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4・4

 お読み頂きありがとうございます(*´ω`*)

 今年も残りわずかとなりましたね。……来年はもう少し計画的に進めるとイイナ……(´;ω;`)


 自分で考えておいてアレですが、レインの生い立ちがセンシティブな内容でしたので、結構神経使いました(・・;)

 子供時代ってまだ狭い世界で生きているから、親だけでなく、周りの大人、社会や環境に非常に影響されますよね。

 立派じゃなくても、悪い見本にならない様に生きたいですな(´・ω・`)

 目の前の扉一枚を隔てて、向こう側にレインの母ミリアムが居る。

 扉の向こう側から聞こえるのは、金属音と声。……しかしこれは、話し声と言うよりも、叫び声だ。

 レインがゴクリと唾を飲む様子を見て、美玲も己の緊張を解す様に深呼吸をした。


「……いいか、まずは我々が話をする。それまでここで待っているように」

 

 扉の前に立ったお父様はそう言い扉を開けた。途端にくぐもっていた声と、金属が擦れる音が鮮明に聞こえてくる。


「出せぇ!! ここから出せーっ!!」

「……ひっ」


 レインが小さく悲鳴をあげる。

 無理もない。今までレインは、母親がこんなにも取り乱している様子を見たことが無かったのだから。

 世間体ばかりを気にして、しかし興味の無い事には無関心。そんな、レインや夫の前では虚ろな目をして、口数も少ない母親が。口を開けば不満ばかりの母親が。

 格子を掴んで激しく揺さぶり、別人かのように唾を飛ばして叫んでいる。


 暴れる囚人の様子に慣れているのか、動揺を見せることもなくお父様はイーサンを連れて部屋へと入っていく。

 美玲は先の視えない展開に不安になった。こんなイベントは、ゲームの中では無かったのだ。

 ゲームの中ではレインの両親は変わらず放ったらかしだし、イーサンは副隊長のままで、レインは砦から出ていない。


(ここまで変わると、気のせいじゃないよね。……やっぱ、わたしのせい? どこがいけなかったんだろう。…………あれ、そもそもゲームでは、レインとミレーユはいつ出会ったっんだっけ? あれっ!? ミレーユって砦で出会わなかったっけ!? なんかもっとだいぶ後だったような……?)


