第51話 市場
「……これ、もう“場所”じゃないわね」
カレンが呟いた。
「はい」
リリアも頷く。
目の前。
人の流れ。
物の流れ。
声の流れ。
すべてが、一点に集まっている。
「市場、ですね」
仮設だったはずの中央広場。
そこはすでに――
「いらっしゃい! 新鮮な素材だ!」
「こっちは加工済みだ、安いぞ!」
「買い取りもやってるぞー!」
完全に“機能”していた。
「……いつの間にこうなったのよ」
「自然発生です」
リリアが答える。
「人が集まり、物が集まり、取引が始まった結果です」
「……自然って何」
「必然です」
「同じ意味じゃないのよ」
ミアが手を振る。
「すごいです! いっぱい売ってます!」
「ええ」
「しかも」
リリアが周囲を見る。
「価格が安定しています」
「……どういうこと?」
「適正価格に収束しています」
「……そんな簡単に?」
「需要と供給が成立しているためです」
「……」
カレンは少し考える。
「つまり?」
「市場が完成しています」
「……」
「早すぎるでしょ」
その時。
「ちょっといいか?」
マルクが近づいてくる。
「どうしました?」
「通貨の話です」
「……出たわね」
カレンが顔をしかめる。
「何か問題?」
「問題というより」
「規模の話です」
「……嫌な予感しかしないわね」
マルクは静かに続ける。
「取引量が増えすぎています」
「……どれくらい?」
「外の街と同等、あるいはそれ以上です」
「……は?」
「貨幣の流通量も急増しています」
「つまり?」
「ここ単体で、経済圏が成立し始めています」
沈黙。
「……ちょっと待って」
カレンが手を上げる。
「“拠点”よね、ここ」
「はい」
「“村”よね?」
「はい」
「……で?」
「商業都市です」
「……」
カレンは何も言わなかった。
ミアが小さく言う。
「すごいです!」
「すごいけどそうじゃないのよ」
視線を戻す。
人が集まり、物が動き、金が流れる。
止まらない。
「……これ」
カレンがぽつりと呟く。
「もう止まらないわね」
「ええ」
リリアも静かに頷く。
「流れができています」
「……」
レインは、少し離れて見ている。
「いい感じですね」
「その一言で済ませるのやめなさい」
カレンはため息をついた。




