第2章:「・・・とりあえず、一杯やんなよ。」
某・正月特番の歴史大河ドラマよりの・・・
土方歳三と榎本武揚の会話です。
新選組副長として、
数々の乱戦を、明治新政府軍と繰り広げてきた土方。
・・・たどりついた北の大地、
北海道は箱館(= 現・函館)の五稜郭での、
ふたりの『サムライ』の熱き対話です。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
【土方歳三 VS 榎本武揚】
五稜郭の『総裁室』にて
榎本:「・・・君と大鳥は愉快だね。顔を合わせるたびに、いつでもいがみあっている。」
土方:「総裁には申し訳ないが、あの男は・・・」
榎本:「まぁ、そう言うな。大鳥は、君がいつでも自分には思いもよらない戦をして勝ちを収めているんで、やっかんでいるんだよ。
あれも、根っからの『戦好き』なんでね。」
土方:「勝ち方に『決まり』なんてない。」
榎本:「・・・そのとおり。ま、君と大鳥がいてくれたおかげで、わが軍勢はいままでやってこられた。
はっきりいって、ニッポンでは『最強の軍隊』だよ。」
土方:「最強の軍隊・・・?」
榎本:「・・・私は本気でそう思っている。
あとは『天気』さえ味方してくれていれば、こんなことにはならなかった。」
(榎本、グラスに赤ワインを注ぐ)
土方:「・・・総裁。あんたに話がある。」
榎本:「君とはね、土方君。一度、膝を交えて話がしたかったんだ。
なんせ、われわれが催す宴には・・・なかなか顔を見せてくれないからね。」
土方:「酒はひとりで飲むもんだと思っていますんで。」
(榎本、さきほど注いだ赤ワインを、土方に勧める)
土方:「・・・けっこうです。」
榎本:「付き合いなさいよ。」
土方:「西洋の酒はやらない。」
榎本:「・・・はじめはノドに突き刺さるが、やがてはクセになるよ。」
土方:「どうぞ。(= いえ、いりませんので)」
榎本:「(サンドウィッチを出して)では、これを。
・・・知っていますか。
向こう( 西洋)では、この『西洋かるた』(= トランプ)が大流行りで・・・かるたをしながら、片手で食べられる食べ物はないかというんで、これが発明されたらしい。
実に『西洋人らしい考え方』だと思わないかね・・・?」
土方:「ニッポンには『握り飯』がある。
・・・俺には、そっちのほうがよっぽど食べやすい。」
榎本:「ま、腹がすいたら、おあがんなさい。
ふっ。君は、実に面白い男だな・・・土方君。」
土方:「どこが?」
榎本:「西洋の文化に対して、かなりの『偏見』をお持ちのようだ。」
土方:「俺は、西洋が嫌いなんじゃない。
『西洋かぶれ』が嫌いなだけだ。」
榎本:「しかし、そういう君は・・・いま、どんな格好をしている?
新選組の中で、誰よりも早く『髷』を落とし、着物を捨てた、と聞いていた。」
土方:「洋風にしたのは、そっちのほうが便利だからだ。
・・・戦のときは、着物よりはるかに動きやすい。」
(ここで榎本、土方の洋風のヘアスタイルを、まじまじと見つめてみせる)
土方「・・・『髷』ほど、手入れに面倒なものはない。」
榎本:「たしかに。」
土方:「俺は『ムダ』が嫌いなだけだ。」
榎本:「・・・だからそれが、『西洋流の考え方』だと私は言っているんだがね。
つまり、私と君は・・・『似たものどうし』というわけだ。」
土方:「・・・冗談じゃない。」
榎本:「君はイヤかもしれないが・・・わたしらは似ているのさ。」
土方:「(榎本の口髭を見て)その鼻の下に生えてるもんはなんだ・・・?」
榎本:「これが・・・?」
土方:「その西洋かぶれの『とんがった髭』を手入れするのに、どれだけの手間を毎日かけてる?」
榎本:「・・・好きでやってるんだから、いいだろう。」
土方:「『無駄のない西洋流』が、聞いてあきれるぜ。」
榎本:「カタチから入るのも、大事だということだ。」
土方:「あんたは『西洋のカタチ』ばかりをまねる。俺は『理にかなったこと』だけを受け入れる。
