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騙る者ども6

 食事を終えた後、また札の作成を行う。


「ベルクって、実際どれぐらい強いの?」

「急になんだ。 ……あの程度の相手になら、遅れは取らないが」

「いや、そうじゃなくて、勇者様に頼られるぐらいならって思ってね」


 大したことはない。 昔馴染みだからだ。 そう答えそうになり、声を飲み込む。


「……まぁ、俺より強い奴は見たことがないな」

「おお、すごい自信家だね。 ……で、実際は?」

「……一対一でニム……勇者と手合わせをすれば、互角程度だろうな。 もっとも、ニムは魔物退治に向いているから実力としてはニムより劣るな」


 強力な魔物を相手にすれば、攻撃の威力も、守りの硬さも足りない。 それ以上に機動力が足らず、避けることが非常に難しい。


「……まぁ小細工ありきでそれだ。 だからこうして、色々と練っているんだがな」

「へー、頑張るね。 描くの手伝おうか?」

「お前はお前の仕事があるんだろう。 術式を書けるぐらい学ぶのは手間だぞ」

「どれぐらいかかるの?」

「アロは数日で出来たが、ニムは身につかなかったな。 ……まぁ必要がなかったのもあるだろうが」


 魔法と符術ならば、遥かに魔法の方が使い勝手がいい。 符術は単純に作成するのに時間と金銭が必要で、咄嗟に取り出すのもある程度の習熟が必要なうえに、事前に用意していたものしか使えない上に、現状だとあまりに威力が低い。 破損すると使えなくなるのも問題だ。


 魔法より優れているところは発動の速さと連続性……それに魔力の消費がないことぐらいだ。


 使用者が多ければ、作るものと使うもので分業することが出来るだろうし、俺の読んだ書物の書かれた国ではそうしているだろう。


「……難しいの?」

「多少な。 理解して書かなければ発動させるものにはならないだろうから、術式を学ぶ必要がある。 それにこれ以外には役に立たないだろうからな」

「うーん、お世話してもらうだけなのは申し訳ないしなぁ」

「それなら、アロの家事の手伝いをしてくれ。 アロの方が忙しいからな」

「あっ、分かった。 任せといて」


 普段使い用の札の作成を切り上げて、吸血鬼の魔法としての特性を活かす方法を考えることにする。


 やはりといっていいか、回復能力の高さが上げられるだろう。 次には日光に対する弱さ……これは魔法の特性というよりかは副作用だ。


 食物から摂取出来る魔力が代わりに魔法に費やされるため、人体に必要な魔力量を下回ってしまい自壊が始まる。 それを吸血鬼の治癒により格好させられる。

 日光により若干の魔法の弱体化が起こると、拮抗が崩れて自壊の方が勝ってしまう。 そのため日光に当たると身体が痛み、弱る。


 対抗策は人間としての魔力を操作して、表面の自壊を防ぐことだ。 あとは単純に日光を避けるか。

 もっと言えば、人としての魔力量を増やせば問題ないだろう。


 吸血鬼の魔法にかかったものが、人としての魔力を増やすには、消化器官による魔力の質の変化を伴わない魔力の摂取、自身と似た魔力を摂取することだ。


 楽な方法では人の血を飲むことだ。 まぁ、血の必要はなく、他の体液や肉でも何でもいい。


 そこで問題になるのは……吸血鬼としての魔力がある状態で人としての魔力を増やして……魔力保有の限界が来ないかだ。

 英雄喰らいを自分にしてしまっては意味がない。


 試す方法はそこまで難しいことではないが……少しばかり、避けたい。 怯えている。


「……アロ、シチ。 少しばかり部屋に籠るが、入って来ないでくれ」


 それだけ言ってから近くに置いていた短剣を手に取り、水で洗ってから研究用の道具を置いた部屋に向かう。

 赤い光は適していないので、夕陽の溢れるカーテンをしっかりと塞ぎ、ランプではなく符術によって光を得る。


 吸血鬼としての魔力は魔力保有量として別であるのかを知るために必要なことは……第一に身体の一部を採取することだ。

 その採取する部位はどこでも構わないが、身体から切り離された状態で吸血鬼としての魔力がどう動くかが分からない。


 例えば斬られて肉片が飛んでも、肉片から再生するようなことはない。 それは肉片ではなく本体の方にのみ吸血鬼としての魔力が宿るように動いているからか、それとも肉片では魔力や術式が足りないからか分からないのだ。

