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神隠しと鬼の姫  作者: 紫音
第二章 妖の國

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閑話 友の変化


「そういえば菖蒲さん、最近はあまり藍と一緒にいないって綺羅たちが言っていたけど、本当なの?」

「はい」

「どうしてか聞いていい?」


 菖蒲は藍を見つければ即座に駆け寄る。特に用事があるというわけではないけれど、今日はどうだったのかを確認し、そのまま二人で藍の部屋に消えることが多かった。それが今は違う。藍の傍に駆け寄りはするものの、そこで別れる。部屋まで一緒に行くことが減った。意図的であることは明らかだが、その真意が測りかねる。


「どうして、ですか」

「だってこれまでとは明らかに違うもの」

「……加奈に色々と教えていただいて、その中で私も学ばせていただきました」

「私の?」

「はい」


 加奈の話を聞いて学んだ。加奈が菖蒲に話をしたことといえば、現世での学校のこと。藍がどういう風に学校では見られていたのかということ。友人関係はよくわからないけれど、先輩にも目を掛けられいて、後輩からも慕われていた。女子といる姿はほとんど見かけなかったけれど、交友関係はそれなりに広かったのではと加奈は見ている。

 ただ女子は遠目に見ている子はそれなりにいたし、藍は容貌も相まって人気があった。手紙での告白は確実にフラれる。もしかしたら読まれてもいないかもしれない。呼びだしても来ない。一番いいのは待ち伏せだ。だがそれも上手く呼び止めたところで、秒でフラれることもあるため確実ではない。

 こんな話から何を学ぶというのだろう。


「私は恋というものがどういうものかを考えました」

「え?」

「最初に私が藍を求めたのは、姫としての直感と霊力を持っているというメリットです。それ以外については全く考えていませんでした。きっとそれはとても失礼なことなのでしょう。続かないと、そう教えてくれたのは加奈ですよ」

「うん」


 それが妖なのだからと、加奈は納得していた。彼らに恋情はない。妖は恋をしない。生きるために、強くなるために求める。人間でいうところの好意を求めるベクトルが、強さに置き換わっているだけなのだと。

 でもそれはあくまで妖側の意見、思考だ。人間である藍と加奈には合わない。いずれほころびが生じるかもしれないし、生じないかもしれない。ただ、加奈からみて歪だなとは感じていた。藍が何も言わないし、聞いたところで明確な答えは得られないからこそ余計に。


「藍の力が欲しい。藍との子どもが欲しいというのは、私の鬼としての本能です。できるならば、今すぐにでも婚儀を執り行い、契りを交わしたいと思っているのも本当です」

「う、うん」


 色々と直情的なところは、やはり妖だ。しかも菖蒲には一切の照れもなければ羞恥もない。何故ならばそれが当たり前だから。


「……でも私は藍に嫌われたくはないのです」

「そう、なんだ」

「藍はきっとそういうものだから、選ばれてしまったから仕方ないと思っていることでしょう。そういう立場に追いやっておきながらとは思います」

「そうだね」


 それも当然だと思う。事実、藍は仕方ないと思っているからこそ、菖蒲には何も言わない。何をされても、何を言われても受け入れる。


「前に加奈も言っていました。押してダメなら退くこともありだと」

「……まさかとは思うけれど、それで?」

「はい。押し続けても、嫌われてしまえば意味はありません。嫌々婚儀を行いたくはありませんし」


 まさかの結果だった。加奈の言葉をそのままに受け止めている。直情的な妖だからこそなのだろう。素直に受け取りすぎている。しかし、それでいくと原因の一つは加奈ということになってしまうのではないか。


『まさかとは思いますが、姫様は藍様と仲違いでも……』


 そんな不安を抱いている者たちが周囲にどれだけいると思っているのだろうか。自分の影響力を理解している者とは思えないけれど、それもまた初めての恋に必死だと思えば可愛らしいものだ。


「つまり、菖蒲さんは藍くんに恋しているということで合ってる? だから好きになってもらいたい。距離を置くことで、寂しいと思ってほしいっていうことかな?」

「その通りですが……いけませんでしたか?」

「いけないというか……たぶん、気にしすぎだと思う」


 変に意識しすぎて、それが返って違和感を与えている。加奈はそういうつもりで菖蒲に話をしたわけではない。ただ……。


「私はね、菖蒲さんが藍くんに対して、鬼としてとか色々と理由をつけなくても、ただ傍にいてもらえる関係を築けるならそれがいいって思っただけ」

「理由がなくても?」

「そう。本能とは別のところで、菖蒲さんが藍くんに惹かれているのはわかっていた。だから自覚をしてほしかったのよ」


 そしてそれを藍に伝えてほしかった。どれだけ真摯に対応してくれようとも、その根底にあるのが鬼として利用価値があるから、というだけではいつか疲れてしまう日が来る。妖である菖蒲たちに、人間としての感情や結婚論を押し付けても無意味かもしれない。でも知ってほしかった。


「……翡翠さんが言っていた。もしかしたら私たちが狭間の世界に巻き込まれたのは、藍くんが菖蒲さんが望む力を持っていたからかもしれないって。狭間の世界に残る始祖様の魂ならば有り得ることだって」

「それは……」

「うん、菖蒲さんも気づいてたよね」


 菖蒲は答えなかった。その態度こそが答えだ。他のみんなは離れていたからこそ巻き込まれなかった。でも藍と共に居た加奈たちはそれに巻き込まれた。藍の傍にいたからだ。

 この事実を卓也たちは知らない。藍が知っているかはわからないけれど、それでも加奈は別に藍を責めるつもりはなかった。一人で藍が巻き込まれていなくて良かったと、今でも思っている。きっと卓也たちが知ったとしても、同じことを言うはずだ。何故ならば、それは藍自身の所為ではないのだから。


「だからこそ、私はこの世界でも幸せを見つける。同じように藍くんにも、諦めたままで過ごしてほしくない」

「……加奈」

「妖であっても人であっても、分かり合える。かつては現世もそうだったんでしょ?」

「えぇ……その通りです」


 かつてといっても千年以上前の話らしいけれども、今の藍と加奈、そして菖蒲たちが分かり合えないはずがない。加奈の言葉に菖蒲は強く頷いてくれた。




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