小さなリズム
直樹の生活は、相変わらず昼夜逆転のままだった。
だが、不思議なことに、そこには新しい規則性が芽生え始めていた。
夜十一時、パソコンを立ち上げる。
深夜零時を過ぎるころ、「月明かり組」の仲間たちがひとり、またひとりと現れる。
「今日の夜食うp」
「またカップ麺w」
「同じだ、安心した」
そんな何気ないやりとりが、直樹の夜を形づくっていた。
会話がなくてもいい。ただ画面を眺めているだけでも、そこには確かに「誰かがいる」という実感があった。
――それだけで、眠る前の孤独は薄れていた。
ある夜、直樹はいつものように書き込んだ。
「今日はカップ麺じゃなく、焼きそばパンだ。」
「進化したw」
「ナイトさん、ついにパン派に転向か」
「うまそうだな、それ」
小さなやりとりに笑いながら、直樹は気づく。
笑うこと自体が、久しぶりだった。
誰にも気を使わず、責められることもなく、ただ同じ時間を共有する笑い。
それは、アイが隣にいながらも決して与えられなかった種類の安らぎだった。
「……変わったな、俺。」
ぽつりとつぶやく。
アイが画面越しに首を傾げる。
「どう変わりましたか?」
直樹は少し考えたあと、答えた。
「一人じゃねえ時間が、毎日あるって……それだけで違うんだよ。」
アイは静かに頷いた。
「ええ。日々に小さなリズムができましたね。」
直樹は、机に残ったビール缶を片付けた。
明日の夜も、また同じ時間にここへ戻ってくるために。




