騙る者ども5
シチを迎えに行き、ついでに彼女の家に寄って荷物だけまとめてから帰る。
少しぐったりとした様子の彼女を見て、労う気も起きずにため息を吐く。
「ベルクも何か疲れてる?」
「……あー、あまりお前とは関係ないんだが……面倒くさい政治を多少は把握しなければならなさそうでな。 気疲れだ」
「うへー、よく分かんないけど頑張ってね」
「……ああ」
アロが料理を作っている間、暇なのでアロの研究結果を読みながら符術用の札を作成していく。
「ベルクって何してる人なの? 勇者様のヒモ?」
「今は無収入だな。 まぁ時期に手配犯の賞金や、傭兵ギルドでの収入、それに商人ギルドで物を取り扱う予定だ」
「手広いね。 ……それは何? 売り物?」
「いや、個人で使う物だ。 魔法に似た効果を発揮出来る道具で、戦闘に用いる」
最近は鍛冶屋にいけていないので投擲具が補充出来ておらず、多少不安が残る。 中級以上の魔物には未だ手も足も出ないことを思うと、戦力が酷く不安だ。
術式を書くための筆を口に咥え、紙をめくるとアロの考案する魔道具の原案が書かれていた。
【英雄喰いの剣】……この魔道具は、魔術【英雄喰らい】をより効率化兼高威力化を目指したものである。 魔術【英雄喰らい】とは、物質が保有可能以上の魔力を持った時に破砕するという特性を利用したものであり、硬度の高いものでも無関係に破壊することの出来る魔術である。 その特性上、素手で触る必要があるなどの欠陥が存在していた。 この【英雄喰いの剣】は人体よりも魔力抵抗力の低い物質を利用することでより早く【英雄喰らい】の魔術を発動させることが出来る。 それに加えて刃で触れるということは魔力を加える部分の面積が少なく、結果として消費魔力の節約にも期待が出来る。
問題……通常の剣とは違った加工や素材が必要であり、強度や錆に不安が残る。 素材ごとの特性の研究不足、どの素材が適しているかが不明。 鍛冶の行える知り合いがおらず現状では実現不能。
「……使えそうだな」
本当に可能かは別として、これが可能であれば、強力な魔物に対しての切り札になり得る。
「やはり、鍛治職人はいるか……」
「んぅ……はい、お茶どうぞ」
「ああ、ありがとう」
「やっぱり、僕とベルクさんの加工では限界がありますから……専属の職人さんがいないと難しいものは多いですね……。 でも、話すのは苦手かもです」
「これを渡せば充分だろう。 それに俺が間に入ったらいい」
雇うのにも金がかかる。 ある程度軌道に乗れば、作ったものを売って儲けることも出来るかもしれないが……先に儲かるものを作る方が先か。
アロは頷いてから料理をしに戻る。
アロの淹れてくれたお茶を飲みながら読み進める。
「……やっぱり、作りやすい消耗品がいいか。 売り物を作るなら」
「難しいこと考えてるね。 成り上がりなんて考えずにふつうに生きたらいいのに」
「そう出来るならそうしている。 ……一人で暮らしていたんだよな?」
「うん、そうだよ」
「不便なこととか、物はないか? どんなことでもいいが」
「んー、不便ってわけじゃないけど。 この家にあるお湯が出るやつはめちゃくちゃ便利だなって思うよ」
あれか……確かにあれは楽だ。 お湯があれば出来ることは多く、身体を拭くのに限らず、食器の洗浄やら何やらと度々使える。
お湯に限らず、水でも井戸から汲むのは面倒で、俺のような魔法があまり使えない人間からすると有用かもしれない。
「……だが、あれも空気中の魔力を使っているからな。 あれ一つなら問題ないが、普及させるとなると……枯渇しかねない」
「枯渇したらダメなの?」
「使えなくなるだろ。 一斉に使えなくなったとなれば、詐欺扱いされかねない」