俺とあんたでは・・・申し訳ないが、まるでちがう。」
榎本:「まぁ、いいや。
(椅子に座って、サンドウィッチをパクつきながら)うまいよ。」
土方:「・・・なぜ、(明治新政府軍に)降伏する。」
榎本:「降伏を申し出るのも、『ひとつの策』だ。」
土方:「降伏の先には何もない。
すぐに取り下げてもらいたい。」
榎本:「・・・できない相談だ。」
土方:「ならば仕方がない。」
(土方、剣を抜く)
榎本:「斬りたきゃ、斬るがいいさ。
しかし、その前に聞かせてくれ。
・・・私を斬って、どうする?」
土方:「これからは、俺が全軍の指揮をとる。」
榎本:「・・・他の者が言うことをきくかね?」
土方:「説得してみせる。」
榎本:「悪いが、そりゃ、無理だね。
あんたは、この部屋を出たところで捕まるよ。」
土方:「そのときは・・・その場で腹を切る。」
榎本:「そうきたか。」
(剣の先を榎本に突きつけながら)
土方:「・・・俺は本気だ。」
榎本:「だとすれば、そいつはちょっと困るな。
私はまったくの『無駄死に』ってことになる。」
土方:「・・・そういうことだ。」
榎本:「申し訳ないが・・・君と同じで、私も『ムダ』が大っ嫌いでね。
さっきの言葉は取り下げることにしよう。
私を斬るのはよしなさい。
・・・そんな馬鹿なマネはやめて、すぐにこの刀をしまいたまえ。」
(土方、しつこく剣を差し向ける)
榎本:「どうしても『降伏』しないというんだな・・・?」
土方:「ああ。」
榎本:「では、どうする?」
土方:「・・・戦はまだ、終わったわけじゃない。俺たちに勝機は残ってる。」
榎本:「勝てるというのか。」
土方:「俺に百人の兵をあずけてくれ。
かならず形勢をひっくり返してみせる。」
榎本:「・・・それは無理だ。」
土方:「なぜだ。」
榎本:「・・・なぜだか教えてやろうか。
そりゃあな、おまえさんにはハナから『勝つ気』なんて、まるでねぇからだよ。」
土方:「そんなことはない。」
榎本:「クチでは強気なことを言っているが、この戦・・・すでに勝敗が決まっているということを一番よく知っているのは、誰よりも『勝ち方』を知っている土方さんだ。
・・・あんた、死にたいんだろう?
一日もはやく、戦でさ。
いろいろ『ごたく』を並べちゃいるが・・・要は、『死に場所』を求めているだけだ。
・・・そんな物騒なヤツに、俺の兵をあずけられるか!!
わかってくれよ。もうこれ以上、無駄な死者は出したかねぇんだ・・・。」
土方:「なにがなんでも降伏する気か。」
榎本:「・・・なにがなんでも、だ。」
(ふたたび土方、剣先を榎本に突きつける)
土方:「俺はこれまで、薩長相手に戦い続けてきた。
いまさらあいつらに、頭を下げる気はない!!」
榎本:「・・・わからねぇ男だな。
言っておくが、俺だって、命がおしいわけじゃねぇ。
あんたに斬られなくても、明日のいまごろは・・・腹を切っている。
・・・私の命とひきかえに、皆を救ってもらうつもりでいる。」
土方:「うそをつけ。」
榎本:「うそじゃねえ。
こう見えても、俺だってサムライだよ。
あんたも本気のようだが・・・私だって本気なんだ。
・・・だから、そいつをおさめてくれねぇか。」
土方:「(剣をおさめて)
・・・兵はいらん。
だったら、俺一人、斬り込ませてくれ。
俺が死んだあとで降伏すりゃいい。」
榎本:「・・・悪いが、そいつもできねぇな。」
土方:「なぜだ。」
榎本:「私は決めたんだよ、土方君。
もう、これ以上・・・私以外の誰ひとりも、死なせやしないってね。」
土方:「だったら俺は、どうすればいい!?」
榎本:「どうするかねぇ・・・んーーー。
そうだな。
・・・とりあえず、一杯やんなよ。
知らねえものは、一度は試しておかねぇと・・・『了見』をせまくするよ。」
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参考動画:
『Хидзиката - Эномото』
→ UP主様は、「L178422」様。




