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騙る者ども7

 

 部屋から出ると、アロが血まみれの俺を見て目を見開く。


「ベルクさん! だ、大丈夫ですか!?」

「……実験に使っていた魔物の血を零しただけだ」


 適当に言い訳をすると、アロはそれを信じたのかホッと息を吐いて胸を撫で下ろした。


「もう、ドジですね。 んぅ、体を拭くの手伝いましょうか?」

「いや、いい」


 簡単に騙されてくれたことに安心と、他の奴に騙されないか不安に思う。

 シチはもう寝たのかリビングにはいなかったので、触っても怒られないと思って、軽くアロの頭を撫でる。


「んぅ……ベルクさん、大丈夫ですか?」

「何がだ?」

「いえ……勇者様のこと、気にしていたみたいだったので。 その……ベルクさんの気持ちを考えると、複雑かなって」


 軽く体を拭いて着替えを済ませて、桶や布を片付ける。

 神託の勇者の存在は、確かに穏やかな気分ではいられない。 単純にニムを守れる立場にまで上がる以外に、神託の勇者が活躍して教会の力が強くなってニムが偽物ということになることで解放されるかもしれない。


 ニムも「自分にしか出来ない」という意識から勇者の立場を甘んじているところもあるので、そもそも一緒に逃げてくれるかもしれないぐらいだ。


 神託の勇者がどう出てくるのか、それに対する国やニムの思惑がどうか……把握しきれなく、難しい。


 それに……単純に、妬ましさもある。 あんな力があれば、ニムを守れるのにと。


「……大丈夫だ」

「……大丈夫じゃ、なさそうです。 ……僕に出来ることなら、何でもしますから、無理しないで……くださいね?」


 アロの献身的な言葉を聞き、これ以上頼るのは無理だと思いながら頷く。


「ベルクさん……本当に、心配なんです」

「……ああ」

「僕のこと……子供だと思ってますよね」

「まぁ、そりゃな」


 アロは俺を見つめながら、手を引いて寝室に向かう。

 彼女の黒い髪が溶けるような暗闇の中で、アロの目が俺を見つめる。

 無用な心配はかけられない。 特にただの気苦労であるうちは、特にそうだろう。


「子供扱い、されたくないです」

「年齢を考えろ。 子供だから仕方ないだろ」

「……ベルクさんの助けになりたいんです。 子供だったら、なれないです」

「……充分すぎるほど助けられている」


 弱みを見せてほしいということだろうけれど、そういうわけにもいかないだろう。

 アロの昨晩の錯乱を思えば、いくらしっかりしていても傷ついた子供であることは間違いなく……弱みを見せて不安にさせることは出来ない。


 彼女を抱き締めて、背中を撫でる。


「神託の勇者には驚いたが、都合が悪いわけでもないから問題ない。 むしろニムの負担が減ることで歓迎出来ることだ」

「……強がりです」

「そんなことはない」

「……どうしても僕に話せないんでしたら、ニムさんでも誰でもいいので、話してください。 一人で、抱え込まないで」


 アロが言えるようなことじゃないだろう。

 彼女の方がよほど無理をして頑張っている。 アロにとって、ニムを救うことに意味はないはずであり……ただ、俺に尽くしているだけだ。


 アロは俺を見つめてから、気まずそうに俺の胸に顔を押し付ける。


「……あの、偉そうなこと言ったけど、嫌いになりませんよね?」

「なるわけないだろ……」

「喧嘩っぽくなったので、不安です」

「喧嘩にはなってないだろ。 ……本当に無理はしてない」

「……本当です?」

「ああ、頼めることはアロに頼んでいるだろ」


 上目遣いで俺を見つめるアロの頭を撫でて、軽く髪を退かせながら額に口付けをする。

 一度話してからもう一度彼女の小さな唇に向かおうとして、アロの細い人差し指に、ちょん、と唇を抑えられた。


「僕はこどもなのに、ちゅー、したいんですか?」


 俺が言葉に詰まれば、アロはくすりと悪戯そうに笑う。


「ん、いいですよ。 ベルクさんは、僕にわがままを言っても」

「……俺にだけ、口がまわるな」

「んぅ……ど、どうぞ……」


 目を閉じて俺を待つアロの顔を見る。 手玉に取られているけれど、結局はこうして甘やかされているせいで、抜け出す気が起きない。