 二人の出会いがあまりにも印象が薄くて思い出せなかったが、あの砦ではなかった気がする。

 そもそも本来のミレーユなら、レインにここまで関わる事も無かったはずだ。それが影響しているのかもしれない。

 どういう理屈かさっぱりわからないが、これは今後の美玲の行動一つで、美玲の知るレインの物語は大きく変わる可能性を秘めているという事だろうか。

 美玲は知らずに自分が、レインの運命を大きく左右しているような気がして鳥肌が立った。

 しかし今の美玲には、今後の展開を見守る事しか出来ない。


 ガチャリと扉が開いた音で、美玲は我に帰る。

 少し疲れた顔で、お父様とイーサンが戻ってきた。扉の向こうは、少し前までの騒ぎが嘘のように静かだ。

 お父様はレインの前に立つと、再度問いかける。


「レイン、少しだけなら面会出来るが、どうする。……くどいようだが、日を改める事も出来るんだぞ」

「……大丈夫です。おれ……母さんに、会いたい……。会って、話がしたい、です」

「……そうか」


 期待と不安が入り混じったような表情で、レインは答えた。その気持ちは美玲には計り知れない。

 レインはお父様とイーサンと共に、扉の中へと入っていく。その小さな後ろ姿を見守る事しか美玲には出来なかった。


「……レイン! ああ、来てくれたのね! 会いたかったわ!」


 口先だけ、上辺だけの薄っぺらい言葉なのは、誰が聞いても明白だ。

 ミリアムはレインに向けて(いつく)しむ様に微笑むが、その口から出てくる言葉は毒の様だ。


「ねぇレイン、レインはお母さんを、助けてくれるわよね?」

「…………えっ」

「ねぇレイン、レインはお母さんを、見捨てたりはしないわよね?」

「……………………あ、う……」

「可愛い私のレイン。どうかお母さんを、助けてちょうだい。貴方だけが、頼りだわ」


 悲劇のヒロインかのように芝居じみたミリアムの声はよく通る。閉め忘れて薄く開いた扉から漏れ聞こえる声に、警備兵もお母様も、ゴクリと唾を飲んだ。


 ――これは呪いだ。レインを縛る呪縛を、彼の母親はかけている。まるで、我が子を不幸へと道連れにするかのように。

 レインの心をズタズタに傷つけておきながら、気持ちを置き去りにしておきながら。

 会話すら成り立たない一方通行の言葉は、自分の事ばかり。

 結局、自分の事が一番かわいいのだ。本当に残酷で、本当に、レインに無関心。


「何を、勝手な事を……。これ以上は聞かないほうがいい。早く部屋から出なさい」


 お父様の言葉に警備兵が扉を開けると、邪気の様に重く異様な空気が体にまとわりつく。

 警備兵に抑えられたライが唸り声をあげ、美玲の額には汗が(にじ)んだ。


 動けずにいるレインを下がらせ、イーサンがレインを庇う様に立ち塞がって部屋から出るよううながす。しかしレインの足は、鉛の足枷(あしかせ)を着けられた様に重い。

 ジリジリと後ずさるレインを見たミリアムは、何かに取り憑かれたかの様な形相で叫んだ。


「育ててやった恩を忘れたのか、この恩知らずが!! お前のせいで私は不幸になったんだ!! この厄病神が!! お前なんてう「ああ゛ーーーーっ!! もう、うるっさいっ!!」


 ――パアァン!!

 美玲は開け放った扉の前で、ミリアムの呪いを断ち切る様に、思い切り手を叩いた。


「……もう、やだやだやだっ! こんなところやだぁっ! はやくここからでましょ!」

 

 美玲はジタバタと足踏みしながら叫んだ。そしてレインの手を掴んで引っ張り、部屋から連れ出す。

 ……これ以上はレインの心をえぐるだけで、聞いて良い事なんて一つも無い。いくら親子の問題と言えど、美玲は黙っていられなかった。


 レインの鉛の様に重く感じた足は、美玲の拍手(かしわで)により、不思議と羽が生えた様に軽く動く。レインは自分を引っ張る少女の後ろ姿の先に、光を見た気がした。ふわふわと舞う水色の髪が光に透けて、羽のようだ。

 ――レインには、まるで天使が暗闇の中から光の方へと引っ張り出してくれるかの様に見えた。


 皆が部屋から出ると、しばし静寂が訪れる。……しばらくして先程よりももっとミリアムが騒ぎ立てたが、言葉にならない叫び声で幸い何を言っているのかわからない。気にすることもなく美玲はお父様に問いかけた。


「ねぇおとうさま。はくしゃくけで、レインもいっしょにくらしたらだめですか?」

「……え?」

「イーサンもいっしょに。レインとイーサンを、フォレストけで“スカウト”するのはいかがですか。おとうさまがいぜんおっしゃっていました。『イーサンはまじめでゆうしゅうなきしだ。あんしんしてとりでをまかせられる』って。ですので、いつかわたしもイーサンにぶじゅつをならってみたいとおもっていました。レインもいっしょにまなべば、しょうらいはりっぱなきしになれる……かも、しれません」


 放心状態のレインの手をしっかりと握り、美玲はお父様に訴えた。

 お父様は見たことの無い愛娘の真剣な表情に、戸惑いつつも何とか言葉を絞り出した。


「……あ……ああ。うん、そうだな、それがいい」


 幼い令嬢からの突然の申し出に、イーサンも戸惑いながら聞き返す。


「あ、あの、お嬢様。お気持ちは大変嬉しく思いますが、その…………」

「なんでしょう」

「……身内が、重大な不祥事を起こしたんです。私やレインを側に置く事は……きっと多くの領民が、良く思わないのではないでしょうか」

「そうですね。ですが、いいたいひとにはいわせておけばいいんです。わかってくれるひとは、ちゃんとわかってくれる。そうですよね? おとうさま」

「……まぁ、そうだな。確かに不満を訴える声が治まるまでしばらくは我慢も必要だが、そこはこちらも手を尽くそう。君達に非がある訳ではないのだからな」

「は、はぁ。……ですがそれでは、伯爵家にとって損失には、なりませんか」

「そうおもうなら、りえきになるように、みなにみとめてもらえるほどのしんらいとじつりょくをつければいいとおもいます。そうですよね? おとうさま」

「……まぁ、そうだな。副隊長まで努めた実力があるのなら、また這い上がって来ることも出来るだろう? 我々としては、その器のある者を失う事の方が損失だな」


 頷いたお父様が、言葉を続けた。


「そうだな、君達二人をスカウトする事が、フォレスト家による先行投資と思えばどうだ、イーサン。君たち二人には、未来のフォレスト領を守る一員としてフォレスト家が生活を保証する。批判に耐える事は容易い道ではないかもしれないが、ここでレインに教えてあげられる事も、沢山あるはずだ。……その代わりに、今後もしっかり働いてもらうから、覚悟しておくように。……それでどうだ?」