 もしも吸血鬼としての魔力が肉片にないのならば、研究は出来ない。


 問題の切り離された肉片が吸血鬼の魔力を持っているかどうかを知るためには……通常の人体と違うことが分かる部位を切り落とす必要がある。


 つまり……紅くなった瞳だ。


 眼球を抉り出して、紅いままならば吸血鬼としての魔力は切り離された部位にも宿る。 黒く戻れば、宿っていない。


 痛みには慣れているが、自傷行為それも欠損を伴うようなものに慣れはない。 刃を自分の目に向けるのは酷く恐ろしい。


「……俺は、最強だろうが」


 治ることは分かっている。 ここで日和り、分からないまま放置するよりも、分かるようにして対策や改善を練るのは確実に良いだろう。


 ……アロとニムを守るためだ。


 ゆっくりと短剣の刃を目に近づける、 勢いよくやり、脳を傷つけてはならない。 恐ろしくともゆっくりと、痛みがあろうと正確に……抉り出していく。


 痛みに冷や汗が流れ、欠損への忌避感に内臓が不快な動きを繰り返す。 吐きそうになりながら、目の横を突き刺して、まぶたごとくり抜き、手でそれを引き抜く。


 痛みと不快感と吐き気に襲われながら、目を抑えて痛みが引くのを待つ。 抑えた手からこぼれ落ちる血を眺めながら、数分ほど待てば痛みが治まる。 ゆっくりとくり抜いた方の目のみを開けて問題なく見えることを確認して一息吐き出す。


 くり抜いた眼球は血濡れで見れたものではなく、桶に入れた水で軽くさらして洗い、水から取り出す。


 紅い……瞳だった。


「……はは、これだけやって、想定通りの結果か」


 だが、確かめられたことは良かった。 これで研究を進められる。

 容器を用意して、手首の動脈を切って血液を採取する。 すぐに治るので度々切りながら必要な量を取り出し、よくかき混ぜてから現在の魔力保有量を調べるための器具で測定する。


 吸血鬼化する前よりも魔力保有量が多くなっていることが分かり、今度は破砕するまで魔力を込め続ける。


「……やはり、吸血鬼化した魔力も限界に含まれるか」


 吸血鬼の魔力も他の魔力と同じ扱いで良さそうだ。 つまり、吸血鬼化した状態では、人としての魔力は最低限以上には持てないことが分かる。


 残った眼球を見て、試しに魔力を減らしていくと、紅い色が薄れていくのが分かった。

 完全に魔力をなくせば、灰のようになってから空中に消えてしまう。


 ……一応、吸血鬼の魔法を解く目どころはたったか。


 吸血鬼としての魔力の消費をしながら、人としての魔力のみを補充すればいい。 幾ら俺よりも魔力が多いからと、失った分をアロだけではなかなか賄えないだろう。

 ニムと魔力が似てるかは分からないが、膨大な量があるのでゴリ押しで何とかなるか。


 ……治せると分かってしまうと、少しばかり惜しい。 自分だけとは言えど、こんなにも強力な治癒の魔法などそう簡単に身に付けられるとは思えない。


 使い分けが出来れば一番いいが、そう都合良くもいかないだろう。


 吸血鬼化の問題が解決してしまうと、アロとキスをする口実がなくなってしまうのも考えもの……いや、それは何とかなるか。

 必死に頼めばさせてくれそうだ。


 それよりも……部屋が血まみれで酷い惨状である。 一通り布で拭いていくが、血の匂いが取れない。 札を作る際にも飛び散ってしまうので買っていた洗剤を使って落として床は何とかなったが……服に付いた血はどうしようもなさそうだ。


 服は元々布切れのような安いもので済ましているのでどうでもいいが、アロに心配されてしまう。 ……脱いでからすべきだったか。


 どうしたら誤魔化せるかを考えていると、もう日が暮れていて寝るような時間であることに気がつく。


 アロを寝不足にするわけにもいかないので、諦めて見られるしかないか。

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