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俺とシャルロッテが襲い昼食を終えたころ、フォレボワ・ギルドの受付嬢がやって来た。
何か緊急事態なのかと、急いで出れば、大量のハト便を抱えていた。プリヘーリヤの返答にしては早すぎるので、普通に手紙だろうと受け取って俺は固まった。
「こレ、全部祝電ダ」
セルフでフリーズしている俺に、受付嬢は簡潔にそう述べると、さっさと立ち去る。
なんの祝電なんて、見なくても、ここ数日を振り返れば分かってしまう。
「あ、これ、私とマルガレーテちゃんのいた孤児院の院長先生からですね」
固まっている俺のところにやって来たシャルロッテがさらっと、爆弾発言をかます。
「は、え?!孤児院って?!」
「私もマルガレーテちゃんもクラウディオさんと似たようなものですよ。両親とも冒険者なので、年中あっちこっち行って帰ってこないんです。ネーベルにはギルド経営の孤児院があって、そういう子も面倒見てくれるんです」
どこも一緒かよ。てか、あの非常識なのはギルド的には普通なんだろうか。
「ほら、こっちに、私とマルガレーテちゃんの両親からの祝電がちゃんとあります」
俺の手をごそごそと探っていたシャルロッテが、目当てのものを見つけて、引っ張り出す。
「ええっと私のところは『孫は四人くらい欲しいです。おじいちゃん、おばあちゃん、孫で夢のPT組ませてください。追伸、娘をお願いします』ってありますね」
「本分と追伸が逆だろ?!つか、祝電ってか、思いっきり欲望さらけだしているだけだろ?!」
「マルガレーテちゃんのところは『これは夢ですか。奇跡ですか。返品はききません』ですね」
「なんでだよ?!あいつ、実の親になにやらかしたんだ?!」
アリスの両親と並ぶ酷さだ。
恐ろしいのは、多分、その両親を薄情と言い切れないぐらいのイロイロがあるところだろうか。
「そうですね。ドブネズミの丸焼きはマルガレーテの両親的にはトラウマになってるみたいです」
「本当になに食ってんだよ?!それはトラウマになる」
「追伸にも『ドブネズミに引かない人がいるとは思っていませんでした』とあります」
「いや、引いてるからな?!」
とりあえず、残りも恐ろしいので、テーブルの上に広げて中身を確認する。
「あ、こっちはあたいの両親だよ。ええっと、『ガタイのいい娘ですので、きっと、なにがあっても貴方を守ってくれることでしょう。どうか、支えてやってください』ってあるよ!!」
「……そうか」
どっから突っ込んで良いのか、それ以前に突っ込みを入れていいのか分からない文面に俺はスルーを選択する。多分、この「ガタイのいい」というのは褒め言葉のはずだ。
「あ、アリスさんのところもありますよ。『何があっても返品はききません。お詫びに。アリスちゃん以外の酒場の食事はタダで構いません。十年後くらいに、アリスちゃんの血統じゃない、しっかりものの孫娘を跡継ぎにください。アリスちゃんの遺伝子をついでない孫娘です。大切なことなので、もう一度言います。アリスちゃんの娘じゃない方の孫娘です』って、あります」
「切実過ぎるってか、それでいいのかよ?!」
ウィンザー夫妻も結構ひどい。それ以上にアリスのこれまでが酷いのだが。
「つか、お前ら、いつの間に、報告してやがるんだ?!」
書類の時点で、退路はふさがれていたが、この祝電の数々を見るに、俺の退路は消し炭にされていたっぽい。
今は人命がかかったギルドの依頼を受けているから良いが、終わったあとは怒涛の孫請求が簡単に予測できる。どうしよう、俺の未来が見えない。
「とりあえず、迷宮行くか」
俺のドレインが炸裂して、第二回の焼肉パーティーが開催されるのは、ほどなくしてだった。




