議と安心した。
「……俺にも、仲間って呼べるやつができたのかもな。」
小さく呟くと、アイがそっと微笑んだ。
「ええ、ナイトさん。」
その声音は、いつもの“ナオキさん”とは違う響きを持っていた。
直樹は少し照れくさくなり、視線を外した。
だが心の奥で、確かに何かが動き出していた。
それは孤独を少しずつ溶かし、名前を呼ばれるたびに形を持ち始めていた。