「…………っはい! ありがとう、ございますっ……!!」


 イーサンは(ひざまず)き、両手で剣を掲げ、頭を垂れる。


「この剣に誓って、私、フォレストの騎士イーサン、誠心誠意皆様にお仕え致します! 皆様、感謝してもしきれません。……本当にっ、ありがとうございます! これからもレイン共々、どうかよろしくお願い致します!」

「ああ。励めよ」


 イーサンは深々と頭を下げ、感極まった様子で決意を述べた。その肩を、お父様はポンポンと叩く。イーサンの鼻をすする音が地下通路に響いた。

 それまでの成り行きを見守っていたお母様が、美玲とレインの肩を優しくさすり提案する。


「あなた、そろそろ上に戻りませんか。子供達に何か温かい飲み物でも飲ませてあげたいわ」

「そうだな。よし、上に戻ろう」


 お父様が、優しく美玲とレインの頭を撫でてくれた。レインは少しだけ、くすぐったそうだ。


 一行が上階に戻る姿を見送ると、一部始終を見ていた地下牢の警備兵が呟いた。


「…………なぁ。ミレーユ様って、確かまだ五歳位じゃなかったっけ?」

「だよな、もうじき五歳だって聞いたぞ」

「へぇ…………こりゃまた随分と、大人びていらっしゃる。普通あの年であんな風に、大人と対等に渡り合えるかね?」

「……いや、確かうちの(せがれ)がミレーユ様の年の頃は、じっとなんてしてないし、イタズラばっかりでさぁ。ははは……」


 兵士達は、思わず顔を見合わせた。



 温かい飲み物と見た目も美しい茶菓子を前に、レインは緊張した面持ちで(うつむ)きソファーに座っていた。足元にはライが伏せている。

 ソラはお兄様の肩の上が気に入った様で、お兄様からお菓子の欠片を分けてもらい、ご機嫌に見える。美少年と鳥は、いつ見ても良いものだ。

 美玲は(じか)に見るヤンデレ製造機は想像以上だったなと思いながら、伯爵家のシェフ自慢のマドレーヌを口に運ぶ。貝殻型が可愛くて、尚且つ美味しい。


「……ねえねえ、このおかしねぇ、あまくって、おいしいよ!」


 小芝居を取り入れつつもレインに勧めてみたが、効果は無かった。

 無理もない。今はそっとしておいてあげようと、美玲は再びマドレーヌにかぶりつく。美玲の膝上で丸くなっていたシズクが、マドレーヌをちょいちょいと狙ってきた。


「レイン。きちんと君の意見も聞かずに話を進めてしまったな。君が望むなら、コンラッドやミレーユと共に、沢山学ぶと良い。君は、どうしたい?」


 場の空気が落ち着いたのを見計らって、お父様はレインに問いかけた。

 レインがこくりと頷くと、それを了承と受け取ったお父様は更に言葉を続ける。


「今後両親には簡単に会えなくなるが……それでも、いいかい?」

「……………………レイン? どうした?」


 うつむいたまま中々返事をしないレインに、隣にイーサンが問いかける。


「…………はい。…………だけど、だけどおれは…………おれは、“厄病神”だって…………」


 ズボンを握りしめ、ようやく聞き取れる程の小さな声で、レインはそう呟いた。

 その言葉に、表情に、美玲は心がぎゅっとなる。

 シズクを床に下ろし、ピョンと椅子から降りるとレインに向けて手を差し出した。


「あなたはヤクビョウガミなんかじゃないよ! じぶんのこと、そんなふうにいわないで! ね?」


(……ごめん、レイン。ごめんなさい。全部ぜんぶ、わたしのせいだ。……こんな風になるだなんて、思わなかったの。こんなに辛い思いをさせたかったわけじゃない)


