第37話 味
「……これ、全部使えるんですよね?」
ミアが、山のように積まれた食材を見て言った。
昨日収穫したばかりのもの。
新鮮で、量も多い。
「はい」
リリアが頷く。
「状態も非常に良いです」
「むしろ、質が高すぎるくらいですね」
「すごいです!」
ミアの目が輝く。
「じゃあ、料理しましょう!」
「そうですね」
リリアも静かに同意する。
「せっかくですし、環境も整っています」
「……料理ねぇ」
カレンが腕を組む。
「まあ、食事は大事だけど」
「任せてください!」
ミアが元気よく言う。
「私も手伝います」
リリアが続く。
「……二人ともやる気ね」
カレンは少しだけ肩をすくめた。
――拠点の一角。
簡易的な調理スペース。
だが、火も水も問題ない。
「まずは下処理からですね」
リリアが手際よく野菜を切る。
無駄のない動き。
「わあ……」
ミアが見入る。
「すごく綺麗です」
「基本です」
リリアは淡々と答える。
「じゃあ、私はこっちやります!」
ミアも負けじと動き出す。
少しぎこちないが、丁寧だ。
「そのままで大丈夫です」
リリアが軽くフォローする。
「はい!」
そのやり取りを、少し離れた場所から見ているのは――
カレンとレイン。
「……普通ね」
カレンがぽつりと言う。
「そうですね」
レインも頷く。
「いや、あんたの“普通”は信用ならないのよ」
しばらくして。
「できました!」
ミアが元気に声を上げる。
テーブルに並べられた料理。
シンプルだが、見た目は良い。
「……見た目は悪くないわね」
カレンが言う。
「味も大丈夫だと思います」
リリアが静かに言う。
「じゃあ、いただきます!」
ミアが先に手を伸ばす。
一口。
「……!」
動きが止まる。
「どうですか?」
リリアが聞く。
「……おいしいです!」
ぱっと顔が明るくなる。
「本当?」
カレンも一口食べる。
「……」
「……何これ」
驚きが、そのまま声に出る。
「普通の野菜よね?」
「はい」
リリアが答える。
「でも、味が濃い……」
「いや、違うわね」
「ちゃんと“美味しい”って分かる味になってる」
「……?」
ミアが首を傾げる。
「今までって」
カレンが言葉を選ぶ。
「“食べられる”だけだったのよ」
その言葉に、少しだけ静けさが落ちる。
「……あ」
ミアが小さく声を漏らす。
思い出す。
今までの食事。
味は、あった。
でも――
「確かに……」
「これは、ちゃんと“美味しい”です」
リリアが静かに言う。
「素材の質もありますが」
「調理で引き出せています」
「……そんな変わるものなのね」
カレンがもう一口食べる。
「変わりますよ!」
ミアが笑う。
「だって、楽しいですもん!」
「楽しい?」
「はい!」
ミアは頷く。
「作るのも、食べるのも!」
その言葉は、単純で。
でも――
どこか、大事なものだった。
「……悪くないわね」
カレンが小さく言う。
「こういうの」
その頃。
外で様子を見ていた村人たち。
「……何してるんだ?」
漂ってくる匂い。
「いい匂い……」
一人が、思わず近づく。
「……あの」
恐る恐る声をかける。
「よかったら、食べますか?」
ミアがにこっと笑う。
「……いいのか?」
「はい!」
差し出された皿。
一口。
「……」
動きが止まる。
「……なんだ、これ」
「うまい……」
ぽつりと、こぼれる。
「……こんなの、初めて食べた」
その言葉に、周囲の人も集まる。
「本当か?」
「ちょっとくれ」
広がる。
「うまい……」
「なんだこれ……」
ざわめきが、少しずつ変わる。
「……ここ、いいかもしれないな」
誰かが、そう呟いた。