それこそ、あの異界の中心部に有った龍脈を利用出来れば無制限に使えるが……あれはまともに利用出来るとは思えない。
あの魔力を放出させて空気中に漂っているものを魔道具の燃料として用いるのは、不可能ではない気もするが……。
「……あ……ああ、そういうことか」
「どうしたの?」
「いや、疑問が腑に落ちてな」
あの施設の意味が分からなかったが……あれは、アロの作った魔道具のための施設だったのだろう。
正確には……同系統の仕組みを持つ魔道具を作成した古代人が作ったもので、湧き出てくる魔力を利用して無制限に魔道具を使えるようにしたのだろうことが予測出来る。
確かに非常に便利そうだ。 ……幾らでも、何でも出来る。
無制限に誰でも魔力が使えるならば、例えば灯りもランプではなく魔力のものに変えられる。 食材を冷やして保存するのも、地下室に頼ったものよりも性能が良いものが簡単に作れるだろう。 それどころか室内の温度も調節が可能であり、火を使わなくとも暖かく、風通しを気にせずに涼しくも出来る。
凡庸な俺の発想だとこの程度だが……それだけでもあり得ないほど快適になるだろう。
レイの話を思い返せば、龍脈自体は浅いか深いかでどこにでもある。 ……やろうと思えば……この街を魔力と技術で埋め尽くすことも可能なのかもしれない。
だが、あそこに街はない、滅びている。 理由は分からない。 全く関係のないことかもしれないが、もしかすると魔物をおびき寄せてしまったからかも、あるいはもっと別の理由の可能性もある。
……だが、金は稼げる。
英雄か、あるいは都を滅ぼすか……。
「ベルクさん、ご飯できましたよ」
「……あ、ああ。 ありがとう」
「どうかしました?」
「いや、何でもない。 馬鹿なことを考えていただけだ」
……考えるまでもない。 功を焦り、アロに被害が出るかもしれないことはしてはならない。
龍脈から魔力を組み上げる案は無しだ。 少なくとも安全が保証されなければ。
アロが料理を運んでいるのを見ながら猛省する。 自分自身の性格に嫌気が差す。 あまりにも短絡的で、自制心に欠けている。
アロがいなければ、迷いもせずにやっていただろう。
被害やらは考えずに、ただ早くニムと暮らしたいという考えだけでしてしまっていた。
「……アロがいてよかった」
「んっ、ど、どうしたんですか? 好な物だったんですか?」
「アロの作るものは、どれも好物だ」
照れているアロの身体を引き寄せて、膝の上に乗せて抱き締める。
「べ、ベルクさんっ、シチさんが見てますからっ」
「抱き締めるぐらい、構わないだろう」
「あ、私は気にしないけど、長くなるなら先に食べてていい?」
「ああ、そうしてくれ」
「ああ、じゃないですっ! 離してください、僕たちも食べますよ」
アロに手から逃げられる。 アロはいつもより少しだけ丁寧に祈ったあと、食事を始める。
耳を赤くしながら、俺から目を逸らして食べていて、いつものようにこちらを向いてくれない。
「……悪い、怒らせたか?」
「……他の人が見てる時に、ベタベタされたくないです」
「ああ、悪い。 ……気をつけるから、機嫌を直してくれ」
「……僕が好き好きと言ってるからとといって、好き勝手しちゃダメです。 最近、強引なの多いです」
「ああ、分かった」
アロの頭を撫でようとして避けられる。
「分かってないです。 ……その、触ったりするのは、二人の時にしてください」
「二人の時ならいいんだ……」
シチの言葉をアロは首を横に振って誤魔化そうとする。
「ち、違いますからね! 二人の時ずっと引っ付いてたりしませんからっ!」
「ああ……そうなの、そっか……」
シチに冷めた目でこちらを見られる。
アロ……何で頭がいいのに、そんなに対人が下手なんだ。




