第64話 条件
「では」
使者の男が静かに言った。
「改めて、条件を詰めさせていただきます」
「はい」
レインはいつも通り頷く。
「……」
カレンは腕を組んだまま、様子を見る。
リリアは静かに聞く姿勢。
ミアは少しだけ緊張している。
「まず」
「安全保障に関する協力ですが――」
「それなんですけど」
レインが、軽く遮った。
「……」
空気が止まる。
「自由でいいなら」
あまりにもあっさりとした声。
「協力は問題ないです」
「……自由?」
「はい」
レインは続ける。
「こちらが“やれる範囲で”」
「“やりたい時に”」
「“やる形”なら」
「いいですよ」
沈黙。
カレンが、ゆっくり笑う。
「……なるほどね」
「完全に主導権取りにきたわね」
「……」
使者の男は、じっとレインを見る。
「それは」
「王国側に決定権がない、という意味でしょうか」
「そうなりますね」
即答だった。
「……」
空気が一段、重くなる。
「通常」
男が言う。
「協力関係とは、相互に義務を負うものです」
「はい」
「ですが、それでは」
「片務的になります」
「そうですね」
レインはあっさり頷く。
「なので」
「嫌ならやめてもらっても大丈夫です」
「……」
沈黙。
カレンが小さく呟く。
「強すぎるのよ」
「交渉になってないわね、これ」
リリアは静かに口を開く。
「理由をお聞きしても?」
「理由ですか?」
レインは少し考えて――
「無理なことは、やりたくないので」
「……」
「あと」
「面倒なので」
「……」
完全に沈黙する場。
ミアが小さく言う。
「分かります!」
「分かるの!?」
カレンが即ツッコミを入れる。
「……」
使者の男は、ゆっくりと息を吐く。
「……正直に申し上げます」
「はい」
「この条件は」
「通常であれば、受け入れられません」
「そうですよね」
「ですが」
視線が、レインに向く。
「ここは、通常ではない」
「……」
「戦力」
「経済」
「人口」
「すべてが、規格外です」
「……」
「無理に縛るより」
「自由にさせた方が、利益が大きい」
「……そう判断するしかない」
カレンが小さく笑う。
「完全に理解したわね」
「はい」
男は静かに頷く。
「では」
「こちらからも条件を提示させていただきます」
「どうぞ」
「王国は」
「この地の独立性を尊重する」
「干渉は最小限」
「強制命令は行わない」
「……」
リリアが目を細める。
「かなり踏み込みましたね」
「はい」
「それだけの価値があると判断しました」
「……」
レインは軽く頷く。
「それなら」
「大丈夫そうですね」
「……決まりね」
カレンが呟く。
「ええ」
リリアも静かに頷く。
交渉は、終わった。
だが。
その形は――
完全に、逆だった。




