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『帝国魔導特務録』  作者: 夜櫻 雅織
~ヴォルカ特務官と刻まれた軌跡~

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第16話

「ま、待ってください。待ってくださいよ……? その、魔王(ゲーテ)って言うのは……?」

「……それも《始祖(グルンダー)》だよ。今度は悪魔の……な。」

「じゃ、じゃあ……大賢人達はその流産した子の代わりとして、イリスを……?」

「違うっ!! ……創造主は、生まれてくるはずの子にノルンって名前……あげたかった、って。だから、だから……その子の、妹として……。貴方も、私達の子、だって……!」

「ご、ごめん! そ、そうよね。ごめん、私が悪かったわ。……本当に、ごめんね。」

「……イリス、教えてくれ。それは何の為に投与するもんなんだ?」

「……私の体は、20歳まで生きられない。成長過程でラグナレイズ帝国軍が私の入った培養槽を破壊し、その身体成長の為に必要な研究をしていた大賢人を皆殺しにしてしまった。…………だから、私の身体機能は著しく健常者を下回っている。元々はエスメラルダの身体構造をベースに、グリモワールの脳構造、その他にも多数の大賢人達から少しずつ突出した能力をバランス良く。けれど、可能な限り全て搭載出来るように設計されて……後は、調整する段階で培養槽の外に出された。……………………未調整のまま歪なバランスでつぎはぎに構築された体はその身に搭載され全ての力が暴発し、暴走して内側からじわじわと崩壊していく。それを防ぐ為に……エスメラルダの血を投与して、これを投与して安定化を図る。………………………………――竜人本来の寿命とそれ以上の身体能力に調律して、私達が与えられなかった時を。あの子に与え損なってしまった未来を少しでも長く見てほしいって。」


 あの兵達を虐殺した後、エスメラルダはイリスに言った。

 「命に代替なんてありえない」と。「貴方は貴方、ただ子供を諦めきれなかった私達が創り出した……もう1人の家族なの」と。……その上で、こんな悲惨な状況に巻き込んでしまって申し訳ないと。


 急ぎ、今出来るイリスの身体調律を行いながらグリモワールはイリスに言った。

 「俺達の都合で創り出しておいて、まともに面倒を見切らない状態で独りにする事になってすまない」と。「願わくば、誰の魔の手も届かないような何処か遠い所で自分達の事を忘れて、あの子の分も。自分達以上に幸せになってほしい」と。……その上で、何も与えられなくて申し訳ないと。


 付け焼刃ではあるが、追加機能としてイリスの脳へ直接自らがこれまで培った経験や記憶を。……エスメラルダとグリモワールを庇って無数の銃弾を受けてしまった事により、大量に出血しながらもそれを流し込むミネルヴァはイリスに言った。

 「あの2人のもう1人の子の君に、もっとちゃんと色んな事を教えたかった」と。「これから先、何があっても信じる相手は決して間違えるな」と。……その上で、間に合ってくれてありがとうと。


 あれが作り物だっただなんて……私は、絶対に思わない。


 もしも本当にあれが全て作り物なのであれば、それこそミネルヴァなんてイリスにこれから生きる術を与えるなんて馬鹿な真似をしないで、傷を防げば良かったのに。それだけの力は、彼にあったはずなのにその力を使ってイリスに自分の全てを明け渡した。

 別に、イリスは義務で生きている訳ではない。彼らが望んだから生きているのもあるが、それ以上に


「……………………私は、あの人達に報いたい。エスメラルダ達を、ちゃんと……理解、したいだけなのに。」


 与えられた記憶で彼らを知ったつもりにはなりたくない。与えられた知識で何かを学んだつもりにはなりたくない。彼らがいつだってそうだったように、可能な限り自分の中にある物が自分で掴んだ物にしたい。

 その為に時間が必要だからずっとこれを、このカプセルを……アンプルを探していた。それでも見つからなくて、ずっと焦って、けれど特務官という立場上、アウレリウス帝国から少しだけ離れる良い口実が見つからなくてずっと怖かった。


 あの人達を、あの人達が最期に創り出した私が、このままじゃあの人達を偽物にしてしまう。


 あの人達は、決してクローンを作ったんじゃない。代替ではなく、新しい生命であるホムンクルスを創ったんだ。道具や代替、兵士なんかじゃない。――新たな種族として。

 ……なのに、


「なのに……なのに、何でどいつもこいつも大賢人を、あの人達をただの狂人や研究狂いの異常者扱いしてるのか答えろオリジナル共!! あの人達は……あの人達はいつだって、現状をより良くしようとして沢山の物を研究して、作り出して、時に失敗して、それでもめげずに頑張って、頑張り続けてるのにどいつもこいつも簡単に搾取して、真似して喜んで、何で自力で努力する事が出来ない奴に限って幸せそうなのは何なんだ……!! 勝手に活用して、あの人達の技術を発見して“第一発見者だ!”って喜んで……。――お前らはただ、あの人達の技術を盗んで自分がやり遂げた気になってるだけだろうが。」


 ラグナレイズ帝国は、そんな国だった。アウレリウス帝国だって、そう。特務局、基特務官達が当事者となって頑張って作り出した物を量産させて、それを活用しているだけなのにアウレリウス帝国が凄いと世間は褒める。

 本当に頑張ったのは、見つけ出したのはアウレリウス帝国じゃなくて特務官個人なのに。魔導科学だって、そう。元はエスメラルダが造り出したのに、そこに何かをプラスして拡張しただけの奴らが「これは自分が作った作品だ」と宣う。


 お前らはただ、既にあった物を侵害して。勝手に拡張して頑張った気になってるだけの屑の癖に……!!


 息が苦しくて、胸が痛くて、呼吸が荒れると共に視界がどんどんぼやけて頬を冷たい物が伝う。止める事も出来なくて、そもそも止める必要も分からず、拭う気にもなれなくて全部落ちて太ももが冷たくなる。

 ……そんな視界に、驚いた顔や傷付いた顔のノア達が見えて余計に涙が止まらない。


「お前らなんて、オリジナルなんて全部全部、大ッ嫌いだぁッ……!!」

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