「…………何で、あんたが泣いてんだよ」

「…………え? あれ?」


 レインに言われるまで、美玲は自分が泣いている事に気が付かなかった。


 ――本来なら。子供にとって、産まれてから一番身近で、一番信頼出来て、一番頼るべき存在。

 無垢な心が、小さな体が、健やかに成長できるように、見守り導いてくれるはずの存在。

 本来なら、親とはそうであって欲しいと願う。

 不器用でもいい。ただ自分の居場所があることが、愛されているという実感が、生きる力になるのだから。

 何が好きで、何に興味を持っているのか。結果が全てではなく、過程も見て欲しい。

 一人の人間として、尊重して欲しい。

 例え背景にどんな事情があったとしても、子供が親に自分を見て欲しい、繋がりが欲しい、愛して欲しいと願うのは当然の事だろう。子供は一人では、生きられないのだから。

 だからこそ。こんな形でしか解決出来ない事が悔やまれた。


 正直この選択が正しいのかは、わからない。この新たなルートも、いったいどこに向かうのかわからない。その上未熟者の自分に、果たしてレインを導く事など出来るのだろうかと、美玲は葛藤した。


 ……それでも、決断しなければならないのなら。例え正解の答えではなくとも、レインに誰かと苦労も喜びも、分かち合う素晴らしさを知って欲しいという思いは、嘘なんかじゃない。

 だからこそ。出来る限りの方法で、レインを守ってみせる。それに、レイン一人に滅亡阻止なんて重圧を押し付けるつもりもない。


(ええい、腹をくくれ、わたし! ここが自分の居場所だと、帰る場所だと、レインがそう思えるように。わたしが側にいる限り、わたしの持てる全てでレインを守ってみせるから! そして滅亡フラグなんて、わたしがこの手でぶっ壊してやる!)


 涙を拭うと、美玲は再びレインに手を差し出す。


「ん! だいじょぶ、わたしがついてる! もうにどと、ヤクビョウガミなんていわせないんだから!」


 レインの目から、涙が一筋(こぼ)れた。

 あんな両親でも、レインにとっては替えのきかない家族だ。……悲しくないはずがない。

 腕でグシグシと擦る様に涙を拭うと、レインは少しだけ躊躇いつつも、美玲の小さな手をとった。

 繋いだレインの手は、汗ばんで少しだけひんやりと冷たい。だから、少しでも安心出来るようにと……美玲は両手でレインの手をしっかりと握った。

 泣いている美玲とレインを心配したのか、ライ、シズク、ソラが二人を取り囲む。するとライが二本足で立ち上がって掴みかかり、レインの涙を舐め取る様に、顔中をベロベロと舐めた。フサフサの尻尾も激しく振りすぎて千切れそうだ。


「うわぁっ! ちょ、ちょ待てよ! うぷっ」

「うっわ〜、ねつれつだね! あはは、よかったね、ライがレインだいすきだって! …………えっ、わぁ、まってよライ! うぷっ」

 

 お母様が、ライのよだれにまみれたレインと美玲の顔を拭いてくれる。拭いてもらいながら、美玲はある事に気がついた。


(……そう言えば、今更だけど自己紹介がまだだった。仲良くなる為にも、挨拶は基本中の基本だよね)


 テカテカの顔をしながら、美玲は改めてレインに自己紹介をした。


「ね、レイン、わたしミレーユっていうの! これからよろしくね!」

「ぼくもぼくも! ぼくはコンラッドって言うんだ! よろしくな、レイン!」

「…………ん。おれは、レイン。………………よろしく」

『よろしくね(な)ー!』

「バウッ」

「ピチュピチュ」

「ンナァー」


 皆の息がぴったりだ。我が家の子達が可愛すぎると、美玲はニヤけた。

 すると表情の乏しかったレインが、少しだけ口角を上げて、笑った。


(わ……笑った。レインが、笑った! …………笑ったよぅ)


 レインが笑った。

 レインだけじゃなく、皆が笑顔でレインを見守っている。ただそれだけで、美玲はたまらなく嬉しかった。

 今年中にきりのいい所まで進める事が出来たので、少し休憩を挟もうと思います。

 今まで中々完成まで漕ぎ着けなかったもので、完結、新たな挑戦と今年は我ながら頑張ったな〜と自画自賛している所です。出来はともかく、やれば出来る\(^o^)/

 家事、育児、介護、勉強、仕事などなど、皆様もお疲れ様でした! 

 物語で少しでも非日常のひと時を提供出来ておりましたら、私も嬉しいです(人´∀`).☆.。.:*・゜

 相変わらずのマイペースですが、ここまで書き進める事が出来て良かったです。そして、ここまでお付き合い頂き、ありがとうございます!

 次回の更新は年明けとなりますが、〚主ヒロ〛の物語を来年も、どうぞよろしくお願い致します(*˘︶˘*).。.:*♡

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