第1章:「龍馬はのぉ・・・」
・・・明治15年(1882年)。
某・パーティー会場にて。
司会者:「えー、みなさま。本日は、おいそがしい中、お集りいただき・・・誠にありがとうございます。
ではさっそく、『郵便汽船三菱社長』、岩崎弥太郎より、ご挨拶がございます。」
(パチパチパチパチ・・・)
弥太郎:「・・・わしゃぁ、土佐の『地下浪人』の家に生まれたがです。
貧しい『ボロ屋』でしてのぉ・・・。
それはもう・・・地べたを這いずり回るような暮らしでしたき。
・・・それがいまこうして、これだけの皆様を我が家にお招きできるようになるとは・・・
まっこと、感無量であります!」
(パチパチパチパチ・・・)
ここで、会場に忍び込んだ『賊』が、キラリと短刀を抜きます。
会場の女性客:「きゃーーー!!」
賊:「・・・政治家と結託し、私腹を肥やす国賊め!
・・・岩崎弥太郎、天誅くだす!!
やっぞぉぉおお!!」
(弥太郎に刃を向けて突進するも、賊はあっさりと取り押さえられる)
弥太郎:「(賊に向けて)わしゃぁのぉ! 国のために働いてきたがじゃ!
岩崎弥太郎を『国賊よばわり』するとは・・・許せん!!」
(弥太郎、憤然として、会場を出て、隣室へ)
そこには、新聞記者の男が、ひとり、弥太郎を待っていた。
坂崎記者:「・・・土陽新聞の坂崎と申します。今日は、お忙しいところを、申し訳ありません。
三菱をつくられた、岩崎社長にお会いできて、大変、感激しちょります。」
弥太郎:「土佐から、わざわざ来られたがか・・・?」
坂崎記者:「はっ。」
弥太郎:「・・・取材は大歓迎。」
坂崎記者:「ありがとうございます。実は・・・岩崎さんに、『ある人物』について、お伺いしたいと・・・。」
弥太郎:「商売の宣伝なら、取材を受けても、意味がないがじゃ。」
坂崎記者「お手間は取らせませんき。」
弥太郎:「そんなヒマはない。」
坂崎記者:「・・・『坂本龍馬』という名を、ご存じですか?」
弥太郎:「(煙草を吸いかけて)なに・・・?」
坂崎記者:「・・・『龍』に『馬』と書いて、『坂本龍馬』。岩崎社長と同じ、土佐出身の人物です。
・・・15年前、徳川幕府を倒したがは、実は、坂本龍馬という、一介の『浪士』やった。
それだけじゃありません。
明治政府の枠組みをつくったがも・・・実は、坂本龍馬。
ほんで・・・坂本龍馬がおらんかったら、岩崎弥太郎は、『三菱』をつくっちょらんかった・・・。」
弥太郎:「(かすかに微笑んで、坂崎記者を見つめながら)おんし・・・龍馬を調べて、どうするがぜよ。」
坂崎記者:「・・・ぼくが聞いた話が本当やったら、大変な人物やないですか!
けんど・・・そんな人がおったとは、いまは誰も知らんがです。
・・・教えてください、岩崎社長。
『坂本龍馬』とはいったい・・・どんな人物やったがですか・・・!?」
弥太郎:「龍馬はのぉ・・・わしがこの世で・・・いちばん嫌いな男やった!」
坂崎記者:「(怪訝な表情で)・・・?」
弥太郎:「あんな『能天気』で! 自分勝手で! 『人たらし』で! おなごに好かれて!!
あればぁ、腹の立つ男は・・・どこにもおらんがじゃき!!」
(弥太郎、目にかすかに涙を浮かべながら、かつての盟友である龍馬をなつかしむかのように、坂崎記者に歯を見せて笑う)
弥太郎:「か・・・かっかっかっか・・・」