 赤らんでいる頰に、薄い唇。 幼いながらも整ったかんばせは近くで見れば照れてしまいそうになる。


 手玉に取られているのを回避するために、我慢しようとするけれど頭が茹だるような感覚に浮かされて、ふらふらと彼女の頭を触り、顔を近づける。


「……いいか」


 などと、分かりきった答えを問うと、彼女は小さく頷く。

 年齢の差があっても、上手くこなすようなことは出来ない。 アロとしかしたことがないのだから、経験の数は同じだけだ。


 触れてしまえば壊してしまいそうという理性と、幼い口内をむしゃぶりついてしまいたいという獣欲の中で、不慣れなことが上手く出来るはずもない。


 心臓の音とは反対に、ゆっくりと、ゆっくりと、一ミリ、二ミリと距離を測るかのように近づけていく。 期待というのは一つの快楽なのかもしれない、触れ合ってもいないこの瞬間も、触れ合う瞬間を思って酷く興奮して熱に浮かされる。


 それは確かに快楽を伴っていたが、同時に酷く苦痛もあった。 早くアロの口内を舐りたいという欲求が、膨れ上がる。


 我慢の限界の先に、あるいは唇の先にあったのは、少し湿った柔らかい感触。 アロの唇の感触だった。

 少女の頭が離れないようにしっかりと捕らえながら、唇を押し付ける。

 鼻が当たってしまわないように顔を斜めにずらしながら、舌を伸ばす。 アロの形の良い唇の間に侵入させれば、無抵抗に明け渡すように小さく口が開かれる。


 入り口を舐りながら舌先を入れると、ちょん、と柔らかなものに触れる。 すぐにアロの舌であることに思い至りながら、それに舌を当てていくと、強張るのが分かった。


 俺のものかアロのものか分からない、混ざり合った唾液のおかげで抵抗もなく口内を舌が動かせて、少女の口を蹂躙する感触に酔いしれる。


「んっ……んぅ……」


 抵抗もなく自分の口を弄ばれているアロは、ぐったりと身体を弛緩させて俺に身体を預けて、弱々しい力で俺の背に手を回す。


 唇の感触を確かめるように舌を動かせば、その度に面白いほど可愛らしい反応があった。 調子に乗って舐めれば、恥ずかしそうに「んぅ……」と息を我慢する声が聞こえて、唇を唇ではめば、預けられていた身体がぴくりと震える。


 混ざり合った唾液をアロが嚥下する、こくりという音さえも振動と共に俺に伝わる。


 唇の感触を楽しんでいれば、少女の舌が少しだけ動いて、おねだりするように俺の舌の先を撫でる。 男を誘うアロの舌の動きに、堪らずに貪りつく。


 ぬちゅり、と音を立てて舌を強引に絡めれば、アロは俺の身体にしがみつく。

 俺に全てを託すような姿に、ぷつりと理性の糸が途切れてしまう。


 そこからは、アロへの遠慮や気遣いもなく、ただ彼女のことがほしいという衝動に従って口の中を強引に犯していく。

 舌を絡めて、アロの身体が反応したところを何度も舌先でなぞり、俺のものであることを分からせるように混ざった唾液を飲ませる。


 少々の満足と、息苦しさから下を動かすのをやめると、アロの小さな舌がつんつんと俺の舌を触る。

 誘う仕草にアロも望んでいるという大義名分を感じ、再び舌を絡ませて、アロが反応する……アロの好きな場所をしつこく弄っていく。


 服をぎゅっと握られたり、抱きしめられたりと、可愛い反応に夢中になっていると、アロが疲れたのかぐったりとしてきていることに気がついて、名残惜しく思いながら唇を離せば白い糸が唇の間に出来る。


 ぷつりと途切れたのを見届けると、アロの口の周りが唾液でベトベトになっていた。


 アロと二人でゆっくりと口の周りを拭く。 アロは赤らんた顔のまま、細い脚をもじもじと擦り合わせながら、俺の顔を見る。


「……ベルクさん、魔力の補充という建前を忘れてます。 ……なんで、僕に飲ませようとするんですか」

「いや……その、なんだ」


 俺のものだと主張しているようで興奮したからだ。 などと、男の性欲を堂々と言えるはずもない。


「……んぅ、困ったひとです」


 アロは少し手を広げて、また目を閉じる。


「……ちゃんとしてくれないと、困るのはベルクさんですからね」


 それから二度ほど、同じことを繰り返してしまい。 眠たくなるまでずっと互いの存在を確かめ合うように、唇を合わせ続けた。

